3.町の宿屋と冒険者
気絶した翌日、俺は簡素なベッドの上で目を覚ました。
ベッド、小さなテーブルと椅子、それに棚があるだけの簡単な部屋だ。
気絶する前に着ていたローブではなく、作りが丁寧で頑丈そうな質素な部屋着を着ていた。
もしかして昨日のことは夢だったのかとも思うが、この部屋や服には見覚えも無いし現実なのだろう。
あの大柄な獣に襲われたことも……
するとノックをされ、返事をする前に扉が開かれた。
「あっ、目を覚ましたんですね! 良かったです」
全身鎧を着込んだアイリさんがそう言って部屋に一脚しかない椅子に腰を掛けた。鎧が重いのか椅子がきしみ悲鳴を上げるような音が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「昨日は突然倒れてしまうから心配しましたよ? もしかしたらあの魔物が守護陣を突破するような攻撃をしてきたのかと」
そんなことなくて安心しましたが、と言いながらため息をついていた。
「迷惑かけたみたいで、すまん。魔法が使えるとかではしゃいで、魔物が居るとかすっかり忘れていた」
俺は魔法を使えることでテンションが普段よりいくらか上がっていたことを今になって感じた。魔物の恐ろしさを思い出すことでやっと現実が見るようになってきた。
「私は従者です。だから守るのは当然です。いえ、守らないとだめなんです。なのに全く役目を果たせなくて、従者失格ですね……」
アイリさんも最初は明るく振舞っていたが、空元気だったようだ。表情は兜で見えないが、今にも泣き出しそうな声をしている。
相手も精神的にショックを受けていたことを感じてやっと少し気分が落ち着いてきた。
「いや、あの時もアイリさんは俺を守ってくれたし、立派に従者をしているよ。」
「気絶してしまうくらいだからかなり疲れていると思っていたんですけど私を励ますなんて結構余裕があるんですね」
今度は完全に涙声で強がりを言ってみせていた。あの時に感じた恐怖の方向性は違えど同じようにアイリさんも精神的な疲れを感じていたようだ。
「下で朝食を貰ってきますね」
大分調子を取り戻していた俺たちは暫く励ましあった後落ち着いたのかアイリさんはそう言って部屋を出て行った。
「ところで話は変わるんですけど、実は」
気絶した後ということで胃に負担がかからないようにとアイリさんが持ってきたスープを飲んでいると、アイリさんはかしこまったように話を切り出した。
「お金がありません」
「……は?」
「あの、その、召喚に使う素材ってすごいお金がかかるんですよね。危険な場所にあるとかで値段が高いものなら自分で取ってくれば良いんですけど、数が少なくて値段が高いというのはどうしようもなくて」
「それで?」
「それにこの宿に来るまでに色々壊しちゃって、それの弁償にも結構取られてしまったので、
だから、一緒に働きませんか?」
ゲームの時にアイリーンはそんな浪費癖でもあっただろうか。それに道中破壊って何したんだこの人は。
「ギルドに入って一緒に依頼を受けませんか?」
少し頭痛を感じながらゲームの時にはどうやってお金稼ぎをしていたかを考えているとアイリさんはそう言って来た。
この世界の冒険者のお金の稼ぎ方は二種類ある。一つは採掘や採取をしたり魔物を狩って得られた素材を換金することだ。そしてもう一つは先ほど言った依頼をこなし、報奨金を得ることだ。
ギルドとは簡単に言うと依頼を集めて管理している場所と考えて良いだろう。
「実を言うとこの宿の代金も明日の分までしかないです」
ギルドで依頼を受けることが決定した瞬間であった。
国境に近い街「サントル」オレイド王国と聖ネリア教国との国境にあるこの街は両国との陸路の貿易が盛んに行われる商業が発達している。近くには凍れる時の神殿や、神殿のある荒野を囲むように生い茂る森がありあり、時折そこから出てくる魔物が襲い掛かってくることがある。そのため、街を覆う巨大な城壁や、大砲や備え付けのバリスタなどの巨大な兵器が備え付けられている。国境にあるこの街は両国を行き来する者にとってとても重要な街なのである。
