第2話 逃走
逃げて、逃げて、必死に草原を駆けて逃げてきた。村に駆け込み、金を渡して布切れをもらう。村を出て王都まで必死に駆ける。地図を見て、王都の近くの牧場に行き、馬を預ける。万が一のための逃走用だ。
間違いなく俺は兵士に顔が知られてるから見つかったら殺されるだろう。商人の乗ってる馬車の荷台に紛れ込み、王都に侵入する。
「さて、城にどうやって入るか…」
荷台から降りて路地裏に入りながら城に行ける道を歩く。布切れを被っているからばれることはないと思うが万が一だ。
大通りに行くわけにはいかないからな。
「ん?あの馬車は…高そうなものばっか載せてるな…賭けてみるか。」
即断即決。荷台に乗り込む。こいつが城に届けるのならいい、ダメなら逃げちまおう。城に入るなら兵士の会話が聞こえるはずだ。
揺れにケツを痛めながら数分待つ。
「今日の届け物です。肉と野菜、王妃に届ける服です。」
「確認するぞ。」
兵士が荷台を確認するが、幸いにもばれることはなかった。
このボロ布が食料や荷物に被せてる布と同じ色だったからだ。
「さて…と。」
少しだけ顔を出して周りに兵士がいないことを確認する。さて、行くか…。
城内に侵入して、背後から接近してバレないようにチョークスリーパーをかけて衛兵を気絶させていく。
とにかく王の部屋らしい場所を探す。どこだ?どこにある!?
隠れながら進むとある男を見つける。
ん?あいつは…神殿にいた神官じゃないか?
ゆっくりと背後から近づき、短剣を喉元にあてて脅す。
「…よう、またあったな?」
「なっ…お、お前は‥!?」
大声を出そうとしたから首を絞める。
「王のところに案内しろ。死にたくなければな?…喋ったらわかるな?」
神官はコクコクと頷いて案内する。もちろん、バレないように、右手に剣を、左手に短剣を持ち首筋に当て、完全に警戒する。王の間の前に到着すると剣の柄で殴って気絶させる。
早く殺してえ。首を切り落としてやる。笑みを浮かべて扉を蹴り破ると王がいた。冷静な顔で、まるで「ふーん、生きてたんだ。」くらいのノリの表情。
「ほう、使い捨ての予定だったのに生き残っているとはな?」
「使い捨てだとコラァ!ふざけやがって…ぶっ殺してやる!!」
「所詮は異世界から召喚した勇者など使い捨てよ。魔王軍の戦力を損耗してもらうだけの餌じゃ。」
あ、こいつ殺そう。青筋を立てて斬りかかる。余裕そうな顔しやがって!!
王はニヤリとすると左手を挙げる。なんだ、何をするつもりだ!?
「この愚か者を殺せ!反逆者だ!」
王の後ろから重厚な鎧を着た兵士8人と俺の後ろに軽装兵15人が現れる、クソッタレ…罠だったか。
背後から軽装兵が斬りかかってくる。当たるものかボケが!
あえて突っ込み、スライディングする。兵士の1人が転び、俺はその隙をついて逃げる。
「侵入者だ!殺せ!」
「王が襲われたぞー!!」
角から兵士が出てくる。盾を前に構えながらタックルする。顔面に突き刺そうとしたが、無理だった。兵士の怯えた顔を見たからだ。舌打ちして走る。
息が上がり、肩の痛みが出てくる。薬を塗ったとはいえ、矢は深く刺さったからな。包帯だけではきついか。血が滲んでるのがわかる。
それに魔法で強くなってるにしても限界があるな、隊長クラスはそれなりに強い。俺が強いならいいが無理だな。場内が騒ぎになって集まってきてるし、何よりなるべく人は殺したくねえ!2階から飛び降りるか!窓の近くにいる兵士を飛び蹴りしたあと、少し後ろに下がって助走つけて飛び込む!!ビンゴ!下は川だ!
「川に落ちたぞ!弓兵、急げ!」
「間に合いません!」
「くそっ…!!」
兵士たちが悔しそうな顔をしてやがるから笑みを浮かべて中指を立てて挑発してやる。
川から上がって急いで馬のところに行き逃げる。さてどうするか…もう2度と戻れない。だがあの王は殺す。間違いなく殺す。人は殺したくないが…許さん。
俺はあることを決める。強くなる、必ず強くなると。この世界に召喚された以上甘さは捨てなければならない。金も稼がねばならない。ならばやることは?
