第23話 訓練の始まり
クリストフが着替えを持って馬車の前にいる。しばらくは俺たちとセリス王国の2人も滞在する事になってるからな。着替えとかも持ってきてて正解だった。
「クリストフまで参加するなんて!かっこいい騎士になって自慢したかったのにー!」
「俺だって義勇軍を設立したからだよ!みんな訓練を受けるのに設立した張本人が楽するなんておかしいじゃないか!」
やかましく口喧嘩をしている。会談の場ではおとなしかった2人だが素だとこんな感じなのか。なんか友人以上恋人未満って感じだな。あれ?涙出てきたこんちくしょー!
「絶対負けないもん!クリストフなんて成績で負かしてあげるんだから!」
「昔からセレナ姉さんがいないと勉強できないやつに言われたくないよ!」
「エレナ姉さんに甘えてばっかだったくせに!」
互いに小学生のような言い争いをしながら睨み合っている。仲良いなお前ら。
「はいはい、そろそろ時間よ。早く馬車に乗りなさい?」
「あ…うん!それじゃママ、お姉ちゃん!頑張るね!」
「ノーラ様、頑張ってきます!姉さんも待っててくれよ!」
2人は元気よく告げると馬車に乗り込む。頑張れよ若者。俺やハナ達も向かうから。
訓練場に続々と人が来て、受付を済ます。隊員達が集まり、義勇軍の兵士たちととクレアが訓練場に集まる。隊員10名が壇上に立っており、白薔薇近衛騎士団の騎士達とセリス王国の騎士達も眺めている。
「今日から君達の教育を行う、陸上自衛隊の長岡二尉だ。よろしく。」
「同じく、陸上自衛隊、立川三尉だ。よろしく。」
「松山陸曹長だ。よろしく!」
隊員達が自己紹介していくと義勇軍の兵士たちとクリストフおクレアも返事していく。クレアなんてやる気がすごいな。ノーラ女王が「強くなれる訓練を受けれるわよ。」と伝えた結果そりゃもう凄かったよ。目をキラキラと輝かせて、ノーラ女王に頑張るって言ってて、絶対国を守れる強い騎士になる!って言ってるんだもん。いやすごいわ。可愛かったわ。
女性はクレアを含めて10人しかいないな。
「部屋は各隊員が必ずチェックするからな。ベッドメイク、部屋の整理整頓をしっかりやるように。」
全員がゾロゾロと入っていくと隊員達は10人しかいないため、教官として協力するよう頼まれた30名ほどの両国家の騎士達が班長として説明していく。陸士長の隊員達がやり方を穏やかに説明して、騎士団の人々も手本を見せている。まるで学校のように穏やかだ。うん、穏やかだね!
「クレアと同じ班か。流石に男女別だから俺はこっちだな。クレア、頑張ろうな。」
「うん!弱音を吐かないよう頑張る!お互いに頑張ろうね!」
2人は部屋に入っていくとその光景にリーゼとレベッカは微笑みながら眺めているが、同時に妙なことを感じた。
「あ、あの…ナガオカ殿、妙に穏やかでは?」
「リーゼさん、大丈夫ですよ。わからないことだから仕方ないのですから。最初から厳しくしませんよ。」
長岡二尉が穏やかにいうとリーゼがキョトンとする。レベッカも不安そうにしており、「団長、大丈夫ですかね?」と聞いている。ジェイクとジャックも同様で、ハナも困惑している。普通訓練というのは厳しいはずなのに優しいのだ。うん、異様に優しいのだ。ナンデダロウネー?
