バスケにしよ
「ねぇ、部活どうする?」
明日香が気怠そうに言った。
「バスケにしようよ」
リカは中学時代バスケ部だった。
「えー?バスケ?」
泉は今イチ乗り気ではない。
「ここのバスケ部、そんなに強くないみたいだし、練習もきつくないって中学の先輩が言ってたよ」
逆にリカはやる気満々だ。
「バスケねぇ…」
明日香は頬杖をついてつぶやいた。
正直、泉と明日香は運動神経に特別自信があるわけではない。
白川泉、杉本明日香、谷口リカ。
泉と明日香は、幼稚園のころからの幼なじみだ。そこに中学のときに引っ越してきたリカが加わって、それから三人はずっと一緒にいる。
今日から高校生になったそんな三人は、揃いも揃ってネガティブで泣き虫。つまらないことで泣いたり笑ったり忙しい。
いつも一緒にいてこんなにめんどくさいことはないはずなのに、女の子とは不思議な生き物だ。
「ね?バスケにしよ」
こんなとき、あまり後先考えないくせにすぐ後悔するのがリカで、リーダーシップがある反面、心配性で慎重過ぎるのは泉。明日香は優柔不断のめんどくさがり屋だ。
こんな三人の話し合いは、行ったり来たりを繰り返し、なかなか結論が出ない。
「でもさぁ、リカは経験者だからいいけど私と明日香はバスケ素人じゃん?いきなり高校の部活なんかついていけると思う?」
泉の言うことはもっともだ。
いくら弱小チームとはいっても、高校の部活だ。練習がそんなに楽なわけはない。
「だよねぇ…どうする?」
明日香はため息をついた。
この高校は元々女子高で、数年前に男女共学となった。
だから、生徒も圧倒的に女子が多い。
このクラスも四分の三は女子だ。
そしてもう一つ特徴的なのは、普通高校のわりには、専門学科が多いことだ。
保育、調理、理容などの学科があり、多くの生徒は就職もしくは専門学校に進む。
対する泉たちのクラスである普通科は一クラスしかなく、主な進路といえば大学だ。
したがって、嫌でも大学進学を第一目標にせざるを得ない。
テストの成績以外に少しでも評価を上げるためには、生徒会か部活を頑張るのが近道なのだが、三人はお世辞にも生徒会という柄ではない。
言ってしまえば、やりたくてやる部活ではないのだ。
動機がいささか不純であるが故、どんな部活をするにせよ、気が乗らないのも至極当然のことだ。
「ねぇ、吹奏楽とか合唱とか楽じゃないかなぁ…」
明日香がシャーペンを器用に回しながら言った。
「あんたねぇ…」
泉は呆れて明日香を見た。
明日香は、めんどくさいと思ったらすぐに楽な道を選びたがる。
「明日香、楽器とかできんの?」
「そりゃあ、できないけど…」
今度は泉とリカがため息をついた。
「ねぇ、ちょっと。これ見て」
リカが部活紹介のプリントを指差した。
「合唱部も吹奏楽部も県内トップクラスみたいだよ」
アウトだ。
こんなの、中学からのエリートの集まりに決まっている。
何の経験もない素人が飛び込んで、三年間続くとは到底思えない。
途中で辞めるくらいなら、最初からやらない方がマシだ。
他の文科系の部活も、学校が力を入れているのか、概ね成績優秀のようだ。
「ね?バスケにしよ」
泉も明日香も諦めた。
こうして三人の部活は、消去法でバスケ部に決まった。




