2.王都へ
結局あの後馬車を買うお金が足りず、リアさんに半分以上だしてもらう羽目になった。ずっと俺たちはリアさんにおんぶに抱っこな状態だがこれで良いんだろうか。
そして俺たちは必要な物資を買っていき、馬車に詰め込んでいった。お金の使い方が荒いことが判明したアイリさんは荷物もちだけになってションボリしていた。
旅立つ準備も終わったため、お世話になった人たちに挨拶をすることにした。
「本当にお世話になりました。ノーラさん、爺さん」
「また来てくださいね。優秀な冒険者ならいつでもサントル支部は歓迎しますよ」
「もう来ませんから安心してくださいね」
「前より良い顔してきておるしこれ以上は緊急依頼を出さんから適度に戻ってこんかい」
本当にアイリさんは爺さんに対してだけ毒舌が止まらないな。爺さんも爺さんでまったく堪えた様子もないし何だかんだで相性良かったのかもしれないな。
このギルドを利用しなかったリアさんは馬車で荷物の確認をすると言って残ってくれた。用も無かったみたいだが、依頼をあまり受けないアイリさんと違ってリアさんはかなり有名らしく、態々用もないのにギルドを利用することはないらしい。
「商業ギルドで馬車を購入する際の交渉にも、私が乗るのだからそれだけで宣伝になるんじゃなくて?」
なんて言ってそれで成功していたし実はすごい人なのかもしれない。
ずっと泊まっていた宿も引き払い、日も浅い内に出発することにした。
何故かいつも俺たちを見てにこにこしている門番さんに見送られたが結局あれはなんだったのだろうか。
「王都へは東、つまりラバクトのある方へ行けば良いんですの」
突然この世界にやってきて地理も何もわからない俺に地図を見せながらリアさんは説明をしてくれるようだった。
「このウライン大陸は凍れる時の神殿のある小さな荒野を基点にして、挟んで西に聖ネリア教国、東にこのオレイド王国がありますの。ラバクトは海を越えたところにありますわ。そして私たちが向かっている王都はこの森を抜けた後大河、リューンを挟んですぐの場所ですわ」
「この道は王都まで一直線ですので迷うことはないと思いますよ」
「だってさ。聞こえたかリュキア?」
「問題ないよー! まっすぐだねー!」
地理を教えてくれるのは良いのだが、結局道は一つらしいのであんまり意味なかったかもしれない。方角さえ覚えておけば万が一ってこともないだろう。説明がすぐ終了してしまったのでリアさんは少し落ち込んでいるみたいだ。
「よーし、とばすよー!」
それにしてもこの馬車すごいな。何キロ出ているかわからんがかなりの速度のはずなのに警戒していたほど振動が伝わってこない。馬車っていうともっとガタガタ揺れるものだと思っていたんだが。さすがに物造りの神様は格が違いましたか。っていうか誰も御者台に座っていないんですよね。リュキアは一人でも道を判断できるので必要ないってことらしい。
「ところで王都ってどのくらいで到着するんだ?」
「そうですね……。三日程でしょうか?」
「アイリさん。それは私たちが単独で行動した場合の話でしょう。この速度が維持できるのなら夜休憩を挟んで五日といったところですわね。ちなみに三日というのは昼も夜も走り続けた場合の話ですわ」
いつも思うけどこの人たちって本当に化け物みたいな能力してんな。
「むむむー? それなら私も三日で到着してみせるよ! 夜の休憩なんて前みたいになしで駆け抜けられるよ!」
「そ、それは止めてくれ」
いくら振動が少ないとはいえこの揺れの中で寝るなんてことはできんぞ。
この馬車は設備に魔法が使われていないが、それ以外の日用品、例えば寝具なんかは魔法がふんだんに使われているとかでものすごく寝心地は良いのだが、振動を抑えるなんて機能はついていないので俺には耐えることができないだろう。勿論これもリアさんが呆れながらもお金を出してくださいました。
というか昔の俺はリュキアに夜通し馬車馬の如く、というか文字通り馬車馬として馬車を引かせていたとか鬼畜の諸行だな。リュキアもリュキアで喜色満面な声色で言ってくるしこの世界の常識を疑うな。
「安心してください。この世界でも夜通し休みなしで駆けさせるなんて主だけです」
「……すいませんでした」
俺と同じでリュキアにもこの世界の常識がないことが判明したようだった。
でもあんたらも夜通し行動しているんでしょう?
宿で購入した弁当を昼休憩で食事をした後もリュキアは結局ペースを少しも乱すことなく道を走りぬけそのまま夜になった。
アイリさんが陣を敷き、安全を確保した後夕食をとることにした。
さすがにもう弁当はないため、夕食は日持ちする食材ばかりがメインとなった。
「さて、それではいただきましょうか」
「え? 料理はしないのか?」
ゲームのときは料理は魔法の補助なんかとはまた別にステータスに影響が出てくる重要な要素だったため冒険に食材を持ち込んで料理していたはずなんだが。
今食事として出されているものは燻製肉やお酒、ドライフルーツ、干しいもなどが直接出されており、料理道具なんかは全く出されていない。
「りょ、料理……? なんのことですの?」
「私はいつも冒険のときはこの食事ですけど何か問題でもありましたか?」
「前は兄ちゃんが全部用意してくれてたよね。兄ちゃん料理しないの?」
え? 俺が料理しないといけないんですか?
