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ライトノベルじゃない

作者: ハゼン

 パタン


 読みかけのライトノベルを机に置くとゆっくりと右、左と教室を見渡した。


 おかしい


 今日は四月七日、昨日入学式があり今日からこのクラスで俺は高校生活をエンジョイするはずなのになんで美少女が話しかけてこないんだろう。俺には生徒会長の姉とか隣の家の幼馴染とかいないから教室の女子しか俺の高校生活のスタートをきる存在が期待できないのに。


「やっぱりおかしい」


 あらためて声に出してみたけども現状は変わらない。いや前の席の二人組みがチラッとこっちを見た。が、すぐに二人はまた話し始める。なんだよ用がないならこっち見るんじゃねえよ。

 なんて悶々としながら再びライトノベルを手に取り、その心地いい世界へと没頭した。


 ―放課後―


「いや待て! ちょっと時間が過ぎるの早くないか?」

 気がついたら今日の行事を全て終え、俺は教室でまたも独白していた。

 なんでだ? なんで何も起こらないんだ? ……仕方ない、部活でも見て周ろう、もちろん文化系だけ。

 運動系部活に所属している主人公なんていねぇしな、いても幽霊部員だ。

「オカルト研究部とか無いのか」

 昨日報道部から配布された部活紹介のパンフに目を通すと吹奏楽だの書道だの演劇部だの美術etcと面白みの無い部活しかない。

「やっぱ帰宅部でいいや」

 面倒くさい関係を持つといざという時に邪魔になるからな。

 生徒会もあんまりパッとした面子じゃ無かったし興味ない。

 さて、どうしたもんかねぇ。

「帰るか」

 一人で校内散策も悪くないがそんな気分じゃなかったので運動部の勧誘をひらりひらりとかわして家に帰った。

「いやいや、ここで誰か呼び止めるでしょ?」

 本当にここは高校か?

 仕方ない、喫茶店でも寄るか。本当はバーでも行きたいんだが悲しいかな俺はまだ未成年だ。

「イラッシャイマセー」

 学校から歩いて数百メートルの位置にあるその小さな喫茶店はよく言えばレトロでそのまま言えば寂れていた。店員は大学生くらいの金髪碧眼の男性で日本語が片言だ。店内に俺以外の客の姿は無くて小さな喫茶店なのに広く感じた。学校からそれほど遠くないんだが見てくれのせいか他の学生は利用しないんだろう。普通に考えれば高校生なんて喫茶店には行かずにファーストフードに行くだろうし。

「ホット一つ」

 金髪碧眼の店員(エプロンの胸に『ジロー』という名札がついていた)に注文をすると鞄から新聞紙を取り出す。さすがに喫茶店でライトノベルを読むようなことはしない。

 といっても番組表と四コマくらいしか読む気しないんだが。

 数分ほど適当に新聞に目を通しているとカウンターの方からコーヒーの独特な香りが鼻腔を刺激した。俺はコーヒーにはこだわりがある。香り、温度、カップのデザインetc。この店のコーヒーは俺の好みをそのまま現したかのように隙の無い一杯だった。

「……」

 静かにカップを持ち上げると音を立てずにカップを傾けて中身を口内へと流し込む。

 異常に塩辛かった。


「ぶふぉおおおっ!」


「やーい引っかかってやんのー」

 耳障りな声が後ろからしたがとりあえず非常に不快な舌を水で流そうとお冷に手をつけ一気に飲み干す。

 水あめだった。


「おえっごほっごほ……だすけ……」


「あはは、面白い具合に引っかかってくれたね、はいお水。こっちは本物だよ」

 後ろから俺と同じ学生服を着た奴が現れて一杯の水を俺に差し出した。一瞬また何か仕込んであるんじゃないか? と勘ぐったが、喉がつまっているためまたもや一気に飲み干す。

 今度は普通の水だった。

「ふー助かった……」

「あっはっは面白いね君」

「ふざけてる、なんなんだお前は?」

 くそ、口の中が甘ったるい。

「僕? いやね珍しくこの喫茶『あまもり』に客が来てるから気になっただけだよ」

 いや訳わかんねーし。

「気になった奴のコーヒーを塩辛くしたりする意味がわかんねぇよ」

「ごめんごめん、それはね君が望んだからだよ」

「はぁ?」

 なんだこいつ。電波か?

