表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうっぽい小説

出来心で毒を食む

作者: 伽藍

公爵令嬢と婚約している第二王子が、公爵令嬢の友人である伯爵令嬢に公爵令嬢の悪行を吹き込まれて『なんだと!』ってなるお話。

 ファーカー伯爵令嬢ミランダにとって、アッシュベリー公爵令嬢オリアーナは身分の差があれど昔からの親友だった。


 オリアーナは両親と兄たちから溺愛されて正しく深窓のご令嬢という言葉を体現したかのように穏やかな性格であり、はっきりとした性格のミランダとは正反対ながらもどうしてか馬が合った。

 ミランダは田舎領地なこともあって昔から野山を駆けまわって遊んでいたけれど、ミランダがオリアーナを引っ張って外に連れて行けばオリアーナは嫌な顔もせずに慣れないはずの山道を着いてきてくれた。運動の苦手なオリアーナの手を、ミランダが引っ張って振り回すのがいつものことだった。二人はそうやって上手くやっていたのだ。


 成長してからはそうやって駆け回ることこそ少なくなったけれど、大人しい性格のオリアーナをミランダが友人たちの輪に引っ張り込むような関係は変わらなかった。オリアーナは非常に優しい少女だったので性別を問わず誰からも好かれていて、それがミランダの自慢だった。


 さて、そんな二人にとって、というよりもミランダにとって、驚くような知らせが齎されたのは十六歳になったあとの社交界デビューから半年ほど経った頃だった。

 オリアーナと今年十八歳になる第二王子との婚約が発表されたのだった。


 オリアーナに詳しく聞けば、オリアーナと第二王子は相性の確認を兼ねて数年前からたびたび交流をしていたらしかった。二人の相性が良かったので、オリアーナが十六歳になるのを待って、正式な婚約に踏み切ったらしい。

 お披露目の場で第二王子にエスコートされるオリアーナは、眩しいくらい美しかった。


 それから、オリアーナを通じてミランダも第二王子と話すようになった。もちろん個人的に会ったりすることはなかったけれど、パーティーの場などではオリアーナと会うことがあったので、自然とオリアーナをエスコートしている第二王子とも面識ができたのだった。たぶんミランダはオリアーナにとって一番の友人だったので、他のご令嬢たちと比べてもミランダが第二王子と話す機会は多かっただろう。


 そんなあるとき、ほんの短い時間だけオリアーナが抜けて第二王子とミランダが二人になる機会があった。二人といったってパーティーの会場だったし、周りには護衛も、パーティーの他の参加者たちもいたのだけれど。


 ミランダはオリアーナが大好きだった。可愛くて、優しくて、本物のお姫様みたいなミランダの親友。

 ミランダはオリアーナに幸せになって欲しいと、心から思っていた。


 ミランダはオリアーナが大好きだった。昔からおっとりとしていて、頭は凄く良いけれどちょっと鈍くさくて、そんなところも可愛いミランダの親友。

 ミランダはオリアーナに幸せになって欲しいと、心から思っていた。……この、瞬間までは。


 ほんの小さな、魔が差したのだ。


「殿下、実はご相談したいことがあって――」


 声を潜めて、ミランダは第二王子に話しかけた。それからミランダは、オリアーナに昔から身分をたてにして嫌がらせを繰り返されていることを相談したのだった。

 ミランダの言い分を聞いた第二王子は、ひどく驚いたような顔をした。それから少し考えて、ひとつ頷く。


「相談してくれてありがとう、ファーカー伯爵令嬢。悪いのだけれど、もっと確実なことが知りたいから別室に来て貰っても良いかな」


 それから第二王子は、周りにいた護衛たちに何ごとかを命じたあとにミランダを別室に案内した。ミランダは思いがけない幸運に舞い上がったけれど、別室に控えていた第二王子の補佐官を眼にして落胆した。


「今まで辛かったんだね、可哀想に。オリアーナから具体的にはどのような嫌がらせをされているのか、内容、場所、頻度などを教えて欲しい。記録はこちらで取るよ」


 第二王子は心から同情するような調子で言って、ミランダに話すことを促した。

 だからミランダは、第二王子の同情を更に引くように思いつくままオリアーナの悪行を挙げ連ねた。繰り返しだったり判りづらいこともあったかも知れないけれど、第二王子は一つ一つ頷いて、ミランダの言い分に聞き入っていた。