人が賑やかに行きかうここサントルの街の大通りを俺たちは歩いていた。人々の中には猫のような耳を生やしているエキゾチックな人や、子供くらいの背の渋い顔のおっちゃんが居たり、極少数ではあるが目を見張るような美しさの耳が尖っている人が歩いて居たりする。異国どころか異世界ならではといった景色に感動しながら歩いていると、遅れていたのかアイリさんが出店が並んだり、冒険者風の人や主婦らしき人が買い物をしていたりととても活気を感じさせる。
最初に着ていたローブに着替え、さっそく町を歩きながら俺はアイリさんからギルドについて話を聞いていた。
「ギルドの依頼は三十年位前からお金が必要な時に受けるだけでしたからあまり覚えていないのですが、確か色々な種類のクエストがあったと思います。討伐や採取や調査などですかね。それ以外にもあったと思いますけど私がよく受けるのはこの三つでした」
「ゲーム通りの内容だな。ということは後は護衛とお使いか」
「受けた事無いのですっかり忘れていました。とりあえずその中でも討伐と採取がお勧めです。討伐は緊急でない限り常時受け付けのものがありますし、採取は取ってくるだけです。調査は時間をかけなければいけないのでだあまりお勧めできないのですが緊急依頼だと強制的に受けさせられるので仕方ありませんでした。護衛は護衛対象に合わせないといけないですから苦手ですね。お使いなんてしたことありません」
「ゲームの時は護衛も結構受けていただろ」
「主が失踪する前の話しですか? あの時戦闘以外は主が全部やってくれていたじゃないですか。私は戦うだけでしたので」
確かにゲームの時はクエストでは仲間は戦闘以外に役に立つことは無かった。というかそれ以外で仲間が役に立つシーンなんてほとんど無かったが。
「で、緊急依頼って何だ? 前はそんなの無かったぞ」
「緊急依頼というのは一定以上のランクだったり名指しで依頼を出されたりして受ける人が限られているクエストで、受けられる状況なら絶対受ければいけないものです。私もランクが一定以上という条件にひっかかって何度か緊急依頼で討伐や採取、調査に駆り出されました」
「ほー。ということはアイリさんはかなり高いランクな訳だ」
ギルドのクエストにはクエストの難易度を示すランクというのがあり、それに応じるように冒険者にはランクが与えられる。EからSまであり、その冒険者の実力を表す指標のようなものだ。
「情報の開示制限だったり、クエスト発注の優先権が欲しかったのでSまで上げました」
「え、えす?」
「はい、Sです。なので緊急で捕まってしまうと面倒で」
Sとは文字通り最上級の冒険者のことだ。Sランクはそんなにあっさり手に入るような簡単な階級じゃなかったはずだが。ちなみに俺はゲーム時代ではAだった。
「ここが冒険者ギルド、サントル支部です」
俺がアイリさんの衝撃的発言に呆然としているとどうやらギルドについたようだ。
大通りに面する建物の中に一際大きい無骨なつくりの建物がそのギルドらしい。
アイリさんは慣れた様子でその建物の扉を開いて中に入っていった。
慌ててアイリさんに続くと、中には大きなカウンターに何人もの受付が居る。ここの受付はクエストを受けるほうの窓口のようでいかにも冒険者風な人たちが何人も見かけられた。この朝の時間帯は依頼を受けるのに丁度良い時間のようだ。
「こっちは見ての通りクエスト受付で、私たちの用があるギルド登録やクエスト発注は上の階ですね」
そう言うとさっさと上の階への階段の方に進んでいく。
「おや? アイリーンさんじゃないか。ギルドに来るのは久しぶりじゃないかい?」
すると、途中で受付近くのテーブルについていた初老の男性が話しかけてきた。
この冒険者らしき風貌の人が多く居る中でも目立つ普通の服を着ている人であるが、その妙にオーラが溢れる様子は只者ではないように感じる。
「私、あなたのこと嫌いなんですよ。いつもこの町に滞在していると私を見つけて緊急依頼を受けさせるし、急いでいる時でもお構いなしで受けさせるんですから」
少し嫌そうにしながら返事を返すアイリさんだが、それに全く堪えてないかのようにほっほっほと笑いながら話を続ける。
「その分働きに見合った報酬をしっかり払っておるじゃろ?」
「本当に今は急いでいるので緊急とかは私に振らないでくださいね」
