フチ子と優ちゃん
「リカ、おめでとう」
四人はいつものパンケーキの店にいた。
「ありがとう」
リカはとても嬉しそうだ。
「まさかリカが選ばれるとはねぇ」
明日香がわざと偉そうに言った。
「うちのバスケ部も終わったな」
腕組みをした泉が続いた。
「はいはい。何とでも言いなさい」
リカが得意げにうなずきながら言った。
みんな笑った。
今朝、リカが三人を誘ったパンケーキは、自らのお祝い会となった。
「でも、リカ本当にすごいよ」
「ありがと…」
麻衣の一言にリカの目が潤んだ。
「さっ、食べよ」
リカは目を真っ赤にして笑顔で言った。
「そういえば、何で4番からなの?」
明日香がリカに言った。
「明日香、そんなことも知らないの?」
リカは呆れ顔だ。
「あのね…」
リカのミニ勉強会が始まった。
「へぇ…そうなんだ…」
泉も明日香も知らないことだらけだった。
「ところでさぁ…」
一通り説明を終えたリカが、麻衣に向かって言った。
「麻衣と蒼井くんって付き合ってんの?」
明日香は思わず泉を見た。
泉は慌てて視線を逸らした。
「どうして?」
麻衣は驚いた顔でリカを見た。
「いや…何となく…」
リカは言葉を濁した。
「何となく」でそんなこと聞くな。
リカのバカ―
泉は思わずリカの方に視線を向けた。
「双子なの」
えっ?
三人は麻衣を見た。
「二卵性双生児。似てないでしょ?」
予想もしない麻衣の告白。
「えっ?何?どういうこと?」
明日香は目を丸くして麻衣の顔を見た。
「私がお姉ちゃんで優ちゃんが弟」
「でも名字が…」
「明日香!」
泉は何かを察知したかのように、首を小さく横に振りながら明日香の言葉を遮った。
「いいの。気にしないで」
麻衣は続けた。
「私たちが小学校の三年生のときに、両親が離婚しちゃって…」
五歳のときに心臓の手術をしたことや、その後両親が離婚したこと。麻衣が母親に、優太が父親に引き取られたこと。
そのころから、優太が麻衣のことを「フチ子」と呼ぶようになったこと。
麻衣はすべてを話してくれた。
「中学までの友達はみんな知ってることだから。それに三人にはいつか話さなきゃって思ってたの」
麻衣は少し安心したような表情を見せた。
「そうなんだ…」
泉はそれ以上言葉が見つからなかった。
「大人ってわかんないよね」
麻衣が言った。
「離婚して別々に暮らしてるけど、家も近くで今でも仲良しだし、たまに四人でご飯行ったりもするし…」
麻衣はオレンジジュースを一口飲んだ。
「何で離婚したのかはっきりした理由はわかんないんだけど、今はそんなことどうでもいいんだ。知るのはもっと大人になってからでもいいと思うの。ただ、子どものころみたいに一緒に暮らしたい…」
麻衣は必死に涙をこらえているように見えた。
「ごめんね。こんなときに変な話して」
麻衣はそう言うと大好きなフライドポテトを口にした。
「美味しい」
麻衣は目に涙を溜めて笑顔を見せた。
泉は、麻衣がなぜ強くて優しいのか、少しだけわかった気がした。




