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英雄様の従者s  作者: 時鳥
一章 リアルとゲーム
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7.黄の従者

 新たなトラウマをこさえつつも何とか今回の依頼をこなせた俺は宿に戻ることにした。アイリさんは依頼の途中で飛んで戻ってきたらしいし続きをしなくても良いのだろうか。


「良いんですよあんな依頼。原因なんて分かっていますしね」

「そうなのか?」

「そうですよ」


 もう報告もさっき終わらせてきちゃいましたと言うのでまぁ良いのだろう。この人は何だかんだでしっかりとしているようなので依頼の途中に勝手に帰ってきたと聞いて心配していたのだが、問題ないようだ。


「今日はランクアップ祝いにお肉料理を食べましょうよ! 久しぶりに!」

「それはわざと言ってんの?いや、もう食べれるけどさ」


 そんなことを道中わいわい言いながら歩いていると、突然話しかけられた。


「タクミさん、お久しぶりね」


 突然声をかけてきた相手の女性を見て息を呑んだ。

 流れる金色の川のような美しい髪が女性の健康そうな肌にかかっている。

 その顔は妙齢の女性らしさを感じさせるが、金色に輝く瞳は媚を感じさせない気品に満ちており、造作の端正さに周りとは違う空気を持っていた。


 金色で統一された造詣をもつ煌びやかながらも美しい装飾が施された装甲鎧を着た女性にそう言われても、俺にはやはり記憶にないのだが。

 この人もゲーム時代の知り合いなのだろうか。金色で、なんだか強そうでな女性っていうと、


「リディ「あんな吸血姫と一緒にしないでちょうだい!」ヴィクトリアさん……?」

「ようやく思い出したようですわね。そう! 私こそ貴方の最高の従者! ヴィクトリア・アルザウですわ!」

「最高の従者は私ですよ、リア」

「あれ、ヴィクトリアってこんな性格だっけ……」


 何かお嬢言葉っぽかったのは覚えているんだけどこんな今にも高笑いしそうな性格だったか?俺が失踪した後の百年間何があったんだか。


「それにしてもアイリ! 貴方タクミさんを発見したのにもかかわらず何故私に連絡の一つも寄越さないのですか! 私はギルドから情報を受けて飛んできたんですよ!」

「言うわけないじゃないですか。せっかく主を独り占めできる機会なんですし」


 相当ヴィクトリアは怒っているようで地団駄を踏んでいる。


「アイリ! 貴方約束したじゃありませんか! タクミさんを見つけたらすぐに私に連絡をしてくれると! 代わりに私が見つけた場合も連絡する約束でしたが……。これは許されることじゃありませんよ!」

「う……。あ、主も記憶が混乱していたようですし、混乱を助長するような要素は一つでも取り除いておいたほうが良いかと思ったんです」

「そうなんですか? タクミさん」

「記憶の混乱とはまた違う気がするんだが……、まぁ的外れってわけでもないな」

「それなら仕方ありませんね。連絡がなかったことについては許しませんけど」


 確かにこの世界に召還された直後にヴィクトリアまで来ていたら俺はさらに混乱していた可能性は否定できない。何しろこの押しの強さだ。いつになったら異世界から来たと話すことができるのだろうか。


「連絡を寄越さなかった理由は分かりました。それでこれからどうなさるのです? タクミさん」

「どうするって?」

「いつまでもこの町に留まっているのか、ということです」

「主はまだ混乱から落ち着いていないからまだこの町に留まるんです」

「貴方には聞いてはいませんよ、アイリさん」


 なんだかずっとこの二人の間の空気がピリピリしてすごく逃げ出したい。さっきまで周りにたくさん人が居たのに誰も居なくなってるし。


「一度決着をつけたほうが良さそうですわね……!」

「私も少しお話したいことがあったんです……!」

「ちょ、戦うのは無しだぞ!」


 二人の闘志が漲りだしたので慌てて二人を止める。アイリさんなんて俺の隣から一歩踏み出して戦う気満々だな!


