第1話 召喚と策謀
第1話 策謀
「おおー召喚に成功したぞ!」
「これで平和になるぞ!!」
ここはどこだ?仕事が終わって、帰宅途中にいきなり光に包まれたと思ったら訳の分からん場所にいる。なんか王冠被った偉そうな爺いとファンタジーゲームに出てきそうな神官が数人。そしてシスターのような若い女性も数人、なんだこれ?おっと自己紹介が遅れたな。俺は弘中牧男。歴史オタクの会社員だ。んでここどこだよ!?
「ここどこだ!?なんだよこれ!?え、ちょっ、え!?」
召喚された俺は本気で困惑している。この世界に似つかわしくないスーツ姿、あまりにもミスマッチだ。周りをうろきょろしている。すると1人のシスターが穏やかな顔で前に出る?
「あなたは召喚されたのです。この国、アストリス王国を救うために。」
「あー、はい?」
アストリス王国?なにそれ、マジのファンタジー?うそ、ほんと?召喚されたってなんだ?
「訳がわからないんですが?」
「お主は魔王軍と戦うために召喚されたのじゃ。勇者よ。」
「勇者?俺が?」
このジジイ何言ってんだ?そこらの会社員だぞ俺?服装見てわからねえの?
「本当じゃ。この世界に召喚されたこと…つまりお主は選ばれた者じゃ。」
「マジすか?だけど俺一般人‥」
「わかっておりますよ、異邦のお方よ。なのであなたに、力を授けましょう。」
なんかめっちゃ強引だぞこいつら?力を授けるってなんだ?マジで話聞かねえ…なんだこれ?俺名乗ってすらいねえぞ。つかお前名前名乗れよ。礼儀知らねえのかよ王様っぽいのに。
すると俺の体が光に包まれる。マジか!?結構筋肉質になったぞ。お、おお…本当に強くなったみたいだ。なんか武力5くらいしかなかったのが70くらいになったみたいな。
この時俺は気づいていなかった。王が妙に薄ら笑いを浮かべていたことを。
「ふむ、では勇者よ、そなたにこれを渡そう。どうか世界を救ってくれ!」
「お願いします、勇者様。」
王様から20枚ほどの金貨と剣を渡される。…なんか少なくねえ?世界救うのよ俺。もっとくれないの?少なすぎない?鎧とかどうしろってんだよ?まぁ…力があるならなんとかなるか?
「仕方ない。まぁ力もついたから言ってくる。それじゃ。」
召喚された男が神殿から出ていくと神官と王が話す。下卑た笑みを浮かべながら。
「エルヴィン王、またこれで魔王軍の戦力が減りますな。これで五人目、いい囮になるでしょう。ちょっと強くすれば油断して出て行きますからな。」
「うむ、我らの民と兵士に犠牲は出ず、異世界から召喚した者を戦わせる。良い策よのう!うわっははははは!!」
「所詮は使い捨てですからな!魔王軍の戦力を損耗させてもらいましょう!」
神官と王は笑い、「勇者」が出て行った扉を見る。挙げ句の果てには何日で死ぬのか?と賭けでもしようかと話し合っていた。
神殿から出た俺はとりあえず街を歩く。街の人々が俺を見て「お、勇者様じゃ!」とか「勇者だ〜」と話しているのが聞こえて手を振る。だがこの時は気づいていなかった。確かに歓迎しているように、勇者の召喚に喜んでいるように見えて、誰も目が笑っていなかったことに、まるで召喚されるのが当たり前のように。
それに気づかなかった俺は先に防具を買いに行く。そこのおばさんに聞こう。防具がないと死ぬからな。
「すいません、防具とか売ってる店を知りませんか?」
「そこの角を曲がったところにあるぞ。」
「ありがとう。」
言われた通り角を曲がり防具屋に入る。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「とりあえずこれで買える防具が欲しい。あと服を。」
「わかった。金貨20枚か。そしたらこの皮の肩鎧と鉄の鎧だな。服はおまけだ。持って行きな。」
店主が気前よく用意してくれる。お、かなり防げるじゃん。着替えていいか確認すると頷き、更衣室に入り着替える。
初めて着るはずなのに慣れたように着れるな。いやまぁ趣味でサバゲーやってたから防弾チョッキ(レプリカ)やプレートキャリアは着たことあるが…。着替えが終わり、更衣室から出ると店主が腕を組みながら話しかけてくる。
「兄ちゃん、生きて帰ってこいよ。」
「ありがとさん。それに魔法かけてもらって強くなってるから大丈夫だよ、多分。」
「…そうか。ちょっと待ってろ。」
店主が奥の部屋に入っていく。何かを持ってくるつもりだろう。すると店主がそれなりに荷物が入りそうなポーチを2つ出してくる。そして5枚ほどだが金貨と皮の盾を用意してくれた。
「渡せるのはこれで精一杯だが、少しまけてやるよ。」
「ありがとう!まぁ頑張って生き残るさ。」
振り向き、扉を開けながら手を振る。嫌な予感がする。こいつは臭うな。だが逃げることはできないだろう。世界を救って欲しいと言うことは必ず日にちがあるはずだ。やるしかねえよな!
