KAISEの憂鬱―NUDE
即興小説トレーニングから転載(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=213904)お題:今年のダイエット 制限時間:15分
潜ります、容赦なく。
宣言した先でスタッフが呆然としている。マネージャーも慌てている。
それでも、躊躇わなかった。
服に手をかけ、ボタンを外す。
貝瀬昭雄(28)独身、職業:アイドル。
衆目を集めたまま、服を脱ぎ去った―――
思えば彼の愛する事務所のアルバイト、美幸が言った言葉が始まりだったかも知れない。
「昭雄さんは運動するんですか?」
「うーん。普段はダンスのレッスンぐらいかなー」
好物のかりんとうを美幸とぽりぽり食べながら、憩いの場である事務所のビルの屋上で語らっていた。
美幸は円らな目をぱちくりさせて、小首を傾げた。
「すごいですね。昭雄さん、甘い物好きなのにその体型を保ってて」
ぎくりとして、かりんとうを手に固まったのは決して気のせいではない。
実は自分の腹がたるんできたのではないかと、危機感を覚えて久しかった。
もともと、着痩せするタイプなので、細く見られる方だ。しかし脂肪は着実に腹回りにつきつつあった。アイドルにしてはゴテゴテの派手な衣装を着るので、ライヴのために体力は必要だし、28だから貫禄くらいあってもいいだろう。
そう思っていたから、「お前痩せろよ」とメンバーに言われても、体重が増えてもあまり気にせず、完全に油断していた。
だが、昭雄が思う女の子、美幸は16歳なのである。正真正銘のティーンエイジャー。見た目とかを気にするお年頃である。
昭雄は下戸ではないけれど甘いものが好きだ。ダンスのレッスンはするし、ある程度筋力トレーニングはするけれど、それ以上の運動はしていない。
非常にまずい気がする。
告白はしていないし、一緒にお菓子を食べながら語らうぐらいの仲だけれど、昭雄は体型のせいで美幸に嫌われたら今、生きていけない。
「私なんて最近太ってきたんですよー。何かダイエットにいい方法ないかなー」
伸びをしながら困ったように言った美幸の言葉に、昭雄は奮起したのだ。
今年はダイエットする!!
して、テレビの収録で、ビーチで裸になったわけである。
みんなの反応を確かめるために。
「いやー、KAISE、痩せたな!しっかり筋肉質になって!」
褒めたのはマネージャーだ。
ふふんと自慢げに昭雄は腹筋に力を入れてみせた。
そんな昭雄の様子を横目に、メンバーのMAIMUは溜め息を吐いた。
昭雄が今年になって急にダイエットを始めた理由なんて、分かり切っている。
「あいつ、何て分かりやすいやつなんだ・・・」