「タクミさんが言うなら仕方ありませんね。ここは一つ預けておきますわ」

「決着はいつかつけましょう」


 ものすごく険悪な雰囲気でそのまま三人で宿屋に向かって歩いて行った。俺はこの二人に挟まれて全く生きた心地がしなかった。




「異世界人……ですか?」

「そう、異世界人」


 宿屋に戻ってやっと話せる機会が訪れたのでさっそくヴィクトリアに説明することにする。説明の途中でヴィクトリアさんと呼んだら


「以前のようにリアとお呼びください」


 とアイリさんと全く同じことを言っていたので少し笑ってしまった。笑った理由を正直に答えたらアイリさんをものすごく睨みつけていた。


「不思議なこともあるものですわね。つまりタクミさんはこの世界にもタクミさんの世界にも存在していたことになりますし」

「そういえばそうですね」


 リアさんの発言にアイリさんも疑問に感じていたようだ。


「どちらの世界にも存在していたとなるとこちらの世界には魂だけ呼び出されたということでしょうか?」

「さぁ……。気が付いたらこの世界に居たわけだし、俺にはなんとも」


 この辺は俺にもよく分からないことなので、何も答えようがない。


「情報が少なすぎてこれ以上は分かりませんね。タクミさんが落ち着いたらこの件について調べる冒険をするのも良いかもしれませんわ」


 確かにとても気になる話題である。もしかしたらこの謎が帰還の手がかりになるかもしれないので良いかもしれない。


「そういえばリア、貴方お金持ってない?」

「貴方またお金がなくなったんですの? 前もお金の使いすぎで冒険に必要な物資すら買えていなかったじゃありませんか」

「う……。今はちゃんと稼げていますし」

「タクミさんの力を借りてでしょう」


 むしろ俺がアイリさんの力を借りているんだが、アイリさんはお金の使い方とか荒そうだし俺が居なかったら今頃宿を追い出されていたかもしれない。


「私は依頼も取り下げてきましたし、お金ならかなり余裕がありますよ? アイリさんはその辺りのことにももっと気を配るべきです。」

「分かってはいますけど……」

「分かっていないから――」


 暫く叱られていたアイリさんだが、なんだかすごくしっくり来る光景だしこの二人にとってはこの様子が普段通りなのかもしれない。


「兎に角私はこの町に暫く滞在するというのは賛成ですわ。拠点を構えるとなると話は別ですけど」


 冒険のことなんてゲームでのことしか知らない俺にとっては冒険に慣れているっぽいリアさんの意見はすごい為になるな。今まで惰性で依頼を受けていたがこれからの方向性を一気に示してくれた感じだ。


「今日のところはここまでにして、食事にしましょう」

「そういえば今日は久々にお肉を食べるんだったな」

「ランクアップのお祝いをするんでしたよね」

「それは祝わないわけにはいけませんわね」


 いつもより楽しい食事になりそうだ。




「コカトリスの腿肉のから揚げをお持ちしましたー」

「ワイバーンの卵焼きをお持ちしましたー」

「サラマンダーのステーキです。注文のお品は以上でよろしいでしょうか?」


 以前の薬草野菜尽くしの菜食料理を知っている……というか二週間宿で食べる料理はそれだったので言葉にできない感動があるな!

なんだこれ!ありえんくらい美味い!


