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英雄様の従者s  作者: 時鳥
一章 リアルとゲーム
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6.リハビリ

 それからの依頼は魔物討伐以外の依頼を精力的にこなしていった。薬草以外にも森にきのこの採集に行ったり、街中で荷物運びみたいなお使いの依頼も受けたりした。その依頼をこなしていて思ったのだが、アイリさんマジパネェっす。この人森に行った時も俺が以前のトラウマで怖がっているのを知っているので常に魔物に遭遇しないように気配を探って魔物が居れば風下に行って気配を消しながら移動したり、荷物運びに行った時も俺が手間取っている横でホイホイと荷物を運んでいく様は圧巻だった。


 まぁこの人、この町じゃ結構有名人らしくて荷物運びの依頼人は気にするなとは言ってくれていたが、やはり女性に力仕事で足手まといにされるのは結構きついものがある。


 そんな感じで依頼をこなしていけばおのずとノルマは達成されるもので、二週間もすれば魔物討伐系なしでランクアップ試験を受けられるほどになりました。


 聞けば、結構高難易度の依頼もあったらしくて評価につながったそうだ。誰の評価って俺のなんだが、ほとんどアイリさんがこなしてるような気がする……。


「今日も頑張って依頼をこなしましょうね!」

「そうだな」


 この毎日依頼をこなしてお金貰って宿に帰るってサイクルにやっと慣れてきたのでお金も結構貯まるようになってきた。そしてなんと風呂に入れたのですよ! たかが風呂だと思うかもしれないが、毎日体を拭くだけってのはやっぱりストレスが貯まっていたみたいで風呂に入れた時は感動で涙が出そうになった。おかげで女性であるアイリさんよりも長風呂してしまい、完全にのぼせてしまったが。


 そうして今日も俺たちはギルドに向かって宿を出発していった。



「緊急依頼ですか?」

「そうじゃ」


 なんとギルドでは入るとすぐにアイリさんが爺さんにこう言われていた。


「嫌です」

「緊急じゃからの。受けないといかんぞ」


 即答するアイリさんだが、爺さんは全く堪えた様子がない。周りの職員さんもまたかって感じで見ているしいつも通りの光景なんだろう。


「今回の依頼は森の魔物が何故か活発化している原因の調査じゃ」

「よりにもよって調査依頼ですか? すごく時間かかるじゃないですか」

「何やら森の奥でとんでもないことが起こったようでのう。それの調査もかねてじゃ。重要な依頼じゃよ?」

「森の奥……? まさかあれのことじゃ」

「心当たりあるようじゃな。それではよろしく頼むぞ。」

「え? い、嫌ですよそんなの! 私一人で行くなんて!」

「今回の依頼は森の魔獣の凶暴化もあるのでBランクの依頼じゃよ。この相方は連れていけんぞ」


 アイリさんはすごいウーウー唸りながらも断ることができないようで仕方なく依頼を受けていた。


「こんな依頼他の冒険者でもできるでしょうに……。主、すぐ終わらせてきますので安全なところで待っていてくださいね」

「適当にやっちゃいかんぞ」

「分かってますよ! もう!」

「き、気をつけてな……」


 アイリさんはすごい剣幕で爺さんを睨みながらとてつもない速さで駆けていった。何も壊さなければ良いんだが。


「さて、邪魔者は居なくなったところで、お主にも依頼じゃよ」

「じゃ、邪魔者?」

「そうじゃ。あやつはお主をおんぶに抱っこでほとんど何もさせずに依頼をこなさせておるじゃろう? それでは全く冒険者としては育つことができん。じゃからあやつを遠ざけてお主自身に依頼を出そう、と思ったわけじゃ」

「なるほど」


 確かにアイリさんが居る限り俺はほとんど何もせずとも依頼をこなしていけるだろう。昔なら優秀な従者をもっているのも冒険者としては本人の力と認められていたが、今はアイリさんも同じ冒険者。いつまでもアイリさんに頼りっぱなしではいけないのだろう。