「今は残念ながら緊急で出せるような依頼はないのう。本当に惜しいことじゃ」
その男性を睨み付けた後、アイリさんは拳を固く握り締めながら階段を上っていった。
「あの子はいつも急いでおるからのう。少しは落ち着くことも覚えるべきじゃ。そうは思わんか?」
「そうなんですか? 昨日会ったばかりでなんとも言えませんけど」
「ん? あの子の接し方からするにかなり長い付き合いかと思ったんじゃが。あんな風に話しかけるのは一人しか居なかったがのう」
「そんな人は放っておいて早く行きませんか?」
階段の上からアイリさんが不機嫌な様子で催促していた。俺まで怒られるのは嫌なので話を切り上げて階段を上ることにした。
「また後でのう」
「私、あの人好きじゃないんです。」
二階に着くと、アイリさんはそう零した。
「どういう人なんだ? あのじいさん」
「ここのギルドの責任者、ギルドマスターですよ。またアイリーンさんあの人に捕まったんですね」
アイリさんに先ほどの男性について聞くとすぐ近くの女性職員が話しかけてきた。赤味の強い紫の髪をゆるくカールにした柔和な印象を与える女性だ。
「あの人の緊急依頼は大抵が本当に必要な依頼ですからできれば逃げ回らずに受けてくださいね」
「それが分かるだけに性質が悪いです。急いでいても断れないような依頼ばっかり持ってくるんですから」
「ところで今回は当ギルドにどんな御用でしょうか?」
職員の人が穏やかに聞いてくる。アイリさんの怒る姿に驚いているところにここへ何しに来たかを俺に思い出させてくれた。
「今日はギルドの新規登録です。よろしくお願いしますね」
「後ろの方ですね、此方へどうぞ。私は説明をさせていただきます、ノーラ・エイレスです」
アイリさんに全部進めてやってもらうようでなんだか申し訳ない気持ちになりながら受付カウンターの椅子に座った。
「では改めて冒険者ギルドへようこそ。このギルドでは冒険者の方に仕事の斡旋、パーティーの紹介、クランの運営や管理を行っています。ギルドに入るには大銅貨1枚が必要です。ギルドカードを無く場合の再発行やギルドの規約違反など以外で除名された方の再登録には大銅貨が3枚必要です。」
今までお金については全てアイリさんが支払ってくれていたため貨幣を言われても価値が全くわからない。お金はゲームでは数字で表されていたため一度も貨幣など出てきたことがなかった。しかしお金がないと言っていたが宿屋を出てすぐにこの場所へ来ていたので支払える位の所持金はあるのだろう。となりで少し身じろぐ雰囲気があったが気のせいだと思いたい。
「ギルドからの評価でランクがEからSまでつけられており、ランクに応じて受けられる依頼の質が異なります。Eは見習いでで冒険者としてやっていけるかを見る研修期間のようなものです。ランクを上げるにはそれに応じたランクの依頼を規定の回数完遂することで受けられる試験を受けて合格しなければいけません。ランクを上げることで依頼を受けることのできる幅が広がり、ギルドからの様々な支援が許可されます。しかし、Bランク以上になると緊急依頼を受ける義務が発生するのでアイリーンさんのように頻繁に捕まったりするかもしれませんね。」
「本当にこの街に来てからは何度緊急依頼で捕まったのか数しれません。まぁ、報酬はかなり色をつけてもらっていたみたいですが」
アイリさんはうんざりといった様子で肩をすくめた。
「アイリーンさんはギルドマスターのお気に入りみたいでしたから特に緊急依頼を持ってきていたみたいですね」
「そうなんですか……」
ノーラさんが口に手をあて苦笑した。
「緊急依頼ってのはそう頻繁に起こるようなことなんですか?」
「いえ、緊急依頼といっても二つありますので……。本当に緊急を要する依頼と指名の依頼が緊急依頼として出されるのでアイリさんの場合はこの指名の依頼みたいです。この辺りでは偶に大型の魔物が出ますがそうそう現れるものありませんから」
「長旅で疲れている時に限って捕まっていたので本当に受けたくなかったですよ。Bランク程度の依頼ばかりでしたからむしろ休めたくらいですが」
……これはかなり気を使われていたみたいだ。アイリさんは気づいていないようだが、ノーラさんが微笑ましいものを見るようにアイリさんを見ている。