「おまけしてやったが今回の勇者様は生き残れるのかねえ‥。ま、こっちはいい商売だ。金になるし勇者が死んでもまた新たな勇者が来るからな。」
いい小遣い稼ぎになるしまぁ5枚くらいはまけてやろうと思った店主であった。とはいえ流石にぼったくりするのは己の信念に反するのか値段相応のを売ったが。
やる気を出して街を出る。馬を1頭もらって、初めて乗るはずなのに慣れた感じがするな。これも魔法の力か?いや、気にしてもしょうがないな。おお、風が気持ちいいな。
道中、スライムや襲いかかってくる魔物を倒す。素人のはずなのに、剣なんて持ったことないはずなのに戦える。これはすごいな、魔法の力ってここまでできるのか。やれる、これなら世界を救えるんじゃないか!?
「よし近くの町に行くか野宿は勘弁だ!」
ポーチから地図を取り出して確認する。ここからさらに西の方か。もう夕方だ、急がないとやばいな。馬の脇腹に軽く足を当てて走る。なんかガキの頃やったRPGを思い出すな。
1時間後、やっと町に到着する。まだ後方の方にあるからか賑わっており、夕方に近いのに商人達が大声で呼び込みし、馬車がガタガタ音を立てて通り過ぎる。俺は街中を歩きながら宿を探す。住民達が俺を見るとヒソヒソと話しているがなんでだ?まぁいいや。店で倒したモンスターの素材を売り、宿代を払って荷物を置く。酒場で仲間でも探すかな。
酒場に入る。おっさん達が乾杯し、豪快に酒を飲み、笑い声が響き賑わっている。給仕のお姉ちゃん達も慌ただしく酒や食べ物を届けているのを見るとなんだかんだ居酒屋と変わらんな。しかしなんだ、ファンタジー世界を味わえるのは感動だな。
カウンター席に座り、適当に酒と料理を頼む。ステーキとライスを頼んだのだが‥なんで2枚も?しかもライスも特盛じゃねえか。ワインも瓶丸ごと…?
「勇者様だろ?明日から戦いに行くんだ。こいつはサービスさ。」
「その…頑張ってくださいね。どうか死なないでください。」
「…おう、ありがとさん。」
サービスしてくれるなんて気前がいいじゃないの。しかもめっちゃうめえなこのステーキ。まじうまい。米進むぞおおぃ。ワインを飲み、少し休憩する。
さて、仲間を集めますか。
席を立ち、冒険者達に話しかける。
「あーすいません、ちと勇者として召喚されたんですけど、もしよければパーティーを組んでくれませんか?」
「すまない、他を当たってくれ。」
「俺たちもだ、悪いな。」
え…?誰も組もうとしてくれない?なんでだ?いや、話しかけた冒険者達は全員が俯いてる。まるで目を合わせるな、協力したくない。みたいな感じで。
「…わかった…」
仕方なく酒場を出ようとする。
「待て!」
1人の冒険者が俺のところに来る。
「こいつは餞別だ、持ってけよ。協力できねえけど、物や金を渡すことはできる」
その行動を皮切りに、他の冒険者達が薬や金を渡してくる。
「ありがとう。」
俺は頭を下げた後背を向けて酒場を出る。静まり返った酒場…冒険者の1人がぼやく
「仕方ねえよな、どうせ死んじまうんだ。」
「ま、金だけわたしゃ薬代にはなる。俺たちも死にたくねえしな。」
「勇者様は使い捨てだからな。巻き込まれたくねえからよ。」
冒険者達が扉を見ながら、同情とある意味可哀想な視線を扉に向ける。
「私ができるのはこれだけなんだ。最後の晩餐だな。この国で『勇者』はそういう物だからな。」
「ええ、可哀想ですけど…この国に召喚された以上は…ですからね。」
所詮は使い捨てだがいいものは食わせてやろう。そんな感覚だ。給仕の姉さんは同情的だが。
宿に戻り明日のことを考える。1人で戦うのか…仲間がいないなんてな。やるしかねえけどちと辛いな。
いや、考えても仕方ない。寝よう。
翌朝、支度して宿を出る。町を出て、とにかく西へ向かう。西へ、西へとにかく進む。何日という日数をかけてとにかく走る。時には村を救ったりモンスターを討伐する。兵士たちが来ると後を任せてくれと言われちょっとしたお礼を貰い、また別の村に向かい、依頼を受けて助けると兵士たちが来る。まるで俺あちこちの村助けてるパシリじゃねえか。なんというか、軽いお礼と金だけ渡されておしまいだし。また村を助けようとしたその時だった。
「勇者様、王の命令です。早く前線に向かうようにと。」
「え?あ、ああ。」
「村は軍にお任せを。早くお進みください。」
神官らしき人物が兵士を率いて現れ、命令してきから仕方なく進む。
何日もかけて移動し続け、そして王国軍の駐屯地が見えた、かなりの規模だな…。国境付近、最前線だからこそかなりの兵力が配備されている。万はくだらないだろう。兵士が俺に気づく。
「新しい勇者様ですね!お通りを!」
「新しい勇者?」
「はっ!ご武運を!」
新しい勇者?過去に召喚されたやつがいるって事か?なんか引っかかるな、怪しくないか?
