8.本物の戦い
この話の後に飲み会でも入れようと思っていたんですが、それだけで一話作るのは厳しかったのでいつか番外編とかで書きたいと思います。
俺が落ち着くまでこのサントルの町に滞在することになったんだが、落ち着くまでっていったいどうなれば落ち着いたって事になるのだろうか。
「落ち着くまで、ですか? そうですね、この世界に少しでも慣れるまでということじゃないでしょうか」
アイリさんに聞いてみるとこんな感じの答えが返ってきた。確かにそれは納得できる理由だ。だがそれが本当に落ち着いたと言えるのだろうか。
「この世界において一人で生きていけるように慣れるまでですわね。もし私たちとまた逸れてしまった際に生きていけなければどうにもなりませんもの」
リアさんに聞くとアイリさんの発言をさらに掘り下げてくれた。アイリさんは何かぐぬぬって顔しているけどアイリさんの意見も助かっているからその闘志を収めてください。
「ということは一人でCランクの依頼くらい簡単にこなせないと話しにならないよな」
「え? ま、まぁそういうことですわね」
「一人で依頼なんて受けさせませんよ」
おいおい。このアイリさんをどうにかしてくれよ。これじゃいつまでたってもこの町から冒険に旅立てんぞ。
「アイリさん。貴方本気で言っていますの?」
「……本気ですよ。勿論」
またしてもアイリさんとリアさんの空気が張り詰めていく。どうにかしてくれとは思ったが、この空気は勘弁してください。
「貴方本気でタクミさんのことを思っていますの! いつまでたってもタクミさんは成長できないじゃありませんか!」
「もう私が居ない間に主が害されるのは我慢できません!」
「それは貴方自身の願望ではありませんか! 本当に主のことを思うなら見守るべきです!」
本気で言い争う二人を見て俺はかなり驚いていた。お約束みたいにある話で私のために争わないでーってのがあるがまさにそんな感じだ。まさか自分がそんな立場になるとは思わなかったので呆然としてしまう。
「わかりました……。そこまで言うなら体に教えて差し上げます。今日こそ白黒つけましょう、アイリさん」
「っ! 望むところです!」
二人は窓から飛び出していって俺が一人だけ宿屋に残されることになった。俺の発言一つであの二人はこうまで言い争えるのかと、いや戦えるのかと思うとゲームの時の俺はどれだけ彼女たちに心配をかけていたのかが分かる気がした。
仕方ないので一人で宿屋を出ようとすると、宿屋の主人から伝言を預かっているといわれた。
「ヴィクトリアさんからの伝言です。私がアイリさんを食い止めておくので今のうちに一人前になってきてください。とのことです」
「あ、ありがとうございます」
あの人は俺やアイリさんのことを何処まで見通しているのだろうか。一つだけわかることはリアさんは俺もアイリさんも大切に思っていてくれているということだろう。
ここまでお膳立てされては期待に応えざるを得ない。さっそくギルドに向かうことにした。」
「今日もお一人で依頼ですか?」
少し驚いたようにノーラさんは俺にそう言った。確かに昨日のアイリさんの様子を見ていれば驚いても仕方ないだろう。
「昨日ギルドを出た後リアさんと合流したんだ。今アイリさんはリアさんに足止めしてもらっているよ」
「リアさん……。ヴィクトリア・アルザウですか? この町に来ていたなんて! これはすごいことですね! あの最強に数えられるお二人が揃うなんて!」
「いや、だから足止めしてもらっているのであって急いで依頼をこなさないと」
「あ! 申し訳ありません。つい興奮してしまって」
なんとか暴走しそうになるノーラさんを押しとどめて依頼を受けることに成功した。
依頼内容は先日の大魔力が原因で起こった魔物の活性化で現れたゴブリンの群れを討伐するというものだった。魔物が活性化したっていうのは昨日アイリさんが提出したっていう依頼の内容だったのだろう。そんな感じの依頼だったし。
「依頼、頑張ってくださいね!」