「……なるほど、話してくれてありがとう。こちらで調査してみるから、補佐官がいま聞き取った内容をまとめた文書を確認して、相違がなかったらサインしてくれるかな」

「サイン、ですか」


 サインを促されて、ミランダは少しだけ頭が冷えた。第二王子の顔を見れば、何でもない顔で不思議そうにしている。


「証拠は多いほど良いでしょう。先ほどは大切なものを壊されたという話も出てきたけれど、できれば今度は実物を持ってきて欲しいな。また声をかけるよ」


 第二王子から個人的に声をかけられるかも知れない、という可能性に、ミランダは危機感も忘れて舞い上がってしまった。促されるままにサインすれば、第二王子はにこやかに頷く。


「助かるよ。……あぁ、随分と遅くなってしまったね。伯爵家にはすでに一報を入れてあるから、このまま王宮に泊まっていくと良い。不自由がないように侍女もつけるよ」


 案内されるまま泊まった客室は、当たり前だけれど伯爵家など比べものにならないような豪華な部屋だった。つけられた侍女はにこやかで親切で、ミランダが指示をするよりも早く色々なことに気を遣ってくれた。

 サービスとして出されたワインも上質で、ミランダが十六歳になってお酒が飲めるようになってから飲んだどんなお酒よりも美味しかった。生家の伯爵家だって不自由していないけれど、それでも王家はやはり段違いなのだ、とミランダは感心した。


 それから、すっかり良い気分でミランダは眠ったのだった。


 翌週に学園に登校して際には、ミランダは思わず友人たちに王宮に泊まったことを言い回ってしまった。友人たちにはどうして王宮に泊まる機会があったのか不思議がられたけれど、ミランダは勿体ぶって答えなかった。

 ミランダは、ちらりとオリアーナを流し見た。オリアーナは、いつもと変わらないにこやかな表情で、友人たちの会話を楽しそうに聞いていた。


***


 第二王子の名前で王宮に呼び出されたのは、それから数週間後のことだった。ミランダはつい浮かれたけれど、不思議だったのは伯爵家の当主であるミランダの父まで呼び出されていることだった。

 父伯爵は呼び出される覚えがないらしく、首を捻っている。更に一介のご令嬢でしかないミランダまでが呼び出されているので、父伯爵はミランダに訝しげな視線を向けた。


「何か覚えがあるか、ミランダ」

「いいえ、でもきっと悪いことじゃないわよ」


 ミランダは少しだけ浮き足だった口調でそう言った。

 第二王子は線の細い、優しげな男だ。先日と同じように、ミランダが涙ながらにオリアーナからの被害を訴えれば同情してくれるだろう。もしかしたら、そのまま第二王子と親しくなることもできるかも知れない。


 向かった王宮の応接室には、すでに数人が待ち構えていた。

 オリアーナと、オリアーナの父であるアッシュベリー公爵だった。周りには護衛や補佐官たちが控えている。

 最後に第二王子が入室して、全員が出迎えるために立ち上がった。


 アッシュベリー公爵が代表して形式通りの挨拶を述べたあと、頷いた第二王子に促されて着席する。第二王子の後ろにも、護衛や補佐官たちが並んでいる。


 ふと、珍しいローブ姿の数人がミランダの眼に入った。

 少し離れた位置に、王宮魔法師団の魔法士や、王立薬学研究所の研究員が佇んでいる。彼らの職務の半分ほどは研究が含まれているから、騎士ほど人びとの前に姿を見せないのだ。

 ついミランダがそちらに気を取られていると、第二王子が口を開いたのでミランダは慌てて向き直った。


「さて、今回集まって貰ったのは、そちらのミランダ・ファーカー伯爵令嬢より、オリアーナから虐げられているという訴えがあったからだ」


 言って第二王子は、一枚の書類を差し出した。それは先日、ミランダが第二王子に訴えたときに補佐官が取りまとめたもので、しっかりとミランダのサインが入っている。


「第二王子であるわたしの婚約者が身分をたてに他者を虐げているのが事実であれば、オリアーナには振る舞いを改めてもらう必要がある。またオリアーナは数年前からわたしの婚約者候補として王宮の教師からも教育を受けていたから、オリアーナを教育した教師や、その教師を選定して、あまつさえオリアーナの性質に気づかず婚約者に据えた王家にも問題があると言えるだろうね」