流石に兵士をジト目で見ると隊長らしき兵士が現れる。
「なんでもありません。どうかお気をつけて!」
「ちょっと待て!味方は!?」
「まだ準備ができてませんから、いずれ『駆けつけ』ますよ。」
それだけ言われ駐屯地から出る羽目になる。一人で大軍と戦うのか?冗談だろ!?
だが門を閉められて戻ることはできない。
「門を閉めた…?あれ、味方は?兵士は…?」
味方なんていない。見張りの兵士がゴミを見るような目で見てくるだけだ。『死んでこい』と言わんばかりに。
「クソ!クソ!クソ!こうなりゃヤケだ!畜生!」
ああ、やっとわかった。騙されたんだな俺。言われてみれば村を救った後に兵士たちが来た。そうか、俺は利用されてただけなんだな。
ヤケになり単騎で駐屯地から離れ、モンスターと戦う。スケルトンが襲いかかってくるが盾で防ぎ、カウンターで首を斬り落としスライムは蹴り飛ばす。5体までならどうにかなる。だが相手の数が多すぎる!一旦休み、翌日また戦う。
「クソッタレが!多すぎる!無理だろ!こっちは一人だぞ!?」
いきなり一人で最前線に送られ、仲間もいない状況で戦わされるなんてアリか!?とにかく倒す。何日も何日も、倒して後退して休んで、また前線に行き、倒して、倒しまくる。幸い魔法のおかげで強くなってるから苦戦せずモンスターを楽に倒せるが、キリがない!こんなの消耗戦じゃねえか!いつかは死ぬぞ!あ…?なんだこの影?
「嘘だろ‥ゴーレム?」
冗談だろ!?地響きを立てて10体も来やがった!ゴーレムが殴りかかって来るが、なんとかかわす。背後にスケルトンがいて剣で切りかかってくる。剣で必死に防いで盾で殴り飛ばすとバラバラになる。いや、気持ち悪いわこいつら!ゴーレム達はじわじわと距離を詰めてくる。だめだ!勝てるわけがない!!
「無理だ!こんなの無理だ!!…グアッ!?」
肩に矢が刺さる。飛んできた方を見るとスケルトンが、何十…いや、何百体のスケルトンが弓を放ってくる。盾で防ぐが皮製だ。突き破って来て指に刺さる。剣で何本を切り落としても持ち堪えられねえよ!!魔法で強くなってても…強化されててもこんなの無理だ!だめだ…退却するしかない!
俺は巻き込まれないように少し離れたところに馬を置いていた。急いで跨り逃げる。
だがクソッタレな事が起こる。駐屯地の門が開かないのだ。
「門を開けてくれ!!」
「申し訳ありませんがそれはできません。勇者様には世界を救ってもらわねばなりません。魔物を倒してもらわなければ困ります。」
隊長があまりにも冷たく、冷酷に伝えてくる。そして指示を受けた弓兵が俺に弓を向けてくる。
「う、嘘だろ!?」
とてつもない絶望に急いで反転する。バレないよう一旦戦場に戻るふりをして駐屯地から見えなくなる距離まで走ったら駐屯地の外縁部に周りなんとか逃げる。
肩に刺さった矢を抜き、薬を塗る‥。そうか、酒場の店主も防具屋の店主もわかってたんだな…こうなることを。間違いない、過去にも召喚された者達がいたんだな?誰も「帰って」こなかったんだな…?わかっていて隠してたんだな?
王国軍め…ふざけるな…必ず生き延びてやる。泥水啜ってでも生き延びてやる。あの王をぶっ殺してやる。ふざけやがって。