いつまでもリアさんが暴走しているアイリさんを押しとどめていられるかは分からないので早いところこの依頼を終わらせないといけないな、と思いながら町を出発した。
「この分からずやがぁー!」
「あなたに何が分かるっていうんですっ!」
町の遥か上空ではSランク冒険者二人による壮絶な争いが行われていた。
できるだけ町から離れておきたかったリアは町から遠ざかろうと思ったが、よく考えてみれば主大好きっ子のアイリが町から離れるわけがないことに思い至ったので仕方なく上空に戦場を移すしかなかったのだ。
この二人はここ百年で編み出された新魔法である「飛翔」を使いながら戦っているのだが、本来魔法は一度に一つしか使えないのだが詠唱スキル100を超えることで使用可能になる並列詠唱を用いて飛翔とは異なる魔法を使い飛びながら戦っているのだ。
「衰弱! 貴方はタクミさんのことを何一つとして考えてはいませんわ!」
「天盾! そんなことありません! 主は守らないないといけないんです!」
リアが魔法を放てばアイリが魔法を防ぐ。
「最初に合ったときも! 昨日も! 主は危険に晒されていた! ヴォルケーノぉ!」
「っ! 透視! それは結果論ですわ! タクミさんが成長すればそういった危険に晒されることも減りますわ!」
アイリが最上級魔法を放てばリアは知覚範囲を大幅に広げ、危うく回避する。
遠距離戦では埒が明かないとばかりに二人は同時に接近する。
アイリが腰の剣を抜き、斬りかかるとリアは瞬時に大鎌を出現させ迎え撃つ。
「情熱!」
「地盾!」
二人の武器がぶつかるとあまりの衝撃に周りの雲は吹き飛ばされていく。
完全に互角の攻防はまだまだ続きそうであった。
町の外に出て森へ進むと、すぐに森が異様な雰囲気に包まれていることに気が付いた。気絶した当初であれば気付くことはなかっただろうが、この世界のスキルを使うことに慣れてきた今ではそれがよく分かる。
草原までの魔物はまだ穏やかと言えるようなレベルだったが、この森に入った途端息の詰まるような緊張感に包まれた。
ゴブリンというのはノーラさんに聞くところによると、人間の子供の大きさで醜い姿をした種族という話だが、そんな小さな生き物が出せるような空気ではないことはすぐにわかる。何か完全に別物の、もっと大きく強い生き物が居るようだ。
だが、今更戻って依頼を達成できませんでした。などとはリアさんが頑張ってくれている中でまかり間違っても言えないので進むしかないだろう。
暫く森の中を進んでいくと、ゴブリンが居た。しかしどうも様子がおかしい。かなり急いで森を移動している様はまるで何かから逃げているように見える。
やはり何か居るのかと確信し、アイリさんと依頼をこなした二週間の間で身につけた隠密のスキルを使用しながらこっそりと近づいていくと、バラバラになったゴブリンの死体が目に入ってきた。
「ぐ……。なまじ人間に似ている姿だからか衝撃が大きいな。それに臭いもきつい」
視線をさらに上げていくと、ゴブリンの頭を丁度生きたまま丸呑みにしているもっと大きい魔物が居た。
「お、オーガー……」
オーガーは単独でもランクがBに届くレベルの魔物である。強い固体だとさらにランクは上がり、Aになることすらあるとか。
アイリさんやノーラさんは二週間の間に、冒険者をやっていると予想外の事態なんて頻繁に起こるとよく言っていたが、今回もそうなのだろう。
本来ならば町に帰ってこのことを報告すべきなのだろうが、リアさんとアイリさんのこともある。それに俺はゲームの時代だったとしても元Aランク冒険者だ。魔法を駆使すればなんとかなるはずだ。
早速魔法と使うために呪文を唱えようとすると、何故かオーガーは此方に勢い良く振り向いてきた。どういうことだ? 隠密は発見されるまでは効果が継続するはず。まだ見つかっていなかったはずなのになんでだ。
「グオオオオォォォォ!」
こちらに向かって吼えてくるオーガー。しかし、いくら唐突に気付かれて動揺してしまったとはいえ、前にも似たような経験はある。今回は以前ほど恐怖に体が竦むなんてこともない。やれる、やれるぞ!
