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英雄様の従者s  作者: 時鳥
二章 合成獣の狂気
11/12

1.合成獣キメラ

 予想外の事態で死に掛けた俺ではあったが、なんとか一人前と二人に認められたのでついに冒険へ旅立つことの話し合いをすることになった。


 まず方針としては情報集めなのだが、やはりこういった情報は人の多く集まる場所に行けば少なからず見つかるのではないか、というリアさんの発言から王都に向かうことに決まった。マジでこの人頼りになります。


 その前に二人にSランク冒険者なんだからこう言った魂云々や異世界云々の情報を持っていないのかと聞いてみると、


「この百年間私は主を探すことに全力でしたので」

「同じくですわ。おかげさまで人探しに関する伝なんかはかなり豊富になりましたけど」


 この二人は同じ探すにしても方法が違ったらしく、アイリさんは兎に角自分の足で、リアさんは恩を売ってコネを作って、といった風に探していたらしい。


「そういうことなので王都に行くことは経験から言っても悪くないと思いますわ。拠点にするにしても中心地なので色々と便利ですわね」

「私は拠点なんて作ったことないので分かりません……。申し訳ないです」


 二人とも能力はアホみたいに高いので、移動方法なんて徒歩だけで十分だったみたいだ。

 俺はそんなことできないので勿論別の交通手段が良いんですけど。

 ゲームの時は移動ってどうしてたっけな……。


「昔は馬車を使っていましたよね。ほら、キメラに引いてもらっていたじゃないですか」

「あの子ですの? そういえばもうずっと会っていませんわね」


 キメラっていうと合成獣のことか? そういえば昔強い魔物が作りたいという衝動に駆られて最上級の魔物をたくさん捕まえてきては合成していたっけな。でも最後は1体だけ残してあとは売り払った気がする。こっちの世界に来てから少ししか経っていないけど内容がものすごく濃いせいで色々忘れていることが多いな。


「キメラか……。そういえば召還魔法とかあったな」

「私たちはついてこれる魔物なんて居ないので契約獣はいませんわ」

「以前は馬に乗ってみたこともありましたが、自分で走ったほうがよほど速かったのでそれ以来考えたことありませんでした」

「それなら明日は俺の契約獣を召還して馬車を買うことにするか」

「お金足りますかね……」

「足りなければ私が出しますわ」


 本当にリアさんは頼りになります。




 次の日、召還をするのは良いとして、やっぱり召還魔法なんて使ったこと無いので二人が説明しくれるというからありがたく聞くことにした。


「召還魔法とは魂の契り、契約獣が契約者に魂の一部を譲り渡すことですわね、それを行った魔物を契約者のもとに呼び出す魔法ですわ」

「本来ワープみたいな魔法は無理なんですけれど、この召還魔法に関しては対象が魔物というのが重要らしくて一度契約獣を魔力変換することで魂の引き合いを起こし契約者の下へ呼び寄せるという魔法みたいです」

「注意する事項として召還魔法によって呼び出す魔物は一度魔力変換されていることが問題で魔力変換できない装備をしていた場合そこに置いてきてしまうことがありますわ」

「そういった理由もあって召還する契約獣には魔力変換できる装備を施すことが通例になっています」


 一気に説明されたが、要は召還魔法を使えばここに契約獣が呼び出されるってことでいいんだな。それならなんとかなるだろう。


「それじゃ、やってみますか!」

 気合を入れる必要があるのかは知らないが、初めてはやっぱり緊張するので集中していくことにする。


「召還! 来い、リュキア!」


 魔方陣が術者の魔力光である青に輝き、魂の眷属である召喚獣を呼び出そうとしている。魔方陣の周囲に魔力によって生まれた風を作り出しながら徐々に召喚獣は姿を現していった。

