第24話 地獄の訓練と隊長の真意
シルクをハナと共に交代しながら鍛え、俺は休憩してタバコを吸いながら軍の訓練を見つめる。いやーテレビで見たことあるけどやっぱ自衛隊ってすげえな。俺の友人も自衛隊のやついたけど二度と前期教育は受けたくないって言ってたもの。しかも班長に(いい意味で)目をつけられて特科に行かされそうになって全力で施設か普通科選んだやついたからな。いやまぁあいついじられキャラだったけど。
新人達がボウガンを持つ。中には「射てるのか!」と気合を入れたやつもいたし流石にこれにはテンションが上がっていた者もいた。
だが矢を一本も支給されない事に流石に困惑していた。
射撃訓練と言われたはずなのに構えて、弦を弾いて引き金を引く動作繰り返すだけである。矢はセットもしない。
「な、なんで矢を射たせてくれないの…?意味があるのかな…?」
クレアはつい呟いてしまうが指示された通りに行う。だが他の新兵達も同様の気持ちのようでその呟きに頷いたり、クレアに同意するように班長達に目線を向ける。何人かはやる気を無くしたのか弦を引いて引き金を引くが異様にテンションが低い。
クリストフも同様に真面目にやっているがそれでも疑問に思ってしまう。
「基本動作もできない、射撃姿勢もとれないやつらに矢を渡すわけねえだろ。まさかお前ら…実射しねえからって舐めてんのか?」
立川が睨みつけて、静かに怒りを示すと全員がビクッとする。
「訓練兵如きに射たせる矢は1発もねえ…!無駄にできるわけねえだろ…。」
手を抜いたものは腕立てをやらされ、真面目にやっていたものは射撃を続行させられる。
「おいお嬢様、貸してみろ。」
「は、はい!」
「…いや、こう言う時はそんなに緊張しなくていいぞ?」
クレアが立川に渡すと丁寧に受け取り、騎士が持ってきた矢を受け取とるとセットしてしっかり狙って射つ。初めて射つはずなのに的の真ん中に命中させたのだ。
「これができるってんなら矢を渡してやるよ。1発でも外したらどうなるか分かってんだろうな?」
誰もやろうと思わなかった。次元が違うのだから。
「すげえな自衛官。」
「初めて射つのに当てるとは…」
流石に俺とハナは見ていて感心してしまう。いや本当にすげえもん。しかし…クレアは大丈夫か?顔やばい事になってるぞ?お袋さん心配してるだろ確実に。
これで午前は終わるが午後も厳しい訓練が始まる。腕立て、ランニングととことん体力を作らされる。
さらに罵声と罵倒が飛び、ランニングは全力で走らされる。
「おい走れ!ちんたら走ってんじゃねえよ!」
「は、はいぃ…」
「返事しろ!!」
「は、はい!」
「声が小せえんだよ!!舐めてんのかてめえら!」
ノーラはそれを見ていたがあまりの罵声のひどさに口元に手を当ててしまう。すぐに長岡を呼ぶ。
「ナガオカ殿…これは一体どういう事ですか?」
「訓練ですが?」
「それはわかっております。ですが、やり過ぎではありませんか‥?」
ノーラは罵声と罵倒を聞いて苦言を呈する。だが長岡は真意を伝える。
「精神と肉体、両方強くならなければなりません。戦場に出るということは生死に関わります。」
「……。」
「極限状況でも動けなければ意味がありません。さらに判断が1秒でも遅れてはなりません。たったその1秒の遅れでも仲間が死にます。戦場は一分一秒の遅れでも多くの犠牲が出るのです。」
ノーラ女王も白薔薇騎士団の騎士達は、理解する。
「我々自衛隊は実戦は経験しておりません。ですが、いつ、いかなる時でも有事の際に必ず動けるよう訓練をしております。国民を守るための組織。それが自衛隊ですから。女王陛下、 娘さんが騎士に憧れて訓練に参加するのは良いでしょう。ですが、戦場に出てパニックを起こしたら?教育も受けてないのに指揮をとって部隊が壊滅した時、戦死した騎士の遺族になんて説明しますか?娘さんの無謀な指揮で部隊が壊滅したと言えますか?それで遺族は納得しますか?」
「いえ‥納得しません。」
「そうですね…。稽古の際、接待すべきではありませんでした。」
リーゼとノーラは甘さを痛感したのだ。彼らを罵倒しているのは理不尽への耐性をつけさせるため。自衛隊の隊員達は心を鬼にしてやっている事に。軍と騎士団は国を、国民を守るための組織である。