「アイシクルレイン!」
いつも通りの上級魔法を唱え、此方に駆け出そうとしていたオーガーに向けて放つ。
巨大な氷の飛礫がオーガーに迫りその肉を次々に打って行く。しかしオーガーもかなり頑丈なのか、かなりダメージを受けているはずだが未だに顕在である。
「あ、アイシクル「グオオオオォォォ!」」
ゲームの時であればオーガー如きは何度も倒したことがあったし、その時はこのアイシクルレインで一発であった。だがこの世界で始めてあったオーガーはその時のオーガーより強かったのか、アイシクルレインの直撃を受けてなお俺に向かって突撃してくる。
「か、加速!」
ゲーム時代でも得意であった補助の青魔法を使い、一気に離脱する。
オーガーからかなり距離をとったことで少し落ち着けたので再度魔法を唱える余裕ができた。補助魔法は結果が完全に分かっているので使いやすいが、イメージが重要となってくる無色魔法はどうしてもそれと比べて一拍遅くなってしまうのだ。
今度は十分に時間もあるため、しっかりとイメージを練りこみ、この迫ってくるオーガーを倒すことを想像する。
「アイシクル! レイン!」
二度目に唱えた魔法は、先程の気付かれたことで動揺したまま放った上級氷魔法よりも明らかに強力なものが放たれた。さすがのこのオーガーも二度目の、しかも先ほどより威力の高い魔法により倒れることになった。
「ふー。後はこいつに食い荒らされていたゴブリンを討伐すれば依頼完了かな」
何とか一山超えたことに安堵して一息ついていると、オーガーを倒した今でもこの森の緊張した雰囲気は消えていないことに気付いた。
「まさか、まだ居るのか?」
以前こうやって倒したと思って油断していたら痛い目を見たので気を引き締めなおす。
勝手に1体しかオーガーが存在しないなどと考えていたが、そうは甘くなかったようだ。
再度隠密を発動して身を隠し、この空気の元凶を探りに行く。暫く進むとゴブリンのバラけた死体が増えてきた。このことから目当ての敵が居ることが近いと感じ取った俺は今まで以上に慎重に死体を辿っていった。
森の茂みを利用しながら移動していくと、ついに森の空気が張り詰めている原因と思われる魔物を発見することができた。
その魔物はオーガーだったのだが、明らかに大きさが違う。その盛り上がった力瘤は大木かと見まごうばかりで巨体が森の地面を歩いただけで小さな揺れが起こる様は最早オーガーとは完全に別物と思ってしまうほどである。
「ガッハハハハ。調査なんてメンド臭ェと思っていたが、ゴブリン共を摘み食いするくらいなら問題ないよな!」
「大丈夫ですぜお頭ぁ! たらふく食っておきやしょう」
目の前の巨大なオーガーに気を取られていたが、よく見れば何体か付き従うかのようにオーガーが居た。
というか魔物ってしゃべれたのか。ゲームの時はしゃべったことなんて一度もなかったはずなんだが……。
しかし調査か。もしかして前はそうでもなかったけど今は魔物も冒険者になれたりする時代でこいつらはその冒険者なのだろうか。野生の魔物が調査なんてするとは思えない。どこか組織があってそれを依頼されて行動しているはずだ。
ということはこのオーガーたちは敵じゃない……?
だとするとさっきのオーガーを問答無用で倒してしまったのはやばいかもしれない。
「んー? そこに隠れているやつ、出てこい。オレサマは気が短いんだ。早くシネェとブッコロしちまうぞ」
悶々と考えていると隠密から意識がそれてしまっていたのかでかいオーガーに気配を知られてしまった。見つかってしまっては仕方がないので一応保険として補助の青魔法をかけた状態で出て行こう。
「加速! 硬化! で、出てきたぞ。お前ら冒険者か何かか? 調査に来たとか言っていたが」
地味に初挑戦の並列魔法だが上手くいったようだ。これでもし突然接近戦になったとしてもまだ対処が可能だろう。
「冒険者だァー? 何フザけたこと言ってやがんだァ! オレたちはあんなやつらと一緒にスンナ!」
「だとしたらいったい何だっていうんだ」
「答えると思ってるいのかァ? 人間様よォ。お前らはこうやって知性ある魔物たちにも容赦なく攻撃してくるクセによォ!」
オーガーたちはそう言ったかと思うとその手に各々武器を持ち出した。なんと巨大なオーガーに至っては倉庫魔法で武器を取り出している。リアさんの倉庫魔法は一瞬だったが、このオーガーの魔導具スキルレベルはそこまで高くはなかったらしくゆっくりと出現していく。
明らかに臨戦態勢なので俺は逃げることにした。数で負けている上に後衛だけで戦えるほど俺は戦闘にも慣れていないし強くもない。
「オオォォ! 逃げるな! コロさせろ!」
オーガーが物騒なことを喚いているが、俺も殺されたくなんてないので無視して森の外へ駆け出す。さすがにここまで予想外の事態が起こった状態で一人前がどうのこうのと言っていられないのでギルドに報告して依頼を中止したほうがいいだろう。
「………! ……!」
オーガーの叫び声が聞こえてくるが、無視して森を抜けようとすると、目の前にオーガーが二体立ちふさがった。
「グオオオォォォ!」
「ガアアァァァ!」
「くっ、アースシールド!」
ここは森の中だけあって地面に困らない。そう思って唱えてみれば、案の定少ない魔力で大地が隆起し、相手の視界を遮った。
しかし、オーガー共は既に臨戦態勢に入っており、構えた巨大な大斧で土壁を一気に突き崩した。行動しながらの魔法にまだ慣れていなかったせいか土の強度があまりなく、人間の腰ほどもある強靭な腕から繰り出される全力の一撃であっけなく壊されたのだろう。
まさかこうも簡単に魔法が破られるとは思わなかった俺は、一瞬立ち止まってしまった。
そんな隙を見逃してくれるほどオーガーは甘くなかったようで、土壁を破壊したオーガーとはまた別の1体がその太い腕に見合った鈍器で俺を横殴りしてきた。
「ぐっあああぁぁっ!」
まるでダンプが高速で激突してきたかのような衝撃は俺の体をバラバラにするのではないかと思ったが、事前に青魔法で強化していたこの肉体は以外にも頑丈だったようで地面をゴロゴロと転がっても意識も途絶えることはなかった。
「ぐっ、痛ぇなこんちくしょう!」
初めて受ける大ダメージではあったが、思ったよりも行動に支障はなく転がる勢いを利用してすぐに立ち上がることはできた。
魔法を使おうと魔法陣を作り出すとオーガーたちはけん制をしてきて、逃げようとすると、森の木々を各々の武器で殴り倒したりして行く手を阻んでくる。
もしかしてこいつらはあのオーガーたちが来るまでの時間稼ぎをしているのだろうか?