5日間は基本教練を行う。やり方を優しく説明しながら、新米兵士たちはぎこちないながらもやっている。間違えても隊員達は怒らないで、「大丈夫!」みたいに笑いながらいう。朝の点呼も穏やかだ。しっかり並ぶと長岡二尉が敬礼して終わり。ハナが「緩みませんか?」というと松山さんが穏やかな顔で「大丈夫大丈夫」という。うん。大丈夫だねー。あと、3ヶ月訓練するけど大丈夫なの?って思うけどタキア連合、俺たちの同盟に警戒してて動けないってさ。
6日目、入隊式を行う。まぁ宣誓して、国を守ると誓う式だが。騎士団の正式な服を着てるから全員顔が自信満々に溢れている。かっこいいもんな。自衛隊は迷彩服だけど。さて…明日が大変なことになるぞ。俺はシルクとルキを、あとハナも呼んで「明日5時30分には起きてろ」と伝える。3人はポカンとしているがまーわかるよ。高橋と山田?爆睡してるよ。まぁ関係ないもんな。
夜、クレアの部屋では1人の少女が緊張していた。彼女の名前はリズ。クレアやクリストフと同じ16歳で、母親と5人の妹弟達を養うため、給料や待遇面、さらに勉学も習えるため騎士団に志願した少女だ。
「リズ、緊張してるの?」
「は、はい。私‥体力がないので、運動音痴ですので皆さんの足を引っ張らないか不安で…」
「大丈夫だよ!ナガオカさんも言ってたじゃん!ちゃんとみんなの体力を見て無理させないって!ね、お互い頑張ろ!」
「は、はい、クレア様!その…私がバディですが、改めてよろしくお願いします!」
「畏まらなくていいよ!ここじゃ同じ立場だからね!私も同じ歳の子がいて嬉しかったから!」
部屋の中で2人は微笑ましく、握手する。この出会いがのちにクレアの心を変える。
「騎士団の皆様にお願いがあります。明朝6時、教えたラッパを鳴らしてください。必ず6時ぴったりに。私が1ヶ所の扉を開けたら明日必ず…私たちと同じことをしてください。」
長岡二尉がそれだけ言う。騎士団の教官達がやり方を教えられてるとはいえ「自衛隊の人々…ここまで緩いことをしてたのに?変わるわけないだろ?」と言う疑問がある。まー明日わかるよ。
朝6時、6時ぴったりになると長岡二尉が騎士団の女性の肩を叩く。腕時計があるからね。時刻がずれないように見てくれているのだ。騎士が頷くと5人がラッパを鳴らす。爆音でとんでもなく響き建物内がすっげえことになる。いびきをかくもの、熟睡してる人々が一斉に飛び上がり、ウロキョロしていると騎士団に手本を見せるように隊員達が扉を勢いよく開ける。そして…昨日までの優しさが嘘のように豹変した。
「てめえらいつまでぼーっとしてんだよ!!とっとと靴履いて集合しろや!!」
「早くしろ!!てめえらいつまでお客様のつもりなんだよ!!」
「おいコラァ!!区隊長や俺らが早く起きてんのにいい身分だな!!とっとと靴履けや!何やってんだ!!おいコラァ!!」
騎士団が急いで扉を開けて同じように怒鳴る。女性騎士も困惑しながらも同じように怒鳴る。妙に無理してるように見えるが。隊員達が班長の部屋は大騒ぎになり、クレアなんて目を丸くして急いで飛び出す。
急いで集合すると長岡二尉が腕時計を見る。
「全員が整列を終えるのに1分遅れたな。何をやってんだお前達は?俺たちの教えも守れないのか?」
まるで虫ケラを見るような目で見る。騎士団ですら何人か顔を見合わせ、ハナが絶句し、シルクとルキが震える。隊員がこっそり肩を叩いて「大丈夫大丈夫、君たちは怯えなくていいよ。」といって安心させてるが。リーゼとレベッカは口を丸く開けて、ジェイクとジャックはあまりの豹変に顔を見合わせて固まる。
「全員腕立て用意。俺がやめ、と言うまでやれ。」