 精悍な顔つきに大きな嘴、馬より大柄な体にそれに見合う巨大な翼はとても力強さを感じさせる。その異形の造詣は神々しく存在感に満ちていた。

 その雄大さに俺は興奮して感動していた。幻獣グリフォンを素体として風の精霊ジン、銀竜、ベヒモス、スレイプニルで作った合成獣だ。正直滅茶苦茶格好良いです。


 すさまじい存在感を放ちながらキメラは暫く周りの様子を伺っていたが、俺に視線が合うと、大きく目を見開いた。

 すると一歩ずつ俺に向かって歩いてきたかと思うと高速で飛翔して突進してきた。

 慌てて逃げようとするも、あまりの速さに全く逃げ切れず俺は押しつぶされ


「守護陣!」


なかった。


 キメラは不可視の壁に思いっきり激突して空気を撓ませた。と思うとその巨体が光り輝くとどんどん小さくなっていった。


「兄ちゃん!」


 人型まで小さくなるとそんな声とともにまたもや壁にぶつかって行った。

 やってることは以前みた森の魔獣突進と同じことなのにすごい罪悪感を感じる。


「あ、アイリさん。陣消してくれない?」

「まだリュキアが安全か確認できないので無理です」


 あえなく断られてしまった。

 そしてようやくキメラの体を包んでいた光が収まると、そこには少女が居た。

 毛先だけがカールした栗色の髪、日に焼けた小麦色の肌、そして何より鳥の羽のような耳が特徴的な女の子だ。


 最初に容姿に目がいったので気づくのが遅れたがこの子恐ろしいほど重装備だった。

 まさに着られているという表現が似合うプレートアーマーを装備しており、とても重そうだ。しかし重さを全く感じさせない足取りで陣に近づいてくると話しかけてきた。


「兄ちゃんだよね? 私、リュキアだよ。ずっといい子にして家で待ってたんだ。だからまた召還してくれたんだよね?」


 放置育成をする際キメラは必要ないと分かっていたので、バラクトの自宅に置いてきていたのだ。つまりこの子からすれば俺と合うのは百三十年ぶり。しかも俺が生きていることはわかっていたのに全く召還されなかったということは捨てられたと思っても仕方ないのだろう。


 ぐすぐすと泣き顔で顔を真っ赤に腫らしながら陣にすがりつくリュキアに早く駆け寄って安心させてやりたいが、まだ陣がある。


「リュキアさん。貴方は今でもタクミさんに力を貸したいと思っているかしら。以前のようにタクミさんに乗ってもらって共に戦いたいと思っているのかしら?」

「あ、当たり前だよ! もしかしたらもう合えないのかもしれないって思いながらずっとずっと待ってたんだから!」


 契約獣は基本的に契約者の言うことに反することはできないために、俺が放置育成の際に出した命令である自宅待機を律儀に守ってきたのであろう。なので二人の従者のように俺を探し回ることもできずにひたすら家にひとりぼっちで俺が帰ってくるか召還してくれるのを待ち望んでいたのだろう。


「りゅ、リュキア、今まですまん。それとただいま」

「お、お、おかえりぃぃぃ!」


 びえええええと大泣きするリュキアを視てアイリさんも安全と判断したのか陣は掻き消えた。その瞬間俺とリュキアは駆け出し抱き合った。


「寂しかった! もう絶対離れないんだから!」

「おう、すまんかった。ずっと一緒にいような」


 ずっと泣きはらすリュキアを抱きながら、俺は暫く頭を撫でていた。




「それで兄ちゃんは前みたいに私に馬車を引いて欲しくて召還したってこと?」

「そうだ。嫌なら断っても良いんだが」

「嫌じゃないよ! 私頑張るね!」


 いくらキメラとはいえこんな小さな女の子を文字通り馬車馬の如く働かせるのは俺の良心がすごく痛いのだが、そんなことはお構い無しにリュキアは引き受けてくれた。


「それと戦う時は前みたいに私に乗って戦ってくれるよね?」


 ゲームの時に俺はいくら近接戦闘もできるとはいっても打たれ弱いことには変わりないため、リュキアに乗って戦闘を行っていたのだ。こんな女の子になれたりしゃべったりできるとは思って居なかったので、召還前は思っていた乗ってみたいなという気持ちを押さえ込んでいたところにそんなことを言ってくれるから俺はつい丁度いいところにあるリュキアの頭を撫でていた。


「あぁ。そのときはよろしく頼むぞ」

「まっかせて!」


 従者二人は俺たちの会話を微笑ましいものを見るかのように見ていた。やっぱりアイリさんの顔なんて見えないが。


「ところで何でリュキアは変身したり言葉がしゃべれるようになってんだ?」


 以前は鳴き声だけで会話なんてできなかったはずなんだが話せるし、型態変化なんてできなかったはずだ。


「魔物は成長すると話せるようになったりするんだよ。それに新しく能力も使えるようになるし、この二つ以外にも百三十年で成長してできるようになったことはあるんだよ」


 あの森で見かけたオーガーも魔物だったが会話ができたし、そういう能力でもあったりするんだろう。

すると、リュキアは体を魔力変換していき、風のような魔力の塊になった。


「こんな風に形態変化の応用で精霊化したり」


 次に元のグリフォンの型態になると口から淡く輝く息を吐き出した。


「ブレスも使えるようになったんだよ!」


 嬉しそうに報告してくれるリュキアに俺はものすごく驚いていた。

 ゲームのとき仲間NPCってのは主人公が何かしらの手を加えないと新しい技能を覚えたりすることは決してなかったのだ。例えばアイリさんも剣聖になったことで最上級魔法なんかの新しい魔法を覚えることができた。