「説明の続きですが、ギルドにはランクに応じたノルマを設けています。ノルマは本人のランクと同じ依頼一つか下のランクでもそれ相応の数の完遂で、月毎に確認されます。達成できなかった場合罰則としてランクの降格や除名が行われることがあり、二ヶ月達成できなかった場合降格、Dから降格する場合は除名となります。また、長期の依頼の場合はギルドに報告してくだされば罰則はありません。ただしその分達成できなかった月分は依頼の報酬から天引きされますから注意してください」
「なるほど。定期的にギルドに顔を出せってことですね」
この世界に来る前にやった放置育成なんて真似をすれば一発で除名されるってわけだ。するつもりはないが、一応注意しておこう。
「冒険者ギルドに所属する人は国からの通行税や住民税が免除されるのですが、そのためのノルマということです。後はパーティーの紹介とクランの運営についてですね。パーティーの紹介は募集しているパーティーと仲間を探している方をギルドを通して紹介するといったことをしています。クランはパーティーと違い、ともに冒険するだけでなはないような仲間内の集まりのことです。冒険者ギルドではこれを支援しており、本拠地の提供などを行っています。貴方はアイリーンさんとパーティーを組むようですし、クランは冒険者として慣れていないと難しいことも多いのであまり気にせずともいいと思いますよ」
確かにこの世界に来て間もない俺では仲間なんてアイリさんしかいないのでクランは関係ないと思う。しかしクランともなると冒険者として一人前になったようで何か憧れのようなものがある。
「後は依頼の出し方ですね。ギルド2階の専用窓口に必要事項を書いた書類を出せば完了です。依頼の報酬については依頼主が自由に決められますが、ランクについてはギルドが決めさせてもらうことになります。報酬を設定する際、ギルド員から相場についてのご相談を受けさせてもらっていますので極端に少ない金額でもない限り受注されると思います」
「依頼ですか。冒険者でも利用する人って結構いるもんなんですか?」
「そうですね。この辺りではあまりないですが、武具の製作依頼を鍛冶屋に持っていくのに必要な物を依頼に出すことが一番多いですね。採取できる場所の近くの街などで自分には取りに行けないけど欲しい、みたいな時に依頼を出すみたいです。若しくは王都みたいな人が多く集まる場所で持っている人に譲ってもらうために出すこともあるようです。冒険者でも必要であれば依頼をするのはよくあることですよ」
自分ではできないことを人にやってもらうのは言われてみれば当然のことだな。ゲームでは自分で依頼をこなすばかりで依頼を出すっていう発想がなかったが、実際には普通にあることなのだろう。
「このくらいで説明は終わりですかね。では、この用紙にお名前と種族、職業をお書きください。それ以外の項目はパーティーの紹介などに役に立つのですけど必須項目ではないのでどちらでもかまいませんよ」
「わかりました」
用紙には日本語で氏名、年齢、職業と書いてある。そう、日本語なのだ。言語について結構不安だったのだが、ちゃんと読めるし書ける日本語でよかった。
考えてみれば、このゲームを製作したのは日本人だったはずなのでこの世界の共通語が日本語でもおかしくないわけだ。氏名、年齢、職業以外には経歴や技能、資格、自己紹介PRなどが書かれているが、今の俺に何ができるかなんてまだ全然把握できていないので書けなかった。仕方がないので必須項目だけ書いておくことにした。
「書けましたか? では次にこの石に触って魔力を注いでください。この石が貴方の魔力の波長を読み取り、個人を判別することができるようになります」
透き通った水晶のような丸い石に触れると、蛇口を捻るイメージで魔力を石に注いでいく。魔法は使えるようになっても、魔力自体の動かし方は未だ慣れていないが、なんとかなったようだ。この石は現代でいうセキュリティのようなものらしい。
魔力を注いでいる石を見て一瞬ノーラさんは少し驚いたような表情をしていたが、すぐに元の表情になったため魔力の注ぎ込みすぎといったことではないようだった。
