表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン日記  作者: アイデア
第0章 新生ダンジョンの主「原初の3人」
15/24

第14話 拍の静寂

迷宮が静かになった。

 霧は引き、血と灰の匂いだけが残っている。

 連戦を終えた体は鉛のように重く、

 肩の上でキオルの羽がゆっくりと震えていた。


 「……終わったのか。」


 声が自分のものとは思えないほど掠れている。

 足元には、さっきまで敵だったものの欠片が散っていた。

 その間に、影が――十二。


 灰色の毛並みをした獣たちが、霧の底から現れた。

 牙を持ち、背は低く、動きは静か。

 けれど、どこか“整って”いる。

 全員が同じ呼吸、同じ拍で動いていた。


 ――眷属登録:十二体。


 その声と同時に、胸の奥で何かが繋がった。

 まるで、自分の鼓動が十二に分かれ、

 それぞれの体の中で打ち始めたような感覚。


 「……これが、眷属……。」


 言葉にしても実感がなかった。

 彼らは僕を見る。

 でも、意思の色はない。

 ただ“命令を待つ”瞳。


 キオルが翼を閉じ、僕の傍らに降りる。

 その羽の先が震えている。

 疲れているのは、僕だけじゃなかった。


 「……お前も限界か。」


 キオルは短く鳴き、目を閉じた。

 その仕草が、どこか人間めいて見えて、

 僕は息を飲んだ。



 ――拍の安定を確認。

 ――主の権限を拡張。

 ――命令権を付与します。


 頭の中に、淡い声が響いた。

 直後、眷属たちの目が一斉に光る。

 呼吸が揃い、空気が震えた。


 「……命令、か。」


 試しに思考した。

 “休め”――それだけを。


 十二体が同時に伏せた。

 反応は、あまりにも速い。

 考える間もなく動く。

 迷宮と僕の拍が、彼らを通して完全に同期していた。


 息が詰まる。

 戦いで感じた興奮とは違う。

 もっと冷たく、静かな感情が胸を締めつけた。


 「これが……支配。」


 口にした瞬間、

 心臓の奥で小さく脈が跳ねた。



 時間の感覚が曖昧になっていた。

 壁の光が弱まり、迷宮が夜を迎えているのが分かる。

 僕は壁際に座り込み、剣を横に置いた。

 キオルが近くに丸まり、羽を休める。

 眷属たちは輪になって周囲を囲んでいた。


 その様子は、奇妙な安心感を与えた。

 敵ではない。

 けれど、仲間とも違う。

 呼吸のリズムが同じなのに、

 “生きている”という気配だけが別のもののようだった。


 「……俺は、何を作ってるんだろうな。」


 呟いても、返事はない。

 代わりに、キオルの羽音だけがかすかに響いた。

 迷宮の奥からは、静かな拍動。

 生き物の心臓のように、一定のリズムを刻んでいた。


 その音を聞きながら、僕はゆっくり目を閉じた。

 眠気ではなく、重さに沈むように。



 次に目を開けたとき、空気が変わっていた。

 壁の苔が薄い青を灯し、風が通っている。

 眷属たちは静かに佇み、

 通路の奥には新しい扉が生まれていた。


 扉の中央に、光る紋章。

 それは、見覚えのある形――剣の刃先に似ている。


 ――次の行いを選べ。

 ① 通常戦闘

 ② イベント

 ③ 休息


 青白い拍が、淡く脈打つ。

 昨日のような赤はない。

 迷宮が、少しだけ落ち着いている。


 「……③、休息。」


 言葉にすると、通路が閉じた。

 そして、静寂が戻る。

 霧の奥で、十二の眷属が静かに息をしていた。



 血の匂いはまだ消えない。

 けれど、その中で確かに、

 何かが始まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