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ダンジョン日記  作者: アイデア
第0章 新生ダンジョンの主「原初の3人」
2/24

1日目:覚醒


目を開けた瞬間、世界は冷たく、静寂に包まれていた。

石の床は冷たく、膝の裏までその冷気が伝わる。

空気は湿り、重く、吸い込むたびに肺の奥に刺さるようだ。

そして、僕は記憶を失っていた。

名前も、過去も、なぜここにいるのかも――何も思い出せない。

ただ、意識だけがそこにある。

胸の奥で、微かに震えるのは、生きる感覚だけ。

その震えが、無意識のうちに僕を動かす。


「……ここは、どこだ?」


喉を痛めながらも、声を絞り出す。

しかし、声はかすれ、すぐに闇に吸い込まれた。

立ち上がる。足を踏み出す。生きるために。

冷たい床に足を着け、一歩、また一歩。

世界は無言で、僕を拒みもせず、受け入れもせず、ただそこにある。


歩くたびに、石のひんやりとした感触が足裏に伝わり、空気の湿度が肌にまとわりつく。

呼吸を整え、目の奥に光を探す。

何も見えない。

ただ、静かな恐怖だけが、全身を包んでいた。


歩き続けること、どれほどの時間が経っただろうか。

視界の端に、淡い光の粒が漂うのを見つけた。

霧のようで、火でもなく、形を定めない光。

近づくと、それは小さな生物の群れだった。


彼らは音を立てず、漂うように宙を舞う。

羽音も足音も呼吸音もない。

それでも、存在は確かに感じられる。

匂いが鼻をかすめた。湿った土、古い紙、血のような鉄錆の香り。

心拍が速まる。

恐怖であると同時に、世界の息遣いのようでもある。


「……何だ、これは?」


手を伸ばしてみたい衝動に駆られる。

だが直感が警告する。

動けば、捕らえられる。

息を潜め、身を低くするしかない。


霧の中から、ひとつの影が現れた。

小さく、儚く、しかし異様に存在感が濃密だ。

光を帯び、揺れる身体は空気そのもののように形を変え、まるで透明な蝶が漂うかのようだ。


羽をひらめかせるたび、空気が微かに歪む。

体温を奪い、息を潜めさせる力がある。

触れれば、冷たさが皮膚を這い、血流を締め付ける。


直感が告げる――

“彼らは、息を食う者たちだ。”


僕は体を石板に押し付け、身を低くする。

霧虫は僕に気づくことなく、漂い続ける。

光は美しく、底知れず、まるで空間そのものが夢の中に沈むようだ。


その美しさに、恐怖が少しだけ混ざる。

美と恐怖は、紙一重。

この世界で生きるためには、学び、耐え、知覚するしかない。


霧虫たちが去った後、闇の中に淡い文字が浮かぶ。

それは風の囁きのようでもあり、心の奥底から響く声のようでもある。


「一息、生き延びた。小さき勇気が、影を留める。」

「恐怖を知り、身を潜めし者よ——その感覚は、次なる一歩を照らす。」


文字はやがて消えたが、体の奥に温かさが広がる。

肩の力が抜け、石の冷たさも少し和らぐ。

胸には、確かな手応え。

**“生きる力の小さな芽”**が、初めて芽吹いた瞬間だった。


僕は息を整え、震える体を抱えながらも、心の奥底に芽生えた小さな確信を抱く。


「この世界で、生き延びる……」


歩き出す。

前より少しだけ、自信を持って。

周囲は暗く、冷たく、静寂が支配している。

しかし、恐怖の中で世界を観察する目が、少しだけ冴えた。


石の床の微かな段差、空気の流れの違い、霧の動き。

すべてが、生き残るための手がかり。

身を潜めること、恐怖を感じること、観察すること。

これが、初日の学びだった。


再び光の文字が浮かぶ。


「今日、影に学ぶ者は、生き残る力を手に入れた。」

「小さき勝利は、次なる試練への灯火となる。」


それは、単なる励ましではなく、世界そのものが僕を認めた印のように感じられた。


初日の終わり。

闇が深くなるにつれ、恐怖も薄れることはない。

だが、心に芽生えた意志が、体を支える。

恐怖を知り、身を潜め、世界を観察した。

それが、生き延びるための初めての手応えだった。


霧虫たちはもう現れない。

だが、空間の隅々に潜む気配は、まだ不確かで、危険は消えていない。


僕は夜に目を閉じる。

全身の感覚が研ぎ澄まされ、体の奥に微かな力が満ちているのを感じながら。

そして、心に誓う。


「明日も、必ず生き延びる……」


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