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泉 -Spring-  作者: zaku
11/30

二人の姿

 マネージャーの仕事は大変だ。

 練習の準備や後片付けの手伝い、練習中の部員のサポートはもちろん、それ以外にも、日々の練習メニューやミーティングの内容を毎日記録しなければならないなど、とにかくやらなければならないことが山ほどある。

 泉は、少し前までは絶対にマネージャーの方が自分には向いていると思っていた。

 しかし、毎日麻衣を見ているうちに、次第にその大変さと、自分の考えの甘さがわかってきた。

 だから余計に頑張り屋の麻衣の体のことが心配になった。

 練習が終わると「大丈夫?」と麻衣に声をかけるのが、いつしか泉の日課のようになっていた。

 太田先生も三年生のマネージャーも麻衣の体のことは承知しているので、もちろん配慮はされているのだが、心配性の泉は気になって仕方なかった。

 今日も練習が終わると、泉は麻衣に声をかけた。

 「大丈夫。いつもありがと」

 麻衣の笑顔を見ると安心する。

 麻衣の手伝い、何かできないかな―

 一生懸命マネージャーの仕事に取り組む麻衣の横顔を見ながら、泉はそんなことを考えていた。


 五月も終わりに近づくころ、インターハイの予選が始まった。

 泉と明日香にとっても、公式の大会は初めてだ。

 自分が試合に出るわけでもないのに、泉はなんだかワクワクしていた。

 もちろん、リカがベンチ入りメンバーに入っているからだ。

 泉と明日香は他の一年生部員と一緒にスタンド席に並んだ。

 コートには緊張した面持ちで試合前のアップをしているリカ。

 「リカ!頑張って!」

 明日香がリカに呼びかけるが、聞こえていないのか反応がない。

 「緊張してるのかなぁ」

 明日香が呟いた。

 「そりゃそうだよ…」

 泉はコートを見つめたまま言った。

 そこへ荷物を抱えて麻衣がやってきた。

 「麻衣、どうしたの?」

 「マネージャーはベンチじゃないの?」

 麻衣は明日香の隣に座った。

 「ベンチに入れるマネージャーは一人だから、私はこっち」

 麻衣はそう言って何やら準備を始めた。

 見たことのない様式の表のような紙と筆記用具。

 「何それ?」

 明日香が尋ねた。

 「これ?スコアシート」

 麻衣は泉と明日香に丁寧に説明を始めた。

 「あのね、ここにメンバーの名前と背番号を書いて、試合を見ながら誰が得点入れたとか、誰がファウルしたとかいろいろ書き込んでいくの」

 「へぇ…難しそう…」

 明日香は感心したように言った。

 「慣れたらそうでもないよ。でもこれ書いてたら応援できないから、リカの応援は二人に任せる」

 麻衣はニコッと笑った。

 「あっ。始まるよ」


 中学のときも何度かリカの試合を観に行ったことはあるが、こんなに集中して試合を観るのは初めてかもしれない。

 試合中、コートに目をやりながら、泉はときどき麻衣の方を見た。

 麻衣は真剣な顔で試合を見ながら、スコアシートに書き込んでいた。

 試合は、あっけなく大差で敗れた。

 リカは途中で試合に出たが、あまり長くは出してもらえず、試合終了の瞬間とても悔しそうな表情を見せた。

 リカと麻衣。

 バスケに真剣に向き合う二人の姿は、泉の目にはとてもカッコよく映った。



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