第8話 交易と荒稼ぎと新たな人々
蜘蛛達がきて1ヶ月、というか俺この世界に来て1年以上経ったよ。ていうか間違いなく1年半はいるよ多分。みんなからお祝いされたよ。ありがとう。
しかしまー、またまた大変でしたよ。最初はまさかの蜘蛛種族が仲間になることに賛否分かれましてね?食われるんじゃねえかとかクモ恐怖症の方とか。だけど蜘蛛達が必死に話し合おうとしたこと、俺が糸の重要性を伝えたこと、何よりここは他人種国家を目指していることを話し、なんとか受け入れられたのだ。つーかもう人間、オーク、ゴブリンといるんだからよー。元賊もいるんだから。あ、蜘蛛族は仲間にはなったけど村に住むと迷惑ということで殆どが近くの森に住んでる。だから人口は敢えて含めない。多分そのうち1000体は行くだろ確実に。
「牧場の開拓が良くなったな。馬10頭、牛20匹、鶏50羽、いやー見事見事。肥料の生産もかなり順調だからな。」
「骨粉の生産も順調のようです。蜘蛛たちが食べてきた物、山賊が食べてきた肉類の骨がいっぱいあったのが幸いでしたね。」
「しっかり火にかけて消毒、滅菌もしてるからな」
うんうん。いいぞいいぞ。さて…次やることだが。荷車に大量に積んだぞ。糸をそりゃとんでもない量を。蜘蛛の生産力すげえよ。
「川の水でしっかり洗ってるし、お湯につけて消毒もしている。ケツから出てるんだもんやるわ。流石にやるわ。」
おかげで主婦の方々の働き口が増えたけど。つうかこんな凄い糸は初めて見る!とか言って驚いてたからマジですげえんだな。蚕かよマジで。
「それじゃ近くの街に行ってくる。これで俺らの村も安泰にしてやれるぞ。行くぞ、ハナ。」
「では行ってきます!」
ガラガラと音を立てて馬車が出発する。あーなんか馬車に乗るの久々だな。前みたいに大量の重たい荷物を乗せてないから早く動く動く。ここら辺の賊もぶちのめしてるから安全だしな。
「しかし売れますかね?」
「半々と言ったところだな。俺たちは交易なんて初めてだし、商人を見つけなくちゃならない。それなりに稼げれば上々、と思うくらいにすれば良い。何事も最初からうまく行くわけじゃない。」
「そうですね。私でもわかるくらい質はいいので、うまく行くことを願いましょう!」
2人で微笑み合いながら移動し続ける。風は冷たいがなぜか心地いい。本当にうまくいきそうな、そんな気がするな。
街『グリムフォード』にやっと到着する。入り口で守衛が荷台を確認するため商人や引越しのために来てるものなどが多く、渋滞になっている。ここは北部でも有数の治安のいいところだ。アストリスやジン王国と違って大きくはないが、活気はある。
外からでも見えるが、肉屋の店主が大声をあげて客寄せし、服屋の主人も道歩く女性に勧めている。いやーすげえな。久々に見るよこんな光景。
「すいません、荷物の確認を。」
「はい、私達の村で作った糸です。」
「わかりました。商売をするには許可が入りますので、まずは街の長に許可を得てからでお願いします。地図を渡しますので。」
頭を下げて入る。兵士にも統率が行き届いているな。ここなら安全だろう。まぁスラムに行っても負けない自信があるけど。さて、んじゃ町長さんに話をつけてきますか。街だから市長か?よくわからねえけどまあいいや。
町長のところに行き、正式に許可をもらう。さて…商売とか契約始めますか。
「うーん、蜘蛛の糸ねえ…うちはもう羊毛を扱ってるからさ。」
「蜘蛛の糸かい?すぐ破れそうだからちょっと遠慮するよ。」
「ねばつかないのはいいけど、ちょっとやだねえ…」
うまくいかねえ!!畜生、まじか!?まぁビギナーズ・ラックとはいかないか畜生め。
あちこちに話をしてみるがうまくいかない。20件は回ってるがやはり反応は良くないな。頭を掻いて考えるが思い浮かばん!とりあえず昼飯食おう。
俺はステーキ、ハナはパンと具沢山スープを頼む。
「いやーうまくいかないな。これ破棄することになったらコストが掛かってないとはいえ大赤字だぞ。」
「やはり蜘蛛の糸と言うのがネックなのでしょうね。よく考えたら、知らない人からすればよく思いませんから。」
「だよなぁ…。」
何もかも優れているのだがその一言で瓦解してるからなぁ。ケブラーなんてこの世界にはないから説明できんし…。
うーん。
「おお!?この糸は…なんと言う見事な物だ!触り心地、質感、強靭性に優れている…どこの者がこれを!?」
なんか知らねえジジイが荷物を勝手に見て、触ってやがる!!おいコラァ!!何やっとんだ貴様!