その一言だけ言うと隊員達が困惑している新兵達に怒鳴る。
「てめえら何ぼーっとしてんだよ!腕立てだよ腕立て!教えただろうが!!」
「長岡二尉の言うことが聞けねえのか!?区隊長の命令だろうがよ!!」
「早く始めろよ!!なにやってんだよ!?」
罵声と罵倒が響き、急いで腕立てを始める。なんなら白薔薇騎士団(建物の2階と3階で寝てた)の方々が驚いて窓を開けて絶句している。
「な、な、な…!!」
「昨日までの優しさどこいったんだ…?」
ジェイクとレベッカが愕然として呟いてしまう。隊員達は無視して怒鳴り続ける。
「てめえ王族だからって甘えんなぁ!!」
「こっちは頼まれてんだよ!優しくしてくれるって思ってんじゃねえぞ!!」
「は、は、は、はいぃ!」
「す、すいません!!」
「うわぁ…」
クレアや何人かが涙目になり、クリストフは汗を流しながら腕立てをやる。必死に腕立てをするがさらに罵倒が飛んでくるからリーゼは絶句してるよ。
「顎つけろ顎!顎が地面につくまで下げるんだよ!」
「俺ら手本見せたよなぁ!?」
「は、はい!!」
必死に顎をつけるが腕がプルプルと震えている。30回はやっているが止める気配がない。何人かが顔を下げると平本という名の三曹が近づく。
「顔を上げろ。バディは顔を上げてやってんだろうが!」
さらに増渕と言う名の二曹がわざとだるそうに言う。
「やってる者はやってるよ。あー頑張ってる奴はやってるなー。」
ルキは震えるがあまりにも酷い発言にその隊員を睨みつける。ハナですら流石に怒りの表情を向けると松山陸曹長が近づいて誤解を解く。流石に2人に、耳元で真意を伝えるとハナは頭を下げて、ルキは困惑するがハナが肩をポンポンと叩く。
「やめ!!」
それだけ言うと新米達が立ち少し安堵そうにする。
「何人かサボってる奴がいる。それは仲間に対する裏切りだ。かがみ跳躍用意!」
あまりにも無慈悲に言うと実行して新兵達が必死に飛ぶ。
「低い!」
「もっと飛べ!!」
「チョンボすんな!」
チョンボって何!?と俺と隊員達以外の全員が内心思うがそんなことはどうでもいいレベルで地獄絵図が広がる。20回やるとやめさせて部屋に戻らせてベッドメイクをさせる。
「か、帰りたいよ…」
「こ、怖いです…クレア様、何が起きてるんですか…?」
「わ、わからないよ…。教官達怖いよ…」
薔薇騎士団の騎士、ルナが罪悪感MAXだからか(厳しすぎじゃね?的な意味で。)怒鳴るが、隊員達と違い、少し声量を抑える。
「早くやれ!モタモタするな!」
「は、はい!」
ベッドメイクを終わらせる。そしてルナが一つ一つ確認していく。
「問題ないな。それじゃ…」
クレア達がベットの横に立ち、問題なしと言おうとするが後ろで見ていた長岡二尉が見逃さない。
「な、ナガオカ殿?なにを?」
ルナが困惑すると長岡二尉が無言でシーツを引っぺがす。さらに地面に枕も、シーツも床にぶちまけ、10人中7人のシーツが引っぺがされ(クレアは意外にもできてたからセーフ)、冷酷に言う。
「やり直せ。しわが残っていたぞ。」
腕を組みながら見張る。急いで直し、しわをとり、綺麗に整える。ルナは愕然として見つめてるが長岡は一つ一つ確認していく。
「今回は勘弁してやる。次から皺を一つ残らずなくせ。いいな?」
それだけ言うと出ていく。ルナが困惑したように扉を閉めて着替えを許可する。
志願者の女子達は16〜19歳が7人、20代が3人(22、23、25歳)だがあまりの恐怖に固まってしまう。流石にルナが宥めて着替えると食事に向かう。
「いただきます…」