愛国心からだろうと、給料目当てだろうとどんな理由で入っても軍に入る以上は覚悟しなくてはならない事なのだ。
「クレア…頑張ってね…。」
「クレア様…」
心配する2人。ノーラにとっては可愛い娘、リーゼにとっては可愛い妹分だから尚更だろう。
「クリストフ…」
エレナも心配する。弟が毎日怒鳴られてると知ったらそれは穏やかな姉は心配するのも当たり前だろう。
「ご安心ください。必ず娘さんを、クレア様を立派な騎士に鍛えます。」
「ナガオカ殿。娘をよろしくお願いします。」
長岡が敬礼するとノーラ王女とリーゼが頭を下げる。自衛隊の無骨な敬礼と美しい所作で気品のあるお辞儀が妙な対比を映し出していたのだった。
夜、部屋で明日の準備が終わるとクレアとリズが雑談をする。
「ねえ、リズは怖くないの?」
「怖いですよ…。だけど家族のためなら耐えないと…。」
「リズは兄弟も多いもんね…。」
「クレア様は?」
「正直にいうと帰りたいよ。お母様とお姉様に会いたいよ…。だけど今ここで辞めたら情けないし、家族に合わせる顔がないよ。」
疲労が溜まっているのだろう。元気がない。
「リズはすごいよ。家族のために厳しい道に入ったんだもん。私は…騎士団に憧れてただけだから。」
「そんなことありませんよ。騎士団を真剣に目指すことは変じゃないです。夢を叶えたいなんて当然ですよ!」
リズは本気で思っていた。クレアがリズの方に向くと微笑むが、すぐに正面を向くと俯く。疲労だけとは思えない。
「クレア様…?」
「大丈夫だよ。辞めないから…」
ただその一言だけをいうと寝てしまう。リズは内心不安に思うのであった。
シルクは走っていた。新兵訓練を見て自分まで強くなると誓い、鍛錬が終わった後も自主的に城下を走る。
「あれ、確か君は‥ヒロナカ殿と一緒にいた…」
「あ、エレナ様!?」
弟クリストフのため、摂政に自国で政治を任せて1週間ほど滞在することにしているエレナは街を護衛と共に歩いていたらシルクを見かけて話しかける。とは言っても明後日には帰国するが。
「そう畏まらなくても大丈夫ですよ。あなたも参加してたのですか?」
「い、いえ!ただ強くなりたいためにヒロナカさんとハナさんに鍛えてもらってるんです!鍛錬は終わったのですが、その…体力をつけようと。」
「ふふっ立派ですね。」
エレナの笑みにシルクは赤くなる。
「え、えと…クリストフ様とクレア様をみて…妹を守るために自分も強くなりたいだけですよ!」
「凄いじゃないですか。ルキさんの為に…尊敬します。」
「い、いえ!その‥俺、ヒロナカ様に助けられて、ハナさんや高橋さん、山田さんに助けられてきて、ずっと無力だったから…皆んなが戦ってる時も俺とルキは見てただけだったから…。クリストフ様、クレア様が厳しい訓練を受けるから情けないと思ったんです。」
シルクは廃村に到着するまでずっと守ってもらっていた。自分が強ければ、戦えれば奴隷にならなかった。家族と離れ離れになることはなかったとずっと思っていた。
あの厳しい訓練の始まりを見た時、強くなりたいと思ったのだ。
「情けなくなんてありませんよ。今あなたは強くなろうとしている。妹さんを守りたい、その御志を持った時、あなたは道を進んでいるのです。私も無力でしたから気持ちはわかります。父上も母上も亡くして、王を継ぐ時不安で押しつぶされそうになりましたから。」
エレナはかつてセリスが滅びた時、クリストフと母と共に逃げた。父はドラゴンに焼かれ、街は燃やされ、もはや収拾はつかなくなり、とにかく生きるのに必死だった。廃屋に逃げ込み、隠れ、村にいき3人で大人しく生活していた。だがある日、賊が村を襲い母を殺され、幼かった姉弟は必死に逃げ、森に隠れた。その時、生き残った一部の騎士と臣下に保護され、村で暮らした。そして‥昨年再興したのだ。
「だからあなたの気持ちはわかります。応援することしかできませんが‥どうか頑張ってください、シルクさん。」
「ありがとうございます、エレナ様…。」
王族と奴隷から助けられた少年、立場は真逆だが、互いに気持ちは理解していたのであった。