「理解してくれたところでお主への依頼はこれじゃ。下水道のジャイアントラットの退治じゃ。詳しくはノーラに聞いてくれ」

「分かりました」


 言われたとおりカウンターでニコニコしているノーラさんの下へ向かう。


「おはようございます、タクミさん。ジャイアントラットの退治ですね? ジャイアントラットはこの町の下水道に生息している魔獣で定期的に退治しないといけないんです。ジャイアントラットは一匹だと大して強くはありませんが、群れで行動する習性があるので、冒険者として一人前とされるCランクの依頼となります」

「Cランクですか? 俺はまだDランクなんですが」

「この依頼は昇級試験も兼ねている依頼なんです。なのでアイリさんに居てもらうととても困っていたんです」

「そうだったんですか」

「下水道は入り組んでいて、探知のスキルがあっても迷いやすい地形です。なのでこの下水道の地図を持っていってください。依頼が完了したらお返しくださいね」

「わかりました。頑張ってきます」

「あぁ、それと魔物は偶に他と比べてかなり成長している個体が居る場合もありますので十分注意してくださいね。怪我でもされたら私たちアイリーンさんに殺されちゃいますから」

「……十分に注意していきます」


 いつもはアイリさんにほとんど全部まかせっきりで仕事をしたっていう感じがあんまりしなかったからな。今回は完全に自分だけに出された依頼だ。アイリさんが居なくてもちゃんとこなせるってところを見せて昇格しないとな。




「それにしても魔獣か……」


 魔獣といえばあのトラウマをこさえたあの一件で遭遇したやつ以来だが、今度はちゃんと倒せるだろうか。何か魔獣全体に苦手意識が出ている気がする。結局この二週間一度も肉が食えてないし。

今回の依頼はそういったことも見越して俺に出されたのだろうか?いや、爺さんたちは俺が魔獣に対してトラウマを持っていることを知らないはずだ、気のせいだろう。


「で、ここが下水道なわけだが、結構暗いな」


 下水道には地下を灯すためのランプすらない。おそらく魔法で光に困らないためそういった設備が無いのだろう。こんなところでも前の世界とは違う常識を感じさせてくれる。

 魔法が使えること前提で作られた設備というのは俺からしたら危なっかしいことこの上ないのだが、その辺は考え方の違いだろう。


「さて、行くか」


 ぐだぐだと言って下水道の前で立ち往生していたが、決心して下水道という魔獣の棲家に突入を開始したのだった。



「ところでノーラ君、下水道には他の依頼も来ておらんかったかね?」

「ジャイアントラット以外でですか? そういえば一件きていましたね」

「それもついでに解決してくれると嬉しいんじゃが」




「8匹目っと」


 俺は何事もなく良い調子ラットをしとめていった。ゲームの時によく使っていた氷魔法の中でも相手を凍結させるタイプの魔法だと肉片が飛び散ったりしないので精神に優しいことに気が付いたのだ。群れで活動しているというラットだったが、今は何故か散発気味にしか現れてこない。何か理由でもあるのだろうか。


「ヂュー!」

「フリーズ!」


 カチーンと凍るラット。確かにでかいのだが、所詮は鼠というかあんまり強くない。むしろ大きくなったことで的が大きいので当てやすい気がする。


 魔法の仕様にはこの二週間で大分慣れたため、以前のような失敗はそうそうすることはないだろう。まぁ初級呪文に関しては、だが。


「フリーズ! にしても本当に疎らだな。聞いていた話と違うぞ」


 こんな簡単な依頼がCランクに属しているとは思えないんだが。やはり何かあったと見て間違いないのだろうか。

 地図を見ながら下水道を進んでいくと、探知に多くの反応が引っかかった。探知のスキルはアイリさんがよくやっていたのだが、それを参考にしたらなんとなく分かってきた。アイリさんが言うには数や強さ、体力の残り具合なんかもはっきり分かるらしいのだが、あいにく俺はアイリさんほど探知スキルが高いわけでもないのでぼんやりとしかわからない。


 ついにラットの群れを捉えたのだが確かにこの感じじゃ10や20といった数じゃないな。もっと居る気がする。何があるっていうんだ?


