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この学校は、学年末の終業式に次のクラス発表がされ、それと同時に、担任がクラス委員長を任命する。

そうすることにより、新しい学年に上がった時、ある程度の混乱をさける事が出来るからだ。


確かあの時、

『二年のクラス委員長に任命された7人は、交代で入学式の受付をやりなさい』

と面倒くさい事を教頭から言われて、2組のクラス委員長を任命されていた俺は『そんな事やってられるか…』って逃げ回ってたんだよな(ちなみに逃げたのは俺を含め3人もいた)


教師に見つからないように、学校を囲うフェンス沿いを木陰に紛れるように歩いていて…。



『……おい、その新しい制服…新入生じゃないのか?』


フェンスの外、学校の敷地外の歩道に一人の生徒が座り込んでいるのが見えて声をかけた。

何やってんだこいつ。

特に何かの正義感を持って声をかけたわけじゃない。

ただ不思議に思ったから声をかけただけなのに、その新入生らしき人物は凄い勢いでこっちを振り向き、


『救世主!』


そうのたまってくれた。


…ヤバイ…、頭おかしい。


変なものに関わってはいけない。これは世界の鉄則だと思う。

その鉄則に従ってそいつを無視し、何も見なかったように歩き出すと、何故か相手もフェンスの外側を同じように歩いてついてきてしまった。

それに気付いて、数メートル進んだ所で足を止める。


『ついて来るな』

『ヤダ。アンタ救世主じゃないのかよ。早く俺の事助けろ』

『…助けを求めてる立場の奴がなんでそんなに偉そうなんだ…』

『細かい事言ってるとイイ男になれないよ』

『もう十分イイ男だから必要ねぇ』

『…あ~ぁ、自分で言っちゃった…』


呆れたようなその声に、ブチっと頭の血管が切れる音がした。

確かに俺も俺だが、こいつもこいつだ。失礼過ぎる。

もう相手にすることをやめ、フェンス沿いから離れて校舎に向かう。

そこでやっと自分の失言に気付いたのか、そいつはカシャンと音を立ててフェンスに張り付き、焦ったような声を出した。


『おい、ちょっと待てよ!鬼だなアンタ。俺がこんなに困ってんのに助けないで行っちゃう気かよ!』

『…全然困ってるようには見えないあげく、俺に喧嘩を売ってるようにしか思えない奴を助ける義理は無い』


進めていた足をピタリと止め、背後を振り向かずに言い捨てた。


『……悪かった…』


すると意外な事に、そいつはバツが悪そうに謝ってきた。

驚いて背後を振り返ると、先程までの人を食ったような表情から一転、本気で困っているように顔を顰めている。

さっきまで掴んでいたフェンスから手を離し、途方に暮れた顔で俯くその姿に、らしくもなく手を貸してやりたいような気持ちが込み上げてきた。


『……で?…こんな所で何やってんだよ。新入生だろ?』


一度溜息を吐いてからそう問いかけると、凄い勢いで顔を上げたそいつはまた勢いよくフェンスを掴み、


『正門が閉まってて入れなくて。このままだと俺入学式から欠席扱いになる!』


と大声で捲くし立てた。


…それは自分が遅刻したからだろ…。


内心呆れ返りつつも、相手のあまりの必死さと、そして新入生という事もあって、さすがに今回ばかりは先輩心が湧き起こってきた。


『…しょうがない奴だな…、そのままフェンス沿いについて来い。この先に抜け穴があるから、そこからこっちに入れる』


「ついて来い」と相手を促すように人差し指をチョイチョイっと動かしてから歩き出すと、背後で同じように歩き出す足音が響く。

そのまま振り返らず足を進め、フェンスの曲がり角まで来た所で立ち止まった。

そこには、人が一人通り抜けられるくらいのフェンスの破れ目がある。

新入生がその穴に気づいたのを確認した後、何も言わずに校舎へ向かって歩き出した。

これ以降は自分でなんとか出来るだろう。

背後で『あ、ちょっと…おい!』と呼び止めるような声が聞こえたけれど、面倒くさい事に関わりたくはない。

声を無視して校舎へ向かって足を進めた。




「…もしかして、お前…、あの時の…」


二ヶ月前の出来事を完全に思い出し、あの時の新入生が今目の前にいるコイツだとようやく気が付いた。

ってことはコイツ後輩じゃねぇか。数々の堂々たる暴言っぷりに、タメだと思い込んでいた。


けれど。


「…なんで頭がオレンジになってんだ。あの時は普通に黒かっただろ」


横に座る相手の顔をよくよく見てみれば、確かに見覚えのある顔だった。頭がオレンジ色に変わっている事を除けば…の話だが…。


「大人になるとオレンジ色に変わるの、俺の頭は」

「はいはい、そりゃ凄いな」


この短期間で俺のスルー技術もだいぶ発達した。

二ヶ月で突然大人になれるわけがない。そもそも人間は変色なんてしないだろ。


なんだか異常なほどに疲れて、体中の空気が抜けるくらい深い溜息を吐きだすと一気に脱力した。


「あー…、とりあえず初対面じゃないって事は理解した。…で?その命の恩人である俺に初っ端から蹴りを入れた理由は?」

「ん?普通に愛情表現」


当然とばかりに、けろっとした態度で言われてしまった。


…そこに何か疑問を持つ俺が間違ってるのか?違うよな、おかしいのはコイツだよな?


「お前の愛情表現は果てしなく間違ってる。…っていうか愛情表現は俺じゃなくて隣の女子高の子に向けてくれ」


このまま話していたら自分の常識観念が狂いそうだ。

とりあえずの疑問はとけたし、もういい。教室に戻ろう。

精神面の影響か、妙に重い体を動かして立ち上がった。


「入学式の事は気にしなくていい。親切心で助けた訳じゃないし単なる気まぐれだから。…ってことで、頑張れよ後輩。遠い空からお前の平和な日常を祈っててやるよ」


言外に、もう会う事はないという意味を含ませる。

下からこっちを見上げている視線を感じるけれど、気にしない。

これでもう振り回される事はないだろう。

内心で安堵の息を吐き出し、肩越しにヒラヒラと片手を振って屋上を後にした。









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