「僕は人の願いが分かるんだ。そう、例えば君は自分をライトノベルやゲームの主人公になりたい思っているでしょ?」

 間違いない、こいつは電波だ。

「馬鹿かお前?」

「あれ? 言い当てられて動揺すると思ったのにな、まあいいや。とりあえず僕は君が気に入った。だから主人公にしてあげるよ」

 会話がドッジボールだった。

「はぁ、面倒くせぇ」

「そうそれだよ、君が今言った言葉は君が大好きなライトノベルでよく主人公が口にするよね、それに自分からはアクションを起こさずに何かが起こるのを待っていたり、あえて友達をつくろうともせず、何かの使命のように部活にも入らない。まるで自分を架空世界の主人公であるかのようにね」

 俺は何故初対面の電波的な奴に馬鹿にされてるのか……うざいな。とは思った。


 だが


「ほう、だったらなんだってんだ?」


 大雑把だが俺の言動や思考にそった事を言うコイツに興味が湧いた。


「一つだけ忠告するとそれは無理なんだよ。この世界には教室のマドンナ的美少女とか何かしら厄介ごとを抱えている美少女や、何故か自分のことを気にかけてくる美少女や美少女留学生とか目に見えてわかりやすい悪の組織とか魔法とかアイドルが転校して来るとか99.9%ありえないことだから。それに自分から行動しないと友達一人出来ないんだよ。あ、二つになっちゃったね」

 なんだよ、んなことわかりきってるっての。

「別にそんな期待してねーし」

「いいや、しているね。君は望んでいるんだ。そんな二次世界を。僕には分かる」

「望んでねーっての。なんなんだよまったく、さっき主人公にしてやるっていったり塩辛いコーヒーといい水あめといいお前は支離滅裂すぎるぞ」

「ああ、さっきのイタズラね。それは僕がしたかっただけ」

「言ってることちげーぞ。さっきは俺が望んだからしてやったみたいに言ったじゃねーか」

「うん、ただの口からでまかせだよ」

「なあここまで穏便に会話してたがそろそろ怒るぞ?」

「ごめんってば、お詫びにプリン奢るからさ、美味しいんだよ、ここのプリン……おーいジローさーんプリンいっちょー」

「カシコマリマシター」

「……改めて君に言うよ。僕は君の望みが分かった、それがあまりにも陳腐だったから興味が湧いた。そして君が想像する主人公になるように僕が協力してあげる。どう? 理解したかい?」

「いいや全然分からん」

 お前の思考がな。

「物分りが悪いんだね、読書する時全部解説してもらわないと理解できないの? エヴァンゲリオンとか好きなくせに話は全然理解できていないタイプ?」

「うるせーよ」

 確かにエヴァンゲリオン好きで話は全然理解できてないけどさ。アニメだけでは全然わからねーじゃんアレ。

「三行でまとめるとだよ

 僕は君の望みを知った

 僕は君に興味が湧いた

 僕は君の望みに協力したくなった

 どう? まだ説明要る? あ、プリン来たね」

「ゴユックリー」

「ありがとう、ジローさん。ほら、お詫びのプリンだよ、口空けて」

「いらねーよ、ただでさえ口の中がまだ甘ったるいのにプリンなんて……んぐっ」

 喋っている途中に口にスプーンが突っ込まれた。歯に当たらなかったからいいものの凄く怖い。

「どう? おいし?」

「味分からん」

 口の中の水あめと合わさってカオスだっての。

「そうか残念だ。あーむ」

 っておいっ!