「……! …………!」


 ラットの声に混じって何か聞こえるんだが、他にこの依頼を受けた人が居るんだろうか。ここ一応ダンジョンの括りに入るだろうし、そんな戦えないような人が居るわけがないので多分冒険者か誰かだろう。

俺と同じようにこのラットの群れを捉えて退治に向かったってところかな?一応苦戦していたらいけないので様子だけでも見に行ってみよう。



「ヂュー! ヂュー!」

「こ、こっちにくるな! ファイアアロー!」

「もう私魔力残ってないよ……」

「こっちで引き付けるにも限界があるよ! アイススパイク!」

「アンタが探検に行こうなんて言い出すからいけないんだからね!」

「そんなこと言ってる暇あるか! 追い払うの手伝え!」


 これはどういうことなんだろう。子供?らしき人たちがラット相手に奮闘している。この世界の住民って誰でも魔法が身近にあるせいか子供でも魔法が使えるんだよね。そのせいで冒険者なのか本当にタダの子供なのかがわからん。もしかして冒険者だったりしてこのラットの討伐依頼を受けていたとかだったりしたら獲物を横取りされたとかで怒られたりしないのだろうか?


「くっ、このままじゃぁ……」


 なんだかやばそうだしたとえ冒険者だったとしても後で謝れば済むかな?

 この範囲のラットを倒せて、あの子供たちを巻き込まないような都合の良い魔法なんてあっただろうか。


 ……あれでいけるだろうか。


「アースシールド!」


 下水道の地面の形を変えるのは忍びないが緊急事態として勘弁してもらおう。逃げ回っている子供とラットの間の地面を隆起させ、盾にする。練習を荒野で行った時に使った魔法なのだが、以前に比べてやたらと魔力を吸われた気がする。これが前にアイリさんが言っていた環境に左右されるとかいうやつか。確かに荒野の地面と比べてしっかりとした材質っぽい下水道の通路は硬そうだもんな。


「何だ? もしかして助けが来たのか?」


 他の子供たちからラットを引き離すために逃げ回っていたように見える子供が石の壁に守られて上擦った声を上げている。あまり練習できていないため魔力のコントロールに自信がなかったのだが上手くいったようだ。多分もうあの子は安心だろう。後は、


「アイスウォール!」


 下水道だけあって水は豊富にある、そのため水や氷系の魔法は使いやすいと思っていたが、案の定だ。思った以上の大きさの氷の壁が他の集まってラットを追い払っていた子供をしっかりとガードしてくれている。でもあれ下水なんだよな……。


「た、助かったの……?」


 氷の壁に覆われて子供たちが呆然とした声を上げている。さて、後はこの大量に居るラットたちだが、できればグロくない倒し方をしたい。


 広範囲凍結魔法は確かに使えるがまだ試したこと無いので制御も到底できるとは思えないので使えば確実に子供たちも巻き込んで凍結させてしまうだろう。他にグロくない倒し方なんて俺は知らないのでやはりここは覚悟を決めるしかないのかね。


「……アイシクルレイン!」


 俺が唯一制御可能な広範囲呪文は一度以前に使ったこの魔法しかなかった。この魔法は巨大な氷の飛礫を範囲内に降らせて敵を攻撃する魔法。つまりラットたちは潰れてしまうわけだ。勿論グロくなってしまう。どうにか耐えてくれよ。俺の精神と胃。


 氷の飛礫が溢れかえっているラット共に降り注ぐ。すると予想通りにラットたちは潰されていき断末魔のコーラスが下水道に響きわたることになった。

 少し気分が悪くなりながらもなんとか魔法は制御できたようで、石の壁や氷の壁は多少の崩れが起きてはいるが、子供たちには全く問題がなかったようだ。


 安心してほっと息をついたとき、子供が何かを叫んでいた。気が抜けていた俺にはその声は届かず、気づいたときにはもう遅かった。


「ヂュー!」


 一際大きなラットが俺に襲い掛かってきていたのだ。

 魔獣共は相当俺のことが嫌いのようで、まだまだ俺のトラウマは残されることを近づいてくるラットを見ながら悟っていた。




「だから! 安全なところで待っていてくださいって言ったんです!」


 噛まれる! と思って目をつぶっていると、何時までたっても衝撃はやってこず、その代わりに聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「アイリ……さん?」

