ホットケーキ
目覚ましより早く起きた。
今日は休日だ。
俺は人生最高のホットケーキを焼こうとしていた。
生地を混ぜ、フライパンに流し込む。
ふくらむ、ふくらむ。
何だこの立体感。建築物か。
ぶくぶく泡が開き、そこから声がした。
『やっと起きたな、人間』
「え?」
『俺は選ばれしホットケーキ。貴様を食べるために焼かれたのだ』
「逆じゃない!?」
ホットケーキはベコンと跳ね、俺の胸へ飛びついた。
ふわふわなのに力が強い。
パンケーキ界のイノベーション。
『抵抗しても無駄だ。俺はバターとシロップを味方につけた』
テーブルのバターが勝手に動き、ナイフに乗って俺に塗られていく。
ひんやりするな!
シロップが天井へ跳ね上がり、滝のように俺をコーティング。
「やめろ!甘くされるのは俺の役目だ!」
『今日は逆転の日だ。朝食革命だ』
ホットケーキは大きく口を開け――
え、口あるの!?
それはまるで、ふわふわのブラックホール。
「お、おい!俺は食べる側……」
『もう“食べられる側”だ』
ばくっ!
視界が黄金色に包まれる。
甘い。香ばしい。
これは……幸せの味……?
『そのまま眠れ。お前は今から……俺のカロリー』
「カロリー……!」
意識が遠のく。
胃袋の奥底へ沈んでいく。
完全に敗北した俺が最後に見たのは――
満足そうに膨らむホットケーキの笑顔だった。
――そこで目が覚めた。
ベッドの上。
汗だく。
台所は静まり返っている。
ホットケーキなんて焼いてない。
(夢……か…………)
安心して、俺は布団に寝転んだ。
心の底から、安堵の息を吐いた。
「いやぁ……夢でホッとケーキ」




