第9話 解放
さてさて、いつものように大変な3週間が過ぎましたよ。糸作りまくって金稼いで、たまに流民が来たから受け入れて、蜘蛛とオークとゴブリン見て驚いて一触即発になりかけて急いで止めて。マルクスの爺さんがあちこち売り回って金貨が3万枚になりましたよ。なんせ新たな子蜘蛛が産まれまくるんだもん。森の中800匹だよ?怖くて入らなかったけど。働いたのなら給料をしっかり渡すようにと言われたから先月分と今月分渡しましたよ。え?そんな稼げたのって?稼げましたよはい。遠くに行けば行くほどコストかかるからね。燃えにくいこともあって遠方のドワーフとかめっちゃウケが良く1人で30個買ってくれる人もいるくらいだとか。連日売り切れ大盛況。いやーすげえすげぇ。けどそろそろ一気に売るのやめよう。需要減るから。需要と供給のバランス大事。これマジな。
「とゆーわけで。とんでもない金額が貯まったので、これより奴隷を解放する!というか買いに行くぞ。」
「私も行きましょう。売り物は違えど同じ商人…。何より値引き交渉をするのも買い物のやり方ですからな。」
「随分とやる気じゃないか。」
マルクスの目つきが鋭い。いつもはなんというか、冴えないおっさんみたいな、だが穏やかさを兼ね備えた人だ。だからこそ商人として大成したのだよう。だが今回は違う。剣のように鋭い。そこらの兵士を怯ませられるんじゃないかと思うくらいに。
「当然でしょう。私は奴隷商人を心底軽蔑してるのですよ。人は自由でならなければならない。それを檻に閉じ込め、あまつさえ死んでも何も思わない。ならば奴らを赤字にしてでも潰しますよ。」
「同感だ。奴隷と契約した俺は偉そうなことは言えないが…あれを見るとな。」
檻に閉じ込められ、まともな食事を与えられない。挙げ句の果てには碌な光もない…廃人になるぞあれは。あの時ポケットマネーで食い物代とか渡したがどうなったのやら。脅しをかけいたとは言え。
「な、なぁヒロナカさん、本当に行くの?」
「また色んな人が捕まってるかも…」
「大丈夫だ。シルク、ルキ、俺とマルクスさん、30人の護衛で行くんだ。向こうもそう簡単に手出しできないからな。」
シルクとルキが不安そうにしているが大丈夫だ、高橋と山田も今回は参加すると言っているからな。それに…マルクスさんに手を出したら間違いなくジン王国がブチギレるぞ。アストリスの連中の顔が青ざめるさ。
「さて、出発だ!一気に…全力で駆け抜けるぞ!」
馬、馬車、全てが動き出すと砂煙が上がる。前は最初というのもあって5ヶ月かかったが、今回は速度を上げる。とにかく、馬の疲労を考えたとしても走りまくる2.5ヶ月で着くようにする。まぁ安全な道を行き、近道を通りまくればいい。
もちろん、もうそろそろ新たな季節だ。ジン爺さんに苗を渡して野菜をバンバン作ってもらうとしよう。この数ヶ月で開墾しまくったからな。一気に村人が増えても食力不足とかのような問題にならないように。
もうこの世界に来て移動だけで年が経っちまうよ!なんだかんだ1年近く、そろそろ2年だぞおい!
「走れ!走れ!走りまくれ!今回は早さが命だ!!」
俺は怒鳴る。時間は有限だからな。とにかく1日で距離を稼ぐ。昼飯を食って、必要最低限の休憩…走りまくる。
時には20人ほどの難民団がいた。山賊に襲われていたから容赦なく叩きのめす。
「邪魔!賊、殺す!」
「忙しい時に!死にやがれでゲス!」
「まだいるんですね!」
乱戦だ。だがこちらはオークが10人もいるしハナと言う強力な仲間がいる。
ゴブリンはその小さな体を活かして撹乱、その隙に俺とハナは後ろから突き刺し、高橋達オークは持ち上げて崖の下にぶん投げる。容赦ねえなオーク。賊は瞬く間に壊滅したが、こちらは2人が腕を切られたため薬を使い、包帯を巻いて止血する。
「金貨50枚を渡すから大陸最北部のここに迎え!俺の村だ!戦えるやつは武器と鎧を買え!」
「あ、ありがとうございます!」
俺の署名入りの書類を金貨と共に渡す。賊どもめ、これで少し遅れるじゃねえか!大国になったら全てを叩きのめすからな!