「もう大丈夫ですよ」


 アイリさんは前回の反省を活かしたのか俺を襲ってきていたジャイアントラットを剣の腹で吹き飛ばしたのか下水道の壁に激突して痙攣しているラットが見えた。


「全く、そんなに私は頼りないですか? 主の信頼に応えられていませんか?」

「今回は本当にダメかと思った……。あとアイリさんは頼りになるし信頼してるけど過剰に俺を心配しすぎだと」

「心配して駆けつけた結果がこれなんですが」

「……言うことありません」


 アイリさんが言うには直感が働いて俺が危険に晒されているのでは? と思い依頼を勝手に引き上げてギルドに戻ってきたそうだ。爺さんたちは今までアイリさんは依頼はしっかりこなしていたために勝手に放棄したことを大層驚いたみたいだが、勝手に俺にだけ依頼を出していたことを聞き出し、慌ててここに駆けつけてきたらしい。


 直感すごいですね。直感ってゲームでそんな効果でしたっけ?


「兎に角大事に至らないで良かったです」

「俺はまたトラウマをこさえることになったんだがな……」

「あ、あの!」

「ん? どうした」


 どうやらもう安全と判断したらしく、魔法で頑張って道を作ったようで俺たちのの元へ子供たちがやってきた。


「危ないところを助けていただきありがとうございました」

「いや、結局おれも危なかったし」

「それでも貴方が来てくれなければ私たちはどうなっていたことか」


 依頼のついでに助けたので俺にとってはお礼を言われるほどでもなかったのだが。それにお礼なんて言われなれていないので気恥ずかしくなってくる。


「本当にありがとうございました」




 あの後子供たちを護衛しながら下水道を脱出したあと俺たちはギルドへ向かった一応報告として子供たちもギルドへ連れて行ったほうが良いかなと思いつれていくことにしたのだ。


「よふやっふぁ。」

「子供たちを救出して欲しいという依頼も出ていたので助けて頂いて本当に助かりました。子供たちは魔法があるので近場のダンジョンである下水道に潜り込むことが間々あるのです。いつもはそこまで大事には至らないのですが、今回は丁度ジャイアントラットの一番多い時期でしたので危なかったのです」


 爺さんは顔をボコボコに腫らしながら話しかけてきた。何があったか大体想像がつくのでその件については触れないようにしておこう。


「死にたくなければ今後一切こういうことはしないようにしてくださいね」

「……」


 爺さんは恨めしそうに俺とアイリさんを見てくるが俺だけのせいではないので無視することにした。


「ま、まぁ落ち着いて。アイリーンさん。それとこれは今回の報酬と、新しいギルドカードです。古いほうは此方に返してくださいね」

「ありがとうございます」


 白いギルドカードを返すと灰色の下地に青いギルドマークがされたカードを渡された。


「以前聞き忘れたんですけどこのギルドマークが青いのには何か理由があったりするんですか?アイリさんのギルドマークは赤だったし」

「このギルドカードの情報は魔法で書かれているんですが、実はこのギルドマークも魔法で描かれているんです。その際使われる魔力は本人の魔力ですのでその人の魔力光の色がギルドマークに反映されるんですよ」

「なるほど……」

「情報を記載するカードなのに魔力光の欄がないのはそのためです」


 教えてくれたことに礼を言ってギルドを後にしようとすると爺さんが俺にそっとつぶやいてきた。


「あひゃふはあひゃふい。ひふぉふへるんひゃほ」


……何言ってるか全然わかんないんですけど。


じいさん

「あいつは危うい。気をつけるんじゃぞ」

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