店主に少し頭を下げて出る。何も言わなかったら食い逃げになるもの。捕まるわ!
「おいアンタ!何やってんだ!!」
「いやいや、これは失礼しました。これは貴方が持ってきたものですな?」
「そうだが?」
冴えないが横幅に恰幅の良い風貌のおっさんだが、糸をしっかり見ている。目は光り輝き、品定めをしている。
まさか…商人か?
「あんた…商人か?」
「ええ、私は大陸北部のあちこちを売り渡っている商人のマルクスと申します。まず、勝手に触ったことは謝罪しますぞ。」
「い、いや、大丈夫だが…」
頭を下げてくる。流石に謝られたら何もいえん。礼には礼を、だからな。
「失礼ですが、どのようなものを売り歩いているのですか?」
「色々ですよ、食材、日用品、武器、こう見えて私は商人ギルドの顔役の1人でしてな、ジン王国を本拠にして、私は北部を活動の場にしてるのですよ。」
「ジン王国、ヒロナカ様が傭兵として参加してた国ですね。知ってましたか?」
知らん。戦争ばっかだったもん。金稼ぐのに必死だったもん。商人ギルドなんて興味なかったもん。
「いや…?戦争一筋だったからな。」
「なるほどなるほど…では失礼ながら、あなた方は商売の素人でしょう?」
「はい。最近村を作り、そこで作ったものですし、大量にできたから商売しようと。」
マルクスは笑みを浮かべて頷く。とりあえず中に入るよう促して3人で席に座る。
「まず、商売をするなら経験ですぞ。例えどれだけ質が良くても売れなければ意味がありません。あなた方は武勇があり、傭兵として雇われてもうまく行きますが商売はそうはいかない、新たな物を売る以上、相手には納得させなくてはなりません。客人にとって質の低いものか良いものかはわかりませんからな。言い方は悪いですが、武人は文字通り武器を使うのならば我々は口が武器であります。」
「確かに…私たちが知ってても他の人から見れば不安ですね。うまく説明できないのも事実ですし、貴方の言う通りお恥ずかしながら、一つも売れませんでしたから。興味も持たれませんでしたし。」
「左様。商売とは信用によって成り立つものです。そこで一つ提案なのですが、私にここは任せてくれませんかな?全部売り捌いて見せましょう。」
自信満々に提案してくる。全部だと?腐るほど持ってきてるんだぞ?3000個くらいあるんだぞ!!売れなかったのにやれるのか!?
「いや、本気か?」
「本気ですぞ。今回はサービスで売り上げの取り分は7:3にしましょうか。そちらが7、こちらは3の取り分で。ここまで自信満々に言って売れなかったら示しがつきませんからな。隣町や北部のあちこちを行きますから、2週間はおまちくだされ。」
はっはっはっと笑い声をあげる。悪くない条件だが…本当に信用できるのか?