 実にあっさりとした調子で、第二王子はそう言った。

 やり玉に挙がったオリアーナはきょとりとして瞬いている。背筋を伸ばして、オリアーナは口を開いた。


「ミランダさんとは幼い頃から仲良くさせて頂いておりますのよ。虐げるなどした覚えはございません」


 学園で聞くような言葉遣いとは違う、ご令嬢としての言葉遣いだった。隙のない表情は、学園で友人たちと過ごしているときとは別人のようだ。


「オリアーナはいま初めて聞いただろうけれど、実はファーカー伯爵令嬢に相談されたのはもう数週間も前でね、王家で調べさせて貰ったよ。王家からつけられている護衛に侍女、公爵家の侍女や他の使用人たち。家庭教師や、学園の教師たち。それに、普段から学園でオリアーナが親しくしている数人や、逆にあまり関わりのないクラスメイトにも」


 つらつらと挙げ連ねて、第二王子は首を傾げた。


「もちろん、王家の調査に対して偽りを口にするのが問題であることは誰でも理解しているだろうけれど、それでも彼らが素直に答えているかは判らない。政治的な思惑や、家の方針や、単に個人的な感情によってもオリアーナとファーカー伯爵令嬢、どちらかに不利な偽りの証言をするものもいるだろう。けれど今のところ、ファーカー伯爵令嬢がオリアーナに虐げられているという証言をするものはほとんどいなかったよ。二人は非常に仲が良く、よく一緒に行動しているのを見かけたという話は山ほど出たけれどね」


 まずいかも知れない、とここにきてようやくミランダは思った。ミランダがちょっと相談したくらいで、ここまでしっかりとした調査をされるとは思わなかったのだ。

 ミランダが反駁しようと口を開いたのを遮って、第二王子は続けた。


「オリアーナはアッシュベリー公爵家のご令嬢で、しかもわたしの婚約者だ。オリアーナに阿って証言を偽った可能性もなくはないね。学園で聞き取りをした生徒十六人のうち、オリアーナがファーカー伯爵令嬢を虐げているのを見かけたと証言したのは二人だ。もしかしたらこの二人こそが、権力に阿らずに勇気ある告発をしたのかも知れない」


 ミランダが正しく主張しようとしていたことを先に言われて、ミランダは口を噤んだ。相変わらず淡々とした様子で、第二王子が言う。


「調査をしたのは王家の騎士たちだけれど、さすがにわたしが一人一人を問いただすことはできないからね。まあ、いったんここまでだろう。さて、オリアーナ、ファーカー伯爵令嬢。あなたたちにはお互いの主張に齟齬がある。困ったことになったね」


 にこ、と困った様子もなく第二王子が微笑んだ。


「先にも言ったけれど、聞き取りは王家からオリアーナにつけられている護衛や侍女にも行われている。彼らは、オリアーナに問題はないと答えた。もしもファーカー伯爵令嬢の言い分が事実であれば、それはオリアーナ本人や、オリアーナに対する教育どころか、主家からの問いに正しく答えない王家の臣下にも問題があるということになるね。逆にファーカー伯爵令嬢の言い分が偽りであれば、アッシュベリー公爵家のご令嬢であり第二王子の婚約者である女性を、ファーカー伯爵家のご令嬢が不当に貶めようとしていることになる。これ以上問題が大きくなる前に、さっさと白黒つけたほうが良いと思ってね」


 そこで第二王子は、少しだけ声色を変えた。


「だからあなたたちには、真実薬を飲んで貰おう」

「真実薬……?」


 思わず、ミランダが呟いた。第二王子の許可なく発言したことに、父伯爵がミランダをきつく睨む。

 ファーカー伯爵の顔色は悪い。状況の不味さを理解しているのかも知れなかった。


「ことは王家と公爵家の婚約にも影響しかねないからね。真実薬は重要な裁判や重犯罪の調査では、ごく一般的に使用されているものだよ。学園でも習うはずだけれど、お勉強はあまり得意ではないのかな」


