二人の姿
マネージャーの仕事は大変だ。
練習の準備や後片付けの手伝い、練習中の部員のサポートはもちろん、それ以外にも、日々の練習メニューやミーティングの内容を毎日記録しなければならないなど、とにかくやらなければならないことが山ほどある。
泉は、少し前までは絶対にマネージャーの方が自分には向いていると思っていた。
しかし、毎日麻衣を見ているうちに、次第にその大変さと、自分の考えの甘さがわかってきた。
だから余計に頑張り屋の麻衣の体のことが心配になった。
練習が終わると「大丈夫?」と麻衣に声をかけるのが、いつしか泉の日課のようになっていた。
太田先生も三年生のマネージャーも麻衣の体のことは承知しているので、もちろん配慮はされているのだが、心配性の泉は気になって仕方なかった。
今日も練習が終わると、泉は麻衣に声をかけた。
「大丈夫。いつもありがと」
麻衣の笑顔を見ると安心する。
麻衣の手伝い、何かできないかな―
一生懸命マネージャーの仕事に取り組む麻衣の横顔を見ながら、泉はそんなことを考えていた。
五月も終わりに近づくころ、インターハイの予選が始まった。
泉と明日香にとっても、公式の大会は初めてだ。
自分が試合に出るわけでもないのに、泉はなんだかワクワクしていた。
もちろん、リカがベンチ入りメンバーに入っているからだ。
泉と明日香は他の一年生部員と一緒にスタンド席に並んだ。
コートには緊張した面持ちで試合前のアップをしているリカ。
「リカ!頑張って!」
明日香がリカに呼びかけるが、聞こえていないのか反応がない。
「緊張してるのかなぁ」
明日香が呟いた。
「そりゃそうだよ…」
泉はコートを見つめたまま言った。
そこへ荷物を抱えて麻衣がやってきた。
「麻衣、どうしたの?」
「マネージャーはベンチじゃないの?」
麻衣は明日香の隣に座った。
「ベンチに入れるマネージャーは一人だから、私はこっち」
麻衣はそう言って何やら準備を始めた。
見たことのない様式の表のような紙と筆記用具。
「何それ?」
明日香が尋ねた。
「これ?スコアシート」
麻衣は泉と明日香に丁寧に説明を始めた。
「あのね、ここにメンバーの名前と背番号を書いて、試合を見ながら誰が得点入れたとか、誰がファウルしたとかいろいろ書き込んでいくの」
「へぇ…難しそう…」
明日香は感心したように言った。
「慣れたらそうでもないよ。でもこれ書いてたら応援できないから、リカの応援は二人に任せる」
麻衣はニコッと笑った。
「あっ。始まるよ」
中学のときも何度かリカの試合を観に行ったことはあるが、こんなに集中して試合を観るのは初めてかもしれない。
試合中、コートに目をやりながら、泉はときどき麻衣の方を見た。
麻衣は真剣な顔で試合を見ながら、スコアシートに書き込んでいた。
試合は、あっけなく大差で敗れた。
リカは途中で試合に出たが、あまり長くは出してもらえず、試合終了の瞬間とても悔しそうな表情を見せた。
リカと麻衣。
バスケに真剣に向き合う二人の姿は、泉の目にはとてもカッコよく映った。




