第3話 ギルドへの誘い
翌日、来生雅也はまたギルドの前に立っていた。
昨日の小さな勇気が、胸の奥で微かに温かく残っている。
扉の向こうでは、七瀬あずみがいつもの笑顔で
来館者を案内していた。
「雅也君、今日も見学に来たのね」
その声に、雅也は心臓を強く打たれた。
言葉が詰まり、頬が赤くなる。
「え、ええ……ちょっと……」
ぎこちなく答え、足が自然と後ろに下がる。
七瀬は微笑みながら言った。
「ねえ、ギルドに登録してみない?」
その一言は、雅也の胸をざわつかせた。
「えっ……? 登録……ですか……?」
小さな声で聞き返す。心臓が激しく跳ねる。
「ええ。初心者でも大丈夫よ。Fランクから始められるし」
七瀬は軽やかに説明する。
その声には安心感と、どこか親しみが混ざっていた。
しかし、雅也の心は揺れに揺れていた。
「Fランク……でも、俺……そんなの無理だよ」
自分の不甲斐なさを思い出す。
陰キャで口下手、ぼっち、何一つ自慢できるものがない。
「ほら、Sランクの東郷陸翔さんとか、如月美鈴さんとか、
本当にすごい人たちがいるのよ」
七瀬はさらに説明する。
「そんな人たちと比べて、自分なんて……」
雅也は視線を落とす。
確かに、Sランク探索者たちは伝説のような存在だ。
LV80やLV70、誰もが憧れる力を持っている。
「でも……」
小さな声でつぶやく。
「俺……やってみたい……」
その瞬間、ギルドの入口から聞こえた足音。
Sランク探索者・東郷陸翔と如月美鈴が姿を現した。
「お、君が噂のFランク候補か」
東郷の鋭い視線に、雅也は思わず固まる。
如月が微笑みながら言った。
「大丈夫よ。初めてでも最初はみんなFランクから」
その声に、雅也は少しだけ勇気をもらった。
しかし、現実は甘くない。
AランクやBランクの探索者、大木将司や笠木ゆみも近くで訓練しており
雅也の劣等感をさらに刺激した。
「……俺、本当にやれるのかな」
不安と期待が入り混じる。
七瀬がそっと手を差し伸べる。
「怖いかもしれないけど、一歩踏み出さないと
何も始まらないわよ」
その言葉に、雅也の心に小さな炎が灯る。
昨日の勇気、迷子の子供を助けた経験――
それらが、今の自分を少しだけ支えていた。
「……わかりました。登録してみます」
ついに、ぎこちない声で答える。
震える手を握りしめ、雅也は扉に向かって一歩を踏み出す。
七瀬の笑顔が、まるで光のように雅也を包み込む。
「いいわ。雅也君、これから一緒に頑張りましょう」
夕暮れの街に、ギルドの灯りが柔らかく揺れる。
小さな一歩が、確実に未来への道を作り出していた。
雅也は胸の奥で、次の挑戦に向けた決意を固める。
Sランクの探索者たち、A・Bランクの仲間たち――
すべてが自分の成長の糧になるはずだ。
扉の向こうで、七瀬の微笑みが雅也を見守る。
そして、Fランク候補としての第一歩が、確かに踏み出されたのだった。