「から揚げってこんなに美味かったのか!」

「この卵焼きなんて舌がとろけそうです!」

「まぁまぁですわね」


 久しぶりの肉料理に舌鼓を打っていると、あっという間に料理はなくなってしまった。いつもは食事の最中にも色々雑談してたはずなんだが三人に増えたはずなのにいつもより言葉数が減ったのは、まぁそれだけ俺たちの食事に対するストレスが貯まっていたということだろう。というかアイリさんよ。アンタはベジタリアンじゃなかったんかい。




 食事を終え、風呂にも入って一息入れたあと再び三人で同じ部屋に集まっていると気が付いたことがある。


「そういえばリアさんの武器ってどこにあるんですか? 確か以前は大鎌を持っていたと思うんですけど」

「そういう知識も抜けているんですか? タクミさん。私の鎌は魂に仕舞ってありますわ」

「……頭大丈夫?」

「何で私、頭の心配をされていますの」


 魂に仕舞うとか全く持って意味不明なことを言い出したリアさんに対してすごく失礼だとは思ったがつい口に出てしまっていた。


「残念ながらリアさんの頭は平常ですよ、主」

「残念とはどういうことですの! ま、まぁそれよりも魂に仕舞うということがよく分からないんですわね?」

「そうそう、ゲーム時代ではそんな意味不明なことは言ってなかった」


 魂がどうのこうのっていうのはアイリさんから聞いたが、ゲームでは魂については全く触れていなかったため理解ができなかった。


「魂に仕舞う、とは文字通りの意味で魔力変換できる物質を魂の空きスペースに魔力化してしまうことですわ」

「魔物素材の武具だったり大昔の装備だと仕舞うことができますね」

「特殊魔法の中に倉庫魔法というのがあったでしょう? それを使うことですわ」

「それなら分かる」


 魔法の種類には、無色魔法と色魔法があることは説明したが、その二つに分類されない魔法がいくつかあり、その一つが倉庫魔法だ。魔物の素材だったり、大昔の装備だったりは魔力として保存することができ、それを出し入れする魔法が倉庫魔法だ。勿論魔力化できない普通のものは倉庫魔法で仕舞うことはできない。


「今見せますわ」


 そういうとリアさんは無造作に手を差し出した。と思った時にはもう既にその手には無骨なとても大きな鎌が握られていた。


「これが私の武器ですわ」

「倉庫魔法には呪文とかないのか」

「倉庫魔法が厳密に言うと魔法というよりスキルなので呪文とかはありませんね」


 確かにゲームだと倉庫魔法だけは詠唱じゃなくて魔導具のスキルレベルで性能が変わっていた。


「ここまで一瞬で出せるのはかなり魔導具のスキルレベルが高くないとできませんの。私はアイリさんとは違って守護陣が自力で張れませんから魔導具に頼るほかありませんでしたので」

「なるほど」


 リアさんはアイリさんと比べて魔導具のスキルレベルが高いようだ。

 そういえばリアさんのギルドカードも見ていなかったな。アイリさんもそうだったが放置育成がどの程度効果を上げているか気になるところだ。


「ところでリアさんのギルドカードを見せてもらっても良いかな?」

「構いませんわよ。代わりといってはなんですがタクミさんのカードも見せてください」

「了解」


 リアさんの金色にさらに濃い黄金のギルドマークが描かれたカードを受け取り灰色のカードをリアさんに手渡した。

っていうかリアさんもSランクかよ……。


ヴィクトリア・アルザウ

竜人

158歳

バトルマスター

Lv25

詠唱(168) 鎌(311) 中装(232) 武術(294) 直感(268)

生命回復力(142) マナ回復力(126)隠密(124) 探知(203)

回避(305) 魔導具(102)


やっぱり恐ろしいくらいスキルレベルが高いな。そして勿論この人も魂食いの腕輪を装備している。ちゃんとスキルレベルの上がり方について詳しい人じゃないとこの腕輪ってつけている意味ないけどアイリさんもリアさんも着けていてくれたおかげで此処まで強くなれたんだろう。


そしてやっぱり年が……。


「何か言いまして?」

「いえ、何でも」


この人たち直感の使い方間違ってないですかね?


話を書いていると何故かリアさんがどんどん格好良くなっていく……。

主人公のこんな性格だっけ?ってのはほとんど筆者の心の声です。

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