牧場に向かい、馬を返してもらう。とりあえず野宿できる場所を探ために休息だ。小枝をくべて、落ち葉にライターで火をつける。元の世界で喫煙者だったことがよかったと思える日が来るなんて。濡れた地図を乾かして次の目的地を立てる。
少し南に行けばもう一つの人間の国があるのか、とりあえずそこに行こう。疲れたから寝るか。
翌朝、もう一つの人間の国に向かう。国の名前なんてどうでもいいが、街に入るか。
王国ほどじゃないが商売人達が賑わってるな。だが少し空気が重くるしい気がする。
妙な違和感のある国だな…
「我らはアラン帝国軍と戦争している!傭兵を募集したい!1回の戦だけでも良い!腕に自信のある者は我らジン王国軍に参加してほしい!1回の戦で金貨30枚だ!もちろん戦死した場合は家族に届ける!」
1人の兵士が募集をしている。なるほど‥この国はジン王国というのか、つか戦争してるのか…。お、傭兵達が集まってらあな。俺も行こ。
「おい、その報酬は本当か?」
「ん?本当だ。かなり大規模な戦だからな。1回の戦だからその戦が長引いても30枚だし、半日で終わっても30枚だが良いか?」
「んーちょっと割に合わねえか?1週間過ぎたら10枚は増やしてくれよ。」
集まっていた傭兵達が俺の質問と提案に頷く。お前ら金にがめついな。ま、1日でも1週間でも同じ金額はなぁ。兵士は「確認してくるから少し待っててくれ」と言うと建物の中に入っていく。5分経つと出てきた。決断はええな。
「うむ、正式な許可が出た、1週間経ったら10枚追加していくとのことだ。参加したいものはこの紙にサインしてくれ。我らジン王国は契約は必ず守る。」
「んじゃ俺は参加するよ。身分証とかは?」
「傭兵だから大丈夫だ。その代わり契約書はしっかり読めよ。」
あー確かに読まないけないな。報酬はわかったとして…なになに…?すまん、読めない。なので仕方ないから隣のやつに教えてもらうか。直訳してもらうぞ。
内容は脱走したら死刑、暴行罪は死刑、命令無視は死刑、情報漏洩は死刑、敵国の民間人に対しての犯罪行為は死刑(これは正規軍も同様)…。
「死刑ばっかじゃねえか!?」
「悪いか!?規律守ればいいんだよこのボケちんが!」
「よっしゃ契約する!!」
契約するに決まってるだろ。傭兵だろうと正規兵だろうと統制ができていない軍なんて野盗と変わらないからな。ここまでやってるなら信用できる。
「決断はええなオイ!?」
「うるせえ!即断即決が俺のポリシーなんだよ!契約守るから報酬頼むぞ!」
紙にサインする。…やべ、この世界の文字わからねえ…。どうしよ?さっきも教えてもらったばっかだぞ俺。
「む?どうしたのだ?」
「いや…文字がわからねえんだ。」
「は?」
兵士が怪訝な表情をしてくる。
「いや、まてまて!怪しいものじゃねえから!!この国の文字がわからねえのよ!いろんな諸国旅してるからさ。」
「む、そういうことか。まぁ傭兵になるものはさまざまな過去があるからな。こちらからすれば腕に自信のあるやつなら大歓迎だ。お前の国の言葉でいいぞ。」
適当だなおい。まぁいいや、日本語で俺の名前を書いて渡す。兵士が「読めねえ…」とぼやいているので口で伝えると上に翻訳して書いてくれる。しばらくは傭兵だな。
翌日、入隊して5日ほどだが訓練を受けた後戦場に向かう。魔法により強くなってるし、魔物とも戦っていたから苦戦はしないな。仲間がいるから乱戦でも心強い。ま、傭兵は別の意味で使い捨てだろうけどな。
それを覚悟しながら俺はおよそ半年戦い続けた。必死に戦い、生き延びた。同じ傭兵で馬鹿話するほど仲良くして笑ってたやつが無謀な作戦で戦死したり、魔王軍との戦いで自惚れていたが、人間同士の戦争は別すぎて死にかけたり、明らかに傭兵は使い捨ての作戦に参加し、生き残ったのは1割だけだったり、時には戦死した正規軍の兵士の遺品を届けに行ったりと、とにかく地獄のような半年を乗り越えた。報酬で金がたんまり溜まりたまったいやー大金持ちっていいね。募集していた兵士とは飲み仲間になっていて、「軍に入らないか?正規軍で歓迎するぞ?」と言われたが拒否した。俺はもう一つやることがあるからだ。だがこの兵士に会えたからこそ俺は金を稼げたのだろう。礼に高いワインをプレゼントして国を出る。
さて…次はクソッタレアストリス王国の北の街に行くか。バレないよう鎧も変えたし、布切れも被るし、何よりもう、顔は傷まみれで、左耳も少し欠けてる。バレることはないからな。ん?何しに北に行くって?それはお楽しみってやつさ。
あと傭兵生活で知ったのだが、金貨の価値は1枚5000円くらいだった。物価とかで知ったのさ。いやーしかし魔王討伐に20枚しか渡さねえケチンボ王国と1回の戦で30枚もくれるこっちは全然違うね。金貨2000枚貯まったもの。日本円で1千万よ?最高ですわ!