「店主、ちょっといいか?」
「マルクス様のことですね?ご安心を。このグリムフォード…いえ、この周辺では知らない人はいないくらいの有名人ですよ。この街が発展したのもあのお方のおかげです。」
「ありがとう。マルクスさん、アンタに頼むよ。馬車を使ってくれ。」
お任せください。その一言だけいうと俺の馬車に乗り出発していく。2週間かかるなら俺の村に来て欲しい。と伝えて場所を教える。2週間か…俺とハナは街を散策するか。
マルクスは馬車を運転しながら笑みを浮かべる。この糸を作れる新しい集落とは面白いと。もしいい村なら…あえてそこに住み発展させようと。村から町へ、そして国へ…あの男はもしかしたらそれを考えている。勘だが…それはおもしろそうだ…と。
いやー本当にすごいな。8000人いると聞いたが、やっぱすげえや。家畜用の豚や牛まで売ってら。蜂蜜まで!?かなりの高級品だぞ…大陸北部の街とは思えない。
これは情報収集するか。あの商人のことを。
「そりゃマルクス様のおかげさ。あの人が俺らに商売のいろはを教えてくれたんだよ。ここもスラム同然だったんだけどね。」
「あの人がジン王国から質のいい武具を仕入れてくれてね、兵士の質も上がったんだよ。昔はほんと酷かったからね。」
「あの人が交易ルートを作ってくれたのさ。家畜、馬を連れてきてくれてね。ほんと頭が上がらないよ町長ですらあの人には逆らえないお方さ。」
うん、チート確定じゃないの。すげえな商人ギルドの顔役。ここまで信用を得てる人なら間違いなく売り捌けるだろ。いや、慢心じゃなくてガチで。本気ですげえ人だな。適当に治安のいい街を選んだだけなんだが。大物がいるとは。
あ、馬車がねえ。仕方ないから馬買って帰るか。
村に戻り、とりあえずいつも通り指示を出しながらマルクスを待とう。
2週間後、マルクスがやってきた。…おいなんだあの荷台に乗った袋は。
「全部売れましたぞー!価値は金貨1.5枚分になり、4500枚ですな。」
「嘘お!?全部でそんな価値ついたのか!?2、2週間で半年かけて…俺が傭兵生活で貯めた金の倍…!?」
4500枚…?確か金貨の価値は1枚約5000円あたりだから…2千2百50万!?まじか!!住民たちもざわついてるじゃねえか!しかも材料はほぼゼロコストだから…。凄まじい黒字だぞ!!
「す、すごい…!」
「こんな金貨の山初めて見た!」
「お、親分!こいつはすげえですぜ!」
いやまじですげえよ!!こいつを毎日…毎日売り捌けば…!!うへへ、涎出てきた。すげえな、まさか絹の価値を超えたとは…!うへ、うへへへへへへ。
「では約束通り、取り分はいただきますぞ?」
「ああ、1350枚だな。こちらが7、あんたが3だ。」
「1枚もまけませんからな?では…私の住処を用意してもらいましょうか。」
…はい?住民達も俺も「この人何言ってんの?」みたいな顔をする。そんな約束してたっけ?俺知らんぞ。
「ん?俺そんな約束…」
「いえいえ、私が今決めたことです。失礼ながら、まだ発展途中、ですが人間だけでなくオークとゴブリンを含めた亜人と共に暮らしている村はここだけでしょう。これは面白い…。廃村からここまで立て直し、だいぶ整ってきている。ですが足りない。貴方の野望は見透かしてますぞ?言いたいことはわかりますな?」
「店…そして商人だな?」
鋭いなこの人。そう、村ではあるがいずれはここも町にする。そして国にする。なら店も、商人も必要だ。
「ああ。今でこそ糸が売れたからいいが無一文だったのも事実だ。だが人口が足りないぞ。流民や難民達を集めて、暮らしの場所をつくるので精一杯だ。」
「ええ、私が協力しますぞ。貴方の目標…他人種国家を作るなら今以上に基礎を作らねばなりませぬ。人口もどんどん増やさねばなりませぬ。」
「ヒロナカ様…人口に関してですが…それについて私に考えが。」
俺とマルクスにハナが提案してくる。それは予想外の、だが、一気に増やせるが、予算は危うくなる策…いや、糸の価値が確定したから…やれる作戦だ。
「アストリス王国の…あの奴隷商人の店に行き、奴隷を解放しましょう。あそこには300人の奴隷がいます。糸は今在庫が8000個ありますから…それを売り…奴隷達は合法的に買えば向こうは何もいえません。」
「ほう….大胆ですが有効な策ですな。いいでしょう。この糸でしたら取り分は7:3のままで結構。私が責任を持って売り捌きますゆえ、3週間ほど時間を与えてくれませぬかな?1日の生産量は?」
「1日で森の蜘蛛も合わせて500個と言ったところだ。…よし。わかった…。やるぞ!武力ではなく、合法的に解放する!蜘蛛達もバンバン作ってくれ!この3週間で…やるぞ!!一気に増えれば…店を出せるぞ!」
こいつはすごいことになるぞ…。300人の奴隷を買うなんてな。金貨が今ここで無くなったとしても…村人が増えれば税収が増える。いや、500人になれば小さな町だ。それに、大量の金貨をもらえればあの商人もサービスしてくれるだろうよ。よし、やるぞ。




