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Prologue:掃き溜めの歌姫/The diva of a rubbish heap


 演奏会を控えた彼女は、三日月型の弦楽器(クレッセント)を手に貧民街へと入り込んだ。

 嗅いだ事の無い、酷い臭いが鼻を刺激し顔をしかめる。

 塵に埋もれる様にして、生きる気力の無い瞳を向ける住人。

 希望を無くし、朽ち果てるのを待つ人達を前にして、彼女は息を飲んだ。

 胸が痛かったからか。

 心が辛かったからか。

 どうしようもなかったからか。

 気付けば、楽器を弾き始めていた。

 自分の好きな、明るい曲を、歌を添えて。

 演奏は酷い出来栄えで、歌声もずれていたかもしれないけれど、歌わずにはいられなかった。彼女にはそれくらいしか、出来る事は無かったから。

 それが彼女の示せる精一杯の、慈愛だった。



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