新兵達が落ち込み、絶望しながら食事をとろうとすると隊員達が入ってくる。女性騎士の班長は流石に数少ない10人の女性の新人に付き添って落ち着かせながら食事を取らせようとするが他の教官に選ばれた騎士が隊員達に気づいて見つめる。だが隊員達は先ほどの鬼軍曹の雰囲気が嘘のように穏やかな会話をしながら食事をとる。
「へー、お前模型趣味だったのか。」
「ええ、昔から好きなんですよ。プラモデルとか好きでして。長岡二尉も好きなんですか?」
「ああ。戦闘機とか組み立てるのが好きでな。スケールキットは100個は組み立ててるぞ。」
世間話に盛り上がってるのを見て固まるが新人達の食事時間は時間は短いため急いで食べる。
食器を片付け、部屋に戻って掃除をして、地獄の1日が始まる。
「ママ…怖いよ。セレナお姉ちゃん…助けてよ…」
「クレア様…。あ、時間がないです。急ぎましょう!手伝います!」
クレアは恐怖につい呟いてしまう。だが時間がないためリズが手伝い急いで出る。
また怒鳴られ腕立てをやらされ、とことん鍛えられる。
1週間経った時、訓練の報告を受けたノーラ、セレナ、エレナの3人は顔が青ざめ、報告をしたレベッカとリーゼが項垂れている。
「そこまで酷い罵声が…?」
「聞いたことありませんよそんなの…。」
「はい…私達の訓練も厳しいですが、段階があります。ですがあの人たちは褒めることなんてしません。とことん罵倒をぶつけてます。」
クレアは涙を流して恐怖に怯えていると報告を受けたら母親としては流石に心配するのも無理はないだろう。明るく、元気が取り柄の娘が絶望して怯えているなんて想像つくはずがない。クリストフも就寝時に明日のことを考えると少し震えているとまで聞いたら流石に抗議をしようと思うものだ。実際教官に選ばれた騎士達が流石にノーラ様に伝えるべきだ。というほどである。クリストフはリーダーシップを発揮して評価は高いが。
ノーラは意を決して訓練場に向かうのであった。
ちなみに初日の夜の出来事であるのだが。クレアの部屋でわからないことがあった。ルナもわからないため、長岡のところに向かう。
「あ、あの…ナガオカさん…」
「階級はつけろ。長岡二尉だろまったく。」
意外にも穏やかな返答に驚く。
「す、すいません!それでその…わからないことがあるのですが…」
「なんだ?何がわからないんだ?」
「これなのですが…」
わからないことを質問する。すると怒鳴られるのではなく優しく教えられて驚く。あの鬼のような雰囲気とは真逆なのだ。
「わからないことは仕方ないからな。それはこちらの説明不足だから怒鳴らないしちゃんと教えるからどんどん聞いてくれ。勿論、俺たちが間違えたらちゃんと意見具申するように。ちゃんと訂正するからな。」
「はい!」
それは班長らしい対応だ。その出来事があり、いい人だと分かっているのだがやはりまだ16歳の少女にとっては毎日の罵声と罵倒は恐怖になるのも無理はなかった。
訓練を見学してた時、シルクが俺のところに来る。
「ん?どうした。」
「あの…ヒロナカさん、俺に戦い方を教えて欲しいんだ。」
「構わないけど…なんでよ?」
俺とハナが顔を見合わせる。
「どうしたのシルク?」
「う、うん。俺も戦えるようになりたいんだよ。ルキを守りたいんだ。俺より歳下の2人…それも王族が訓練に参加してるからさ。俺も強くなりたいんだ。」
真剣に、真っ直ぐな目で言う。
「わかった、強くなれるよう鍛えてやるよ。」
「私も手伝うわ。シルク、手加減はしないからね?」
「うん。ヒロナカさん、ハナさん、よろしくお願いします。」
ぺこり。と言う音を立てて頭を下げる。シルクが強くなりたいと思っていたとはな。厳しくなるが、強くなるために鍛えてやるさ。