出発してからピッタリ2.5ヶ月、やっと到着する。幸い脱落者は出なかったな。馬達は預けよう。疲労がすごいからな。流石に3日は休むか…。
「シルクとルキはどうする?一緒に行くか?」
「う、うん!だ、だってもし前にいた人達がいたら…。」
「俺たちを心配してくれてた人たちもいるんだ‥。」
「10ヶ月以上は経っているからいるかどうかわからないぞ?」
「それでもだよ!」
いい奴らだな。頭を撫でると顔を真っ赤にする。なんか弟みてえ。さて、中に入るぞ。
「へっへっへっ…いらっしゃ…」
奴隷商人がゲスい顔で挨拶しようとしてくるが俺の顔を見て固まる。
「あれ!?あの時の!いや、驚きましたわ。」
「奴隷を買いに来た。案内してくれ。」
「へい。いや失礼、同じ客ってのはあまり来ないもんでしてね。」
ふーん、別に良いだろ。しかしそれだけで驚くか?まさか…な。あー…やっぱりか…。蝋燭の数も変わってないし、ほんのちょっとしか飯の質は良くなってない。食パンにマーガリンがついてる程度…やりやがったな?
「新たに入荷した奴隷と前から残っている合わせて300人。今回はエルフとドワーフもおりますぞ?北部の山賊達と契約しましてな」
俺は表面上ふーん。みたいな顔をしているが内心は激怒している。なぜなら前あれだけの金貨を渡したのだ。金貨340枚渡したのにこれ?日本円で1500万だぞ?前来た時とは違って、多少マシになっててもおかしくないのにガリガリだぞ…?マルクスと目を合わせる。マルクスには340枚渡して飯代と蝋燭代にしろ。私服に使ったら殺す。と脅しをかけたことも伝えてあるからな。マルクスも確認したように頷く。容赦しないと。
あ、あとマルクスはフードをかぶってもらい、水ぼらしい布切れも来てバレないようにしてます。まぁちょっとね。
「エルフとドワーフを買おう。もちろん『全員』だ。」
「太っ腹ですのう!結構結構!!…え?」
ハナが首筋に剣を当て、高橋が背中に槍を当て、山田が太ももの部分に剣を当てる。少しでも動いたら確実に死ぬ位置だ。一歩でも動けない体勢にしている。
「オデ、覚えてる。なんで食事の質変わってない?」
「俺も覚えてるデゲスよ。5ヶ月分渡したはずでゲスよね?なんでここまで痩せ細ってるでゲス?奴隷の質は上がって値段も上がるはずでゲスよ?」
「説明してもらいましょうか?あの時ご主人様は私腹に使ったら殺すと言いましたよね?言質取ってますよ?わかったとあなたが言った事も!!」
3人の表情が恐ろしい。それはそうだ…ここにいたからな。長い間。しかもランクまでつけられる商品扱いだ‥それは許せんだろう。シルクとルキも睨んでるぞ。
「な、なんのことですかな?し、質はあげましたぞ…?バターは塗ってますから…」
「舐めてるのかお前?あの時ご主人は食事の質をあげないと壊れるとまで説明してる。」
「おい、もうやめろ。あとはこいつとの話し合いだからよ、」
3人を下がらせると奴隷商人が安堵する。殺されないと、なんとか危機を回避したからな。
「まぁ安心しな、奴隷全員買ってやるからよ。文字通り全員だ。」
「ほ、本当に全員買うのか!?」
俺が指をパチンとならす。おそらく3万はくだらない金貨を持ってくると商人が笑みを浮かべる。手を擦り合わせて契約書を持ってこようとするとマルクスが前に立つ。フードをとり、布切れも脱ぐと商人が本気で絶句する。
「待ってもらいますぞ。まず奴隷を一回り見させていただこう。」
「…ま、ま、ま…マルクス!?な、な、なんで貴様が!?」
マルクスは無視して奴隷を見る。一人一人丁寧に。ランク制のことも説明してるからな。
「確認しますぞ、ランク制とのことですが、あなたが提示してる状態とは程遠いですな。BランクやAランクの者も傷や鞭の跡がある…。ランクを下げてもらえますかな?」
「そ、そんなことできるか!?大赤字だ!」
「ほう、ここまで痩せ細らせておきながら言えますかな?食事の質も全くあげてないのでしょう。10ヶ月近く前に5ヶ月分も食事代や蝋燭代をもらっていたのならその時の奴隷の質は上がっているはず。ランクも上げられて稼げるはずですぞ?すればその後でも食事代の余裕が出る…。山田殿のいうとおり、5ヶ月分とはかなりの大金。1年経ってもそれ用の費収入が入るはずですぞ?」
マルクスが問い詰める。商人が「うっ」と呟き冷や汗をかく。容赦するつもりないな。とことん値下げして潰す気だ。
「それに、何人かはそろそろ命が危ういのもいる。自傷行為に走っている者もいるのでそちらはDランクより安い値段にしてもらいましょう。」
「そ、そんなぁ!?頼む!そこまで安くはできな…」
「おや、そろそろ危ない者からもお金を取るのですか?金貨何枚ならよろしいのでしょうかな?私のようなその手の『素人』から見ても10枚分の価値があるとは思えませんが?」
とことん問い詰める。商人が「ぐぬぬ…」と悔しそうにし、拳を握りしめる。終わったな。商人が契約書を持ってくる。マルクスがとことん値下げ交渉をしたおかげで…なんと3万近く必要だった金貨が1万八千で済んだ。まじか!全員助けられなかったパターンも考えてたのに!すげえ…!
