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泉 -Spring-  作者: zaku
12/30

暑さのせい

 「あっつーい…」

 泉は下敷きを団扇がわりに扇いだ。

 一応、教室は冷暖房完備なのだが、快適というには程遠い。

 「ねぇ、かき氷食べに行かない?」

 リカが後ろの席から泉と明日香に声をかけた。

 「行く行く」

 明日から楽しい夏休み。

 ただし、部活さえなければの話だが。

 始業式や終業式、入学式などの行事のある日は部活はない。

 詳しい事情はわからないが、先生たちも何かと忙しいのだろう。

 いずれにせよ、泉たちにとってありがたいことにかわりはない。

 「麻衣も誘ってくるね」

 リカが麻衣の席に向かおうとしたとき、泉は麻衣の様子に少し違和感を感じた。

 「ちょっと待って。麻衣、なんか変じゃない?」

 三人は麻衣のところへ行った。

 顔色が悪い。

 「麻衣、大丈夫?」

 泉が声をかける。

 「うん…大丈夫…」

 すごい汗だ。

 「私、太田先生呼んでくる」

 リカが職員室に走った。

 「フチ子どうした?」

 優太だ。

 「蒼井くん…」

 泉は思わず一歩下がった。

 リカが太田先生を連れて戻ってきた。

 教室が少しざわつく。

 「増渕さん?大丈夫?」

 「はい…」

 麻衣は弱々しくうなずいた。

 「たぶん貧血だと思います。たまにあるんですよ。この暑さのせいかもしれない…」

 優太が下敷きで扇ぎながら代りに答えた。

 「優ちゃん…ありがと…」

 少し落ち着いてから、太田先生が麻衣を家まで送って行った。

 一学期最後のホームルームは、副担任の先生が行った。


 「麻衣、大丈夫かなぁ…」

 「蒼井くんは貧血とか言ってたけど…」

 三人はまだバス停にいた。

 麻衣のことが心配でかき氷どころではなくなったのだが、かといってこのまま家に帰る気にもなれない。

 「泉、蒼井くんに電話してみたら?」

 唐突に明日香が言った。

 「何で私が?」

 泉はドキッとした。

 「番号、知ってるでしょ?」

 優太の番号は、緊急連絡用のバスケ部のグループLINEに入っている。

 「知ってるけど…明日香だって知ってるでしょ?」

 「え?私知らないよ。ねぇ、リカ?」

 明日香はとぼけて言った。

 「うん。私も知らない」

 リカも同調した。

 「ほら。早く電話しなよ」

 あんたたち、覚えてなさいよ―

 泉は観念して、携帯の優太の名前を選ぶと発信ボタンを押した。

 呼び出し音が鳴る。

 ドキドキする。

 「もしもし…」

 優太の声に、一瞬息が止まる。

 「あ、もしもし、蒼井くん…?」

 緊張で声が震える。

 「あの…麻衣は…?」

 携帯をあてた耳が熱い。

 「うん…よかった。ありがと」

 泉は電話を切ると明日香とリカを見た。

 「麻衣、どうだった?」

 明日香が心配そうに泉に聞いた。

 「やっぱりただの貧血だって。大したことないって」

 「よかったぁ」

 リカも安心したように笑顔を見せた。

 「ねぇ、かき氷いつ行く?」

 「麻衣がいるときにしようよ」

 「じゃあ、麻衣の快気祝いで」

 泉はまだドキドキしていた。

 手のひらにうっすらかいた汗は、夏の暑さのせいじゃなかった。



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