第2話 偶然の遭遇
学校の帰り道、来生雅也は少しだけ勇気を出して
ギルドの方角に足を向けていた。
昨日の小さな出来事――迷子の子供を助けたこと――
それが胸の奥で、微かに温かく残っている。
「……行けるかもしれない」
自分でも信じられないほどの言葉を口に出す。
しかし、入口まで来ると、やはり体が硬直する。
その時、住宅街の片隅で、かすかな声が聞こえた。
「うわああっ!」
振り返ると、小さな男の子が迷子になり、泣き叫んでいた。
近くには、先ほど話題になった小規模ダンジョンの入り口がある。
雅也は一歩躊躇した。
「また、助けるのか……?」
昨日の自分なら、逃げていたかもしれない。
だが、今日は違った。心が少しだけ動いた。
「……大丈夫、俺が」
ぎこちない声でそう言い、そっと子供に近づく。
足元が悪く、何度も転びそうになる。
手を伸ばすと、冷たい結晶が足元で光った。
滑りそうになりながらも、必死に子供の手を握る。
「こっちだ、俺についてこい!」
雅也は力なくも必死に誘導し、無事に子供を安全な道まで連れ出した。
その様子を、遠くから見つめる視線があった。
ギルドの案内嬢、七瀬あずみである。
彼女は息を飲み、少し微笑んだ。
「……あの子、真剣ね」
雅也の不器用だが誠実な行動を目にし、彼女の心に興味が芽生える。
子供を送り届けた雅也は、額に汗を浮かべながら立ち尽くす。
「……俺、少しは役に立ったのか?」
自問自答する声に、わずかな自信が混ざっていた。
その後、ギルド前で小休止をする雅也。
扉を前にして、まだ少し震える手を握りしめる。
「……でも、やっぱり怖い」
恐怖心と好奇心が混ざり合う中、七瀬の姿が目に入った。
彼女は来館者に笑顔を向け、軽やかに案内をしている。
「俺も、いつかああなれるのかな……」
思わず呟く。だが、その声に自分でも驚いた。
昨日の自分とは違う――小さな変化である。
ふと、背後で声がした。
「雅也君、こんにちは」
振り向くと、そこには七瀬が立っていた。
普段見るギルド内の笑顔とは違う、自然な微笑みが彼女の顔にある。
「えっ……あ、はい……」
思わず口ごもる雅也。心臓が激しく跳ねる。
しかし、昨日の勇気が少しだけ背中を押す。
「昨日、子供を助けていたわね」
七瀬の言葉に雅也は驚くと同時に、胸が熱くなる。
「そ、そう……です……」
ぎこちなくも、答えるしかなかった。
「すごいわ、雅也君。意外な勇気ね」
その一言に、雅也は顔を真っ赤にしながらも
少しだけ自信が湧くのを感じた。
夕暮れの街は、ダンジョンの冷気と日常の温もりが
入り混じる不思議な雰囲気に包まれている。
雅也は小さな胸の高鳴りを感じながら
扉の前で立ち止まった。
「……明日こそ、中に入ってみよう」
小さな決意が、心の中でしっかりと根を下ろした。
そして、背後には七瀬の微笑む顔がまだあった。
その笑顔は、雅也にとって希望の光であり、次の一歩を促す存在だった。