「お前が食うのかよ!」

「いやだってさ、味分からないんでしょ? もったいないじゃん」

 だからってさっきまで口に突っ込まれてたスプーンで食われるのは抵抗がある。

「その、お前……間接キスになるだろ」

「あははっキモ」

 ……………………殴りたい。

「僕は気にしないよ、そんなくだらないことはね。そんなことで照れるほど初心じゃないんだ」

「わた……俺は気にするんだ」

「あれ? 今素が出たね」

「……うるさい」

「なんでライトノベルの主人公になりたいのかまでは僕は理解できないんだ。だから教えてよ」

「いやだ」

「そう、でも僕は諦めないよ。昨日からずっと気にかけてたんだから」

「な!? さっきこの店に来る客が珍しいからって言ってただろうが?」

「うん、ただの口からでまかせだよ」

 またか

「お前、変だよ」

 少しずつそれが嫌だと思わなくなってきたけど。

「君だって変じゃない? 女の子なのに俺とか言ってさ」

「別にいいじゃないか。男にちやほやされるより美少女にキャーキャー言われたいんだよ……そういうのにあこがれちゃダメなの?」

「いいや、全然ダメじゃないよ。だって僕も一緒だから」

「え?」

「僕もね、自分がこの世界の主人公で皆から一目おかれてて毎日漫画みたいに面白おかしくなるものなんだって思ってたの。だけど中学三年生になるまで本当のことに気付けなくてね。ずっと誰も話しかけてくれなくて一人ぼっちだったから。君はどんな中学校生活だったか知らないけど君の昨日からの様子がずっと前の僕と似ていたんだ。だからピーンと来たの」

「ふーん。だから?」

「わからない? 君をぼっちにさせる気は無いんだよって事。それに僕、こんなにも可愛い美少女じゃん? 都合がいいでしょ?」

 自分で言うなよ気持ち悪い。でもなんか心地いい。

「俺は面倒だよ?」

 彼女は逃げないだろうか?

「だろうね」

「変なこと頼むかも」

 中学生の時みたいに冷たい目で見られないだろうか?

「いいよ、だって君変だし」

「……えっちなこともするかも」

 若さが暴走するかも……

「そ、それはちょっと勘弁して欲しいな」

「じゃ、いや」

 さすがにそこまで面倒見てくれないよね。

「少しなら!少しならいいから!!」

 え? いいんだ。

「手、繋いでいい?」

「いいよ、そのくらい」

 やったあこがれてたんだ。

「抱きついたりしてもいい?」

「う、いけるよ、大丈夫だよ」

 ハグもOK……ふふ。

「キs」

「ごめん無理」

 これは即答。ま、当然か。

「……そう、わかった」

「でも、ハグならいつでもしてあげるから……ん?」

「……これから、よろしくお願いします……」

 おずおずと少しずつ右手を差し出してゆっくりと彼女の右手を包むように握った。

「こちらこそ」

 彼女は笑ってその冷たい手で握り返した。

「絶対逃がさない……友達一号なんだから……」

「ま、まさかのヤンデレ!?」

「ふふ、冗談だ」

 半分だけね。

「重たい友情だなぁ」

「愛情かも」

「それは無い、てかやめて。僕はノーマルだから」

「そう、残念」


 残念だな。世の中にライトノベルのような学生生活なんて存在しないし俺がその主人公になれることももちろんない。それどころか夢見がちになって友達なんて出来るはずも無かったのに。


「本当に残念」


 こんなに可愛い友達が出来るなんてとても不幸で幸運なことなんだ。

最初はどれだけ待っていてもライトノベルや恋愛シミュレーションゲームのように誰も積極的に関わろうとされずにずっと一人ぼっちな男子高校生にするはずだったのにどうしてこうなったのか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 喫茶店からの「俺」の心の機微がわかりにくいです。 [一言] 「俺」のイタい思考がわりと自分とかぶっていて黒歴史を思い出しました
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