 だが、リュキアに関しては全く関与してなかったにも関わらず変身、会話、ブレスといくつもの技能を修得してきたのだ。


「すごい、すごいんだがどうやってそんなことができるようになったんだ?」

「兄ちゃんが召還してくれなくなってすぐはずっと待ってたんだけど全然召還してくれないのは私が頼りないからだと思ってずっとスキルの強化をしてたんだ」


 な、涙ぐまし過ぎる……! 俺はなんてことをしていたんだ。こんな良い子をほったらかしにしていたなんて。


「そしたらさっきみたいなことができるようになったんだ! ねぇ、えらい?」

「おうおうえらいぞ!」


 上目遣いに見て来るリュキアを俺はちょっと涙目になりながらぐしぐしと頭を撫でまくったのだった。


(お、恐ろしい子……。ここまでするなんて)

(あざと過ぎますわ。さすがにここまでは私もできませんわ……。)




 かなり話が脱線してしまっていだが、今回の目的は馬車の購入もあるのだ。


 さぁ馬車を買いに行こうと意気揚々と町へ繰り出そうとしたが、疑問がある。


「馬車ってどこで売ってんの?」


 そうなのだ。馬車ともなればかなり大きな買い物になるので製作所なども専門に作られたりするのだろう。

 ゲームのときだと馬車は発明家なんかに素材を提供して特注で作ってもらっていた気がする。

 そんな人がこの街に居るはずがないので馬車の購入なんてどうすれば良いのだろうか。


「そんなことも考えずに馬車が必要だーとか言っていたんですの?」

「ぐ……。俺はあんたらみたいに強くないから一日中走ったりなんかはできないっての」

「……冷静! そうですわね。馬車を手に入れるなら商業ギルドに向かうのなんてどうでしょう」


 つい余計なことを口走ってしまったが、どうやらそこまで怒ってはいなかったようだ。一瞬黄金色の魔法陣が見えたような気もしなくもないが気のせいだろう。


「この町の商業ギルドなら私が場所を知っています。案内しますね。あぁそれと、リュキアはお留守番ですよ」

「えぇー? 何で私がお留守番なの? 私も兄ちゃんたちと行きたい!」

「魔物はいくら契約獣とはいえおいそれと町の中に入れることはできないんです。一応許可を得れば入ることはできますが、もうあまりこの町に滞在はしないでしょうから許可を貰う必要は無いでしょう」


 そんな制度があったのか。知らなかったな。


「むむー。それならこうすれば良いんでしょ!」


 すると再びリュキアは輝きだした。まだリュキアには能力があるっていうのか? さすがに成長しすぎだろ。

 輝きが落ち着くと、さらに小さくなったリュキアが居た。見た目は鷲……かな。グリフォン自体鷲とライオンの合わさった幻獣だしこの型態変化ができるようになったのだろう。


「これなら私もついて行っていいでしょ!」


 リュキアは物理法則を無視したかのようなフワッとした動きで中に浮くと、俺の肩にそっと着陸した。猛禽類の爪は掴まれると痛いっていうけどリュキアは爪を立てずにバランスだけで俺の肩にとまっているようだ。


「その姿なら問題ないでしょう、多分。でも他の町に行ったときはすぐに許可を取るんですよ」


 アイリさんは最後に俺へ向かって注意をしてきた。飼い主だから責任をもて、ということなのだろうか。




 商業ギルドへつくと、早速在庫に馬車が無いか聞いてみることにした。


「馬車ですか? 丁度今面白い品が届いているので一度見ていってはどうですか?


 面白い品ってどういうことなんだろうか。俺にとっては魔法が使われたりしてる馬車だったらどんな馬車でも面白い馬車ではあるんだがな。


「この馬車ですね。なんと物造りの神様とも言われているあのリディエラさまが開発したとされる馬車なんです。なんとこの馬車、設備に一切魔法が使用されていないにも関わらず、揺れが少なくかなり頑丈、地面の状態が悪くてもしっかりと地面を掴んで安定性がものすごく高いんですよ! しかもどんな生き物に引かせても問題ないほどの軽量化が施されているんです!」


 つまり何の面白みも無い技術盛りだくさんの馬車なんですね。がっかりです。


「リディエラが開発したというのが気に食いませんが、確かに良い馬車のようですわ」

「見ただけで分かるんですか?」

「防御力に関しては私、結構見る目に自信がありますの。それにあの吸血姫が作った物ならば性能も折り紙つきでしょう」

「リディエラってそんなやつだったっけ……」


 色々な場面で俺の記憶と事実に違いがあるからまだ何か以前と違うことがありそうで不安になってくるな。


「この馬車お幾らですか?」

「アイリさん! 勝手に話を進めないでください! 貴方が買い物をするとどんな値段になるか分かったものではありませんわ」

「え、酷い……」

「事実ですわ!」

「この馬車こんなに軽いの? とっても速く進めそうだよ!」

「その鳥は勝手におしゃべりしない!」


 本当リアさんは頼りになります。あとお疲れ様です……。



まだわかりませんが確実に一章より長くなるかと思います

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