このオーガーたちは最初の一撃以外は積極的に攻撃してこようとはせず、こちらの行動にあわせてけん制をしてくるだけで倒そうとしてくる気配があまりない。
これはやばいかもしれない……。今まで組織だって行動するような敵を相手にしたことなんてない俺にも敵に増援が来るとまずいことはわかるため、時間が経っていく毎にどんどん焦っていく。
「ガッハハハハ! よくやったオマエたち! この人間はこの俺が直々に葬ってやろう!」
「追いついてきやがったか!」
目と鼻の先はもう草原なのに、そこまでの距離が果てしなく遠い。このままでは本気で命の危険かもしれないな。
「覚悟はいいか? なくてもオマエは死ぬんだがな!」
「こうなったら一か八かやってみるしかないか」
今まで俺は初級魔法やアイシクルレインしか使ってこなかったが、ここでこいつらを一掃しなければ組織だった動きに慣れていない俺ではあっさりと追い詰められてしまう。
なんとか最上級魔法が使えるだけのイメージがまとまるまで時間を稼げればこの窮地を脱せるかもしれないが、そんな時間をこのオーガーたちがくれるとも思えない。どうにかしてこいつらを相手にして集中できる方法はないものだろうか……?
そういえばこのオーガーは倉庫魔法を使って武器を出していたな。倉庫魔法は魔力変換できる物質を魂に保管する魔法ってリアさんが言っていたし、もしかしたら俺の魂にもなにか保管してあるのかもしれない。
最上級魔法を使えるだけの時間稼ぎができるものが保管されていたとしたら、俺は助かるかもしれない。
やり方なんて全くわからんが、死にたくないのでやるしかないな!
俺はダメージも相まって膝が笑いそうになるのを必死に堪え、右手を前に出した。
「ン? なんだ右手でもくれるのか。ガッハッハ!」
こいつらは俺が魔法使いだと思っているらしく、魔法以外に俺を恐れる理由なんて無いとばかりに余裕をかましているが、それが俺を助けることになるかもしれないので感謝だ。
俺の魂に入っているかもしれない道具よ! 俺に力を貸してくれ!