「後はこの情報をギルドカードに書き込んで登録するだけですので少しの間お待ちください。ところであなた、もしかしてアイリーンさんがずっと探していたっていう方ですか?」
「え? そう……なのかな」
にこにこしながら話しかけてくるノーラさんはもう楽しいです! という雰囲気をかもし出していた。どうやら噂好きの人らしい。
「愛称で呼んでいるなんてよっぽど信頼されているのね! アイリーンさんって全然愛称で呼ばせてくれないんですから」
「そ、そうなんですか?」
「それにその探し人はアイリーンさんの大切な人って噂じゃない!」
「それ以上言うとさすがに怒りますよ?」
ここまで個人情報を人前でバラすのはさすがにアイリさんの許容範囲を超えそうだったようだ。
「もうずっと探しているって言っていたでしょ? それがやっと見つかったんだから私も嬉しくなるわよ。だってこのギルドで貴方専属だったんだし」
などと姦しい会話を繰り広げていたが、カードができたことでその話は終わりとなった。
「これがギルドカードです。身分証明にもなる大切なものなので無くさないようにしてくださいね」
白地に青色のギルドマークが描いてある頑丈そうなカードを手渡された。
「ありがとうございます。ん? ここに書いてある文字は……」
「ギルドカードにはその本人の能力が書かれるんですよ。他にも個人を証明するような物にはこういった情報が書かれます。勿論見えないようにすることも可能ですよ」
どこかで見覚えがある内容が書いてあると思ったらこれはステータスか。ゲームの時はキャラクターシートに全部記載されるから関係なかったけど見られない今だと代わりにこうやってカードに記されるようになっているのか。
「あら、タクミさん? 貴方再登録になっていますね。以前も冒険者ギルドに登録していたようです。以前のランクは……A!? 一流の冒険者じゃないですか! さすがアイリーンさんの探し人ですね。再登録の場合はランクDから始めることもできますがどうしますか?」
「Eランクは依頼を受けられないので私はDランクからの方がいいと思いますよ」
アイリさんが隣から話しかけてくる。Eランクは研修期間って言っていたくらいだし、冒険者としての心構えみたいなものを教えてくれるのだろうか。俺としてはぜひともEから始めたいところだがそうも言っていられない事情がある。
「依頼を受けられないのは金銭的にやばいな……。それなら」
残念なことに切実な問題があったためランクはDから始めることになった。
「ランクAの冒険者が百三十年ぶりに再登録なんて多分冒険者ギルド始まって以来の出来事ですよ。絶対亡くなっているって思われていたでしょうし」
「ハハハ……」
俺は乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
「あら? でも先ほど書類に書かれた年齢とギルドカードに書かれた年齢が違いますね。まぁ魔力の波長での計測では偶に起こる事なのであまり気にしなくても良いかもしれませんね」
俺のギルドカードには書類に記入した二十歳ではなく五十二歳と書かれていた。
そういえばこの世界の俺と現実世界の俺じゃ生きた時間が違うのを忘れていた。それに俺が消えていた百年分の年齢が加算されていない。
でも俺はそんなに年寄りじゃないし見た目も爺になっているわけでもない。
そしてそのまま五十二歳として扱われるようだった。納得いかん。
「これで一緒に依頼を受けられますね! 早速クエスト受けましょう」
「ギルド登録をされた方には初回だけギルドからお勧めの簡単な依頼を優先的に受けられるようになっているんです。リハビリもかねてどうですか?」
「魔物を討伐するクエストじゃなければ」
昨日の今日だし、兎に角魔物を狩るような依頼は受けたくない。
「それだとこの低級薬草採取のクエストなんてどうでしょう?」
「それなら魔物が来ても逃げれば大丈夫だな」
「薬草だと私が知っていますから簡単ですね」
「本来上級冒険者の方は受けられないクエストなのですが……パーティーということなので一緒にうけられるようにしておきましょう」
そうして俺たちはギルドの初クエストとなる薬草採取をすることになった。