「倉庫魔法でパパーっとお肉とか出して今出てるこんな感じの食べ物使って料理してくれてたよ。久しぶりに兄ちゃんの料理食べたいなぁ」
そういえば確かにゲームのときは俺が全部準備していたな。そういうことなら料理するしかないのかな。
「言い辛いことなのですけど、料理器具なんて買ってきていませんわよ……」
「料理する気完全になかったんですね……。道理で商業ギルドで冷蔵庫とかも勧められていたのに断っていたわけだよ……」
この世界、現代のような冷蔵庫ではないのだが、凍結魔法などの熱を奪う魔法を利用して冷蔵庫なんかの物が作られているのだ。しかしこの人はあろうことか勧められたにも関わらず即答で要らないと答えていた。
「料理なんてしなくても生きていけますし」
「そうですわよ。問題ありませんわ」
「えー。料理が食べたいなー」
以前はその強さに気をとられていたが、ギルドカードのスキル欄に料理の文字がなかったことを思い出した俺はちょっとげんなりしていた。美人の料理とか結構期待していたんだが。
料理云々でスルーしていたが、リュキアが言っていた倉庫魔法で肉出したってことは結構重要なことではなかろうか。もしかして俺の魂には食材がたんまりあったりするんじゃないのか?
ためしに何か出てこないかと出そうとすると、以前オーガー戦で出した槍が出てきた。
「あら、以前タクミさんが愛用していた機械槍じゃありませんか。突然出してどうしたんですの?」
「いや、魂の中に何か入ってないかと思ってな」
いまいち魂の中にある道具の出し方が分からないのだが何かコツでもあるのかね。
「魂の中の道具なら魂の空きスペースにあるはずなので自分を見ながらも自分ではない箇所を探すようにすると良いのではないでしょうか」
自分だが自分ではない?よく分からんな。
「自分の中に自分ではない異物が感じられるはずです。それが倉庫魔法で仕舞われている道具ですよ」
「槍を出し入れしてみれば良いんじゃないかしら?」
言われたとおり出し入れしてみる。この槍に関しては一度出したことがあるせいか問題なく簡単に出し入れすることができるのだ。
そうしていると、毎回同じ場所に槍が納まっていることに気が付いた。よく探ってみると、今までは感じられなかったが、明らかに異物と判断できるようなものが多数収められていることがわかった。
「なんかたくさん入っているな」
「失踪する前に魂に仕舞いこんだものが収まっているのではないでしょうか」
「魂に仕舞われているものはいざという時に役に立ちますから確認しておいたほうが良いですわ」
「それもそうだな」
現に一度倉庫魔法で仕舞われていたこの槍に助けられたことがあるのでその意見に従って魂からありったけの道具を出すことにした。
「わー。食べ物がいっぱい!」
「ですけどこれって百三十年前のものですわよね……」
「ちょっとこれは私も食べる気にはなれませんね」
魔力変換できる食材、つまり魔物の肉なわけだ。魔物の食材は食べることができるものは高級食材として扱われており料理したときの効果も高いのだが、さすがに俺も見た目鮮度が十分に保たれているこの美味しそうな肉だとしても食べる気にはなれなそうにない。
大量の食材を脇にどけ、さらに保管されているものを出していく。
「こ、これは……」
「懐かしいですわね……。この装備は」
アイリさんたちが装備している武具は放置育成の前に装備させた防御力重視の装備なのだが、今魂から出てきた装備はアイリさんたちが本気の戦闘用に使っていた装備たちだ。
真っ赤な不思議な肌触りの布で覆われたところどころ機械で作られた武者のような赤い鎧に、同じく細部が機械で作られた品のある黄金のドレスのような装備だ。
「このコート・オブ・プレート、私が頂いても良いでしょうか?」
「私もこのウォードレスを使いたいですわ」
二人とも目を輝かせて装備を見つめている。もう百年以上も前になるのに、自分たちの最高の装備が目の前に現れたことで興奮冷めやらぬといった風だ。
「俺には全然用がない装備だから是非とも使ってくれ」
すごいテンションが上がっている二人は、屋外だというのにはしゃいで着替え始めていた。いくら嬉しいからって男の俺が居る前で着替えるのはどうかと思うんだが……。
着替えた装備はまさに二人のためにあつらえたかのようにとても似合っていた。
アイリさんの武者のような赤い鎧は短冊状の小さな部品で作られた楯が肩から上腕部に取り付けられ、胴にも体にフィットするように楯によって覆われていた。腰の辺りにも肩と同じように短冊状の部品で作られた装甲が覆っている。鎧の間からは機械が覗きそれがただの鎧ではないと思わせた。重々しくどっしりとしているが、女性らしさをしっかりと出していた。
そして今までフルフェイスの兜で覆われていた顔は赤く輝く宝石で飾られた額当てをリボンのように使いポニーテールでまとめていた。
リアさんの優美なドレスは機械と金属で作られているが軽やかさを感じさせる。体のラインに沿って滑らかな曲線を絵書き、広がるスカートは布の様な生地でふわりと広がっている。美しいながらも戦闘用と感じさせるデザインだ。
そして頭には行動には邪魔にならない程度の金色の装飾が施されたヘッドドレスをつけており、髪はそのまま流している。
「本当に懐かしい装備ですね。今までのアダマンタイトフルプレートも悪くありませんでしたがやはりこの鎧は違います」
アイリさんはマントを手に取りながら感慨深そうに言っていた。
「やはりこのウォードレスですわ。修行には向いていませんが最高の装備ですわね。」
リアさんはくるりと回ると装備の具合を確かめながら呟いていた。
「ずっと装備預かったままですまんかったなぁ。とりあえず以前着ていた装備は保管しておくよ」
俺は本気装備になって見えるようになったアイリさんの素顔やどこかの令嬢のような格好でありながらも戦士の雰囲気を出しているリアさんの二人を眩しそうに見ていた。
はしゃいでいる俺達をよそにリュキアはリュキアで黙々と食べ物を口にしており、俺たちのテンションが落ち着いたころには今日の夕飯は全て姿を消していた。
とりあえずここまで書き直しました。
また書き直しはすると思います。