すると、体の内が暖かくなったような気がした時には手にそれはあった。
薄く青に輝く背丈を越える長さもある円柱形の金属棒に機械のような複雑な仕組みが施された長大な刃。しかし、見た目ほど重くなく、俺の手にしっくりくるようだ。それは俺がゲーム時代に愛用していた古代の武器。機械槍だった。
「お? オオォ? まさかアーティファクトを持っていやがったとは! これは予想外のラッキーだぜ!」
何かオーガーが言っているが俺の耳には全く入ってこない。やっと長いこと会っていなかった相棒に出会ったような高揚感が俺を包んでいたのだ。
「魔法使い風情にはもったいない武器だぜ! オマエが死んだ後にオレサマが大事に使ってやるから安心シナァ!」
そう言うとオーガーは俺に向かって突進してきた。巨体に似合わない俊敏な動きで迫ってくる様は、さすがこのオーガーの群れのリーダーだけはあるといった感じだ。
だが、俺はこの槍をただのお飾りで持っているわけじゃない。確かに魔法能力の向上なんかの効果はあったが、俺はこの槍を武器としてしっかり使えていたのだ。
ゲーム時代で扱えていただけというなんとも頼りない確信ではあったが、不思議とこのオーガーに接近戦で負ける気が微塵もしなかった。
その巨体に相応しい斧を縦に振りかぶって打ち付けてきた。
「剛力!」
今までよりも一瞬で発動した青魔法はその効果を十分に発揮し、槍を用いて相手の斧を流れるように逸らした。
「な、ナンだと! オマエは魔法使いだろう!」
かわされたと判断したオーガーはすぐさま踵を返し、距離をとって警戒してきた。たかが魔法使いに自慢の一撃を防がれたことに動揺しているのだろう。
「いつ俺が魔法使いだって言った……? 俺は前衛もこなせる賢者なんだよ!」
普通の賢者が前衛をこなせるかどうかはしらないが、少なくとも俺はゲーム時代でもアイリさんたちが取りこぼしたりした敵はおれ自身が接近戦でなぎ払っていた。そのおかげか槍のスキルレベルも十分一人前といってもいいレベルなのだ。
そして俺の望みどおりオーガーたちは十分に距離をとって警戒してくれている。最上級魔法を使うのに時間はギリギリ足りるだろう。
「し、しまったァ!」
目先の脅威にオーガーは気を取られている間にも距離をとってくれたことで魔法を使おうとしていたことを思い出した俺は早速イメージを固めていった。すると、いつもよりイメージが鮮明に、かつ素早く固まっていくのを感じた。
槍の効果、詠唱速度上昇だったり魔法威力上昇ってのは現実になるとこうなるのかと思いながらも魔法の準備を整え、俺は最上級魔法を解き放った。
「ブリザードォ!」
すると周りの景色が一変したかのように白一色に染められた。俺以外の全ての生き物を拒絶するかの如く氷漬けにされていく。倒れていた木々も、砕かれた地面も、周りのオーガーたちも、そして勿論目の前の巨大なオーガーにもその冷気は襲い掛かっていった。
「グオオオォォォォ!」
すさまじい叫び声が遠くから聞こえるかのように細々と聞こえてくる。すぐ近くに居るはずなのにこの魔法の影響で音がかなり遮られているようだ。
そしてやっとこの魔法の効果が終わった頃には周辺に音を出すものは一つとして存在していなかった。
最上級魔法が天災に匹敵するってゲームでは説明されていたけれど、所詮個人で起こせるレベルだと思っていた俺はこの光景に驚きを隠せなかった。
「こ、ここまで強力だとは……」
唖然としていると、目の前の氷の塊が唐突に砕け散った。
「ガアアァァァァ! ユルザンゾォォォ! このオレサマにここまで手傷をオワセルとはアァァァ!」
最上級魔法を解き放ったことですぐさま次の魔法を用意できなかった俺はなすすべなくオーガーの攻撃にさらされる。
「全く、やっぱり私たちがついていなければ安心なんてできそうに無いですね」
赤く輝く陣が俺の足元に張られ、オーガーの攻撃を難なく弾き飛ばす。
「確かにこれではアイリさんがタクミさんを一人にするのを嫌がるわけですわね」
俺の近くを何かが通り抜けたと思うとよろめいていたオーガーが一瞬で真っ二つに切り裂かれた。
「な、ナンダト」
そう零したかと思うと氷に覆われた地面に崩れ落ちた。
「最後の最後で気を抜くのはタクミさんの悪いところですけど、ここまでできるのなら一人前と認めてもいいのではないかしら?」
「……そうですね。私ももし主が一人になったとしてもこれなら大丈夫だと思います」
突然現れた二人に驚いて固まっていると二人は俺に微笑みかけてきた。まぁアイリさんは顔なんて見えないんだが。
「後で説教ですわね」
「覚悟しておいてください」
「え、ちょ、それは勘弁してください」
「「問答無用です(わ)!」」
俺はオーガーとはまた違った命の危険に晒されるようだった。
ギルドにオーガーが出たこと、人語を解し何かを調べていたことを報告すると、爺さんは神妙な顔つきになっていた。ゴブリン討伐はなんだかんだで終わっていなかったのでその分の報酬はもらえなかったが、オーガーを倒したことと情報をもたらしたことからそれよりも多くの報酬がもらえたので結果的には得をしたってことなんだろうか?
「何を馬鹿なこと言っているんですの? 危うく死に掛けた人が」
「そうですよ。命あっての物種と言うじゃないですか。もっと注意を心がけてください」
道中も宿に戻った後もボロクソ言われ、結構へこんだ俺だった。
これにて一章は終了です。
槍はプロットではもっと後に適当にだすつもりでしたが何か勝手に飛び出してきました。