俺は急いで指示を出す。
「忙いで馬車を買うんだ!大小‥とにかく6人くらい乗るやつを買い占めろ!食料もだ!」
大急ぎになるぞこれは!奴隷達を急いで食事を取らせ、風呂に入らせる。衰弱のひどい者を優先に薬を取らせて、柔らかい食べ物を、とにかく胃に優しい食べ物を食べさせる。服も買い与えてオークやドワーフには鎧と槍や斧を与える。エルフ達には弓を与え、衰弱している者、女性達を優先に馬車に乗せる。
よかったなクソ王、またてめえの国に大金置いて行ってやったよ。感謝しろボケ。
街の人々の視線を感じながら出発する。いやーすごい光景だね。行軍だよこれ。最初の護衛と戦える奴ら合わせて120人が武器携えてるんだもん。すげー。
「お前、すごい。オデたちオークにはできない。」
「いえいえ、商人としてやったまでですよ。私は奴隷商人は嫌いでしてな!はっはっはっ!」
「それでも感謝してますよみんな。あそこは‥地獄でしたから。」
ハナにとっては思い出したくもない場所だろう。いやーしかしすごいな、エルフ、ドワーフ、獣人、オーク、ゴブリン各50人ずつ。人間の国にとっては亜人というのはここまでの扱い…貴族や買う者にとっては物や自慢する道具にしかならないのか…。
「マルクス、おそらくだがアストリス北部のあの街は…今日行ったところ以外にも他の奴隷商人の店があるかもしれない。あんたのギルドの情報網で調べることは可能か?」
「勿論、お任せを。伝書鳩を使い連絡しますぞ。」
そう、俺は一つ考えた。今回みたいのは大変なことになる。なら毎月1ヶ月に3人、また1ヶ月後に3人と送り、奴隷を買えるだけ買ってくる。衰弱がひどい者を優先に購入し、こちらでは馬車の生産と馬をとにかく大量に育てて多くの人々を連れて買えるようにする。奴隷から民に。それがしばらくの指針だ。
流石に歩きの者もいるから3.5月はかかるなこりゃ。がんばろ。
「シルク、どうした?」
「…もしかしたら父さんを知ってる人いるかなって聞いだけどいなかったんだ。」
「諦めるな。俺のいた世界にな、千里の道も一歩からって言葉がある。どんなことも最初の一歩から始まるってな。諦めるにはまだ早いさ。」
頭をポンポンと撫でると恥ずかしがるよくに手を跳ね除けようとする。
「や、やめてくれよ!恥ずかしいって!」
「ははっ、それじゃ行こうぜ。オーク部隊来てくれ!」
「どうした?」
ジャグと高橋が来る。
「長旅になる。北部に入ったらロバがいる地域がある。見つけたら捕まえてくれ。馬車を引かせるから。野生のだからな。野生のだからな?農家のはパクるなよ?フリじゃねえぞ?」
「わかった、任せてくれ。もう盗みはしないから安心しろこの馬鹿親分。」
「ぶっ殺すぞこの脳筋。」
「やってみろこのボケが!」
「おおコラァ!喜んで相手したるわい!」
「やめなさい馬鹿2人!」
ハナに飛び蹴り&腕ひしぎ十字固めをかけられ2人揃って黙らせられる。すんませんでした。
「なぁ、ハナって間違いなく俺らの村で最強だよな。」
「あの女強えよ。オーク超えてる。」
「いや聞こえてますからね?」
俺とジャグの話にハナがため息をつく。アホやってないで早く行け。と言う空気が出たので出発する。トラックがあれば楽なのになぁ。