 第二王子の合図で、ローブ姿の女性の一人が進み出た。女性によってテーブルに置かれたトレイには、小さな小瓶が二つ並んでいる。


「効果は調節してあるから、話すか話さないかを選ぶことはできる。つまり、問いに対して沈黙で答えることはできる。その代わりに、発する言葉は対象が事実と思っていること以外には口にできない。質問の仕方にさえ気をつければ、それなりに便利な魔法薬だよ」


 あくまで穏やかな調子で、第二王子が言った。第二王子の手で、トレイがミランダの前に動かされる。


「この二つの瓶には全く同じ効能の真実薬が入っている。とはいえ、王家と公爵家が結託したなどと言いがかりをつけられては困るからね。ファーカー伯爵令嬢、あなたが先にどちらを飲むかを選びなさい」

「え……」


 呆然として、ミランダは第二王子の顔を見た。第二王子はいつもと同じく、隙なく美しい。


「右の小瓶と左の小瓶、どちらをあなたが飲んで、どちらをオリアーナが飲むのか。どちらでも同じだよ、さあ選んで」


 違う、とミランダは言いたかった。

 こんなに問題になると思わなくて。第二王子に偽りを吹き込んだのだって、ちょっとした出来心で。


 ミランダは、オリアーナの親友で、彼女が大好きで。オリアーナの幸せを願っているのも本当で。

 こんなに、問題になるだなんて。


 ミランダはオリアーナを見た。いつもならあれほどころころと変わるオリアーナの表情は、一つの揺らぎもなくミランダを見据えていた。

 手元に並んだ二つの小瓶を見下ろした。喉が渇く。


 指先ほどの大きさの小瓶が、ミランダにはまるで毒のように見えた。

魔法の存在する世界観なら真実薬くらい出てきてもおかしくない気がするんだけどあんまり見かけないなあ、って思ったので書きました


第二王子に言われるがままサインするのはミランダがあまりにも迂闊すぎるな、、と書いてて思ったのですけれど、このシーンで決着がついたら魔法薬のシーンにまでたどり着けなかったので、、ミランダの知性が展開の犠牲になってしまった。なーむ。あれです、ほんのちょぴっとだけ判断力を鈍らせるような魔法薬か何か仕込まれたのかも知れません(適当)。あとたぶん証言の矛盾とか突こうと思えば突けるよな、みたいなことも忘れてください

こんな小説を書いておいてなんですが、ミランダは別に悪党ってわけじゃないです。どこにでもいる普通の女の子ですし、オリアーナに対する友情も本物でした。ただしオリアーナが大人しくて、活発なミランダが引っ張っていくような関係性だったので、ミランダはオリアーナをちょっと下に見るというか、子分というと言い過ぎですけれど『わたしが引っ張ってあげなくちゃ』みたいな感情を持っていました。だからオリアーナが第二王子と婚約することになって、公爵令嬢であるオリアーナが『自分とは生きる世界が違う』ということを突きつけられたときに、本当に幸せを祈る気持ちもあるのに『なんで彼女が』という思いもありました。このへん、余程の聖人でもなければ善良であっても誰しも持っていておかしくない鬱屈だと思います。だから魔が差してしまったし、その内容が第二王子に嘘を吹き込むとかいう寄りによって看過できないことだったので、このような顛末になってしまいました。みたいなことを! 表現できているといいな!! ほとんどミランダ視点だったのでこのへん判りづらかったかと思います


ところで伽藍さんは人生で初めて汗疹に負けています。小学校のころも汗疹で苦しんだ覚えはないので(覚えていないだけかも)たぶん人生で初めてだと思います。この数週間ずっと苦しんでいてふと『これって汗疹では?』って天啓が降ってきたので慌ててドラストに駆け込みました。病院までは行ってないけどたぶんそうきっとそう。なんならちょっと火傷っぽくなってる。気がおかしくなりそうな暑さが続いていますが皆さまもお体ご自愛くださいませ


【追記20250709】

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3469059/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミランダのついちょっと、幸せを願っているのは本当、でも妬ましく思うのも・・・っていうのはわかる気がする(そういう心理だけ想像できる)。 たぶん、王子がん?と思って一瞬喧嘩っぽくなるとか、オリアーナが完…
真実薬というか、自白剤なら見ましたね。 現実なら嘘発見器同様、質問に対してイエス・ノーだけでしょうが、自分から詳細に喋っちゃうようなヤツが。
バカな子だよミランダ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