アリーの夜
アリーの夜
ロサンゼルスの夜は、ネオンの光と埃っぽい風が混ざり合って、どこか現実離れした雰囲気を漂わせていた。アリー、16歳。彼女の目は、かつては星の輝きを宿していたが、今はMDMAの残滓で曇っている。彼女のアパートは、ダウンタウンの裏通りにひっそりと佇む、古びたビルの3階。壁にはひびが入り、床にはタバコの吸い殻と空のビール缶が散らばっている。ここは彼女の「家」だが、母が最後に顔を見せたのは3ヶ月前だ。
アリーはソファに沈み込み、膝を抱えて震えていた。手のひらには小さなピンクの錠剤。ハート形の刻印が、まるで愛を約束するかのように光っている。「これさえあれば…」彼女はつぶやき、錠剤を舌の上に置いた。苦い味が口内に広がり、すぐに水で流し込む。数分後、彼女の体は温かくなり、心臓がドラムのように鳴り始める。世界が色づき、音が柔らかく響く。MDMAの魔法が始まった。
彼女の意識は、14歳の夏に引き戻される。父と一緒にサンタモニカのビーチで過ごしたあの日の記憶。父の笑顔、波の音、塩の匂い。父はアリーの手を握り、「お前は特別だよ、アリー」と言った。あの瞬間、彼女は無敵だった。だが、トラックの衝突音がその記憶を切り裂く。父の血、ガラスの破片、救急車のサイレン。現実が彼女を飲み込む前に、アリーは目を閉じ、薬の波に身を任せる。
今、彼女は地元のギャング、ジェイの情婦として生きている。ジェイは彼女にMDMAを渡し、夜の街で「仕事」をさせる。アリーは彼の腕の中で笑うが、その笑顔は空っぽだ。薬がないとき、彼女は鏡に映る自分を直視できない。青白い肌、くぼんだ頬、かつての輝きを失った瞳。彼女は知っている。このままでは壊れる。でも、薬がそれを忘れさせてくれる。薬があれば、父の声が聞こえる。母がまだ家にいた日々が蘇る。
今夜も、アリーはクラブの喧騒の中で踊っている。音楽が彼女の体を突き動かし、汗と香水が混じる。MDMAの効果で、すべての境界が溶け合う。彼女はジェイの仲間たちに囲まれ、笑い声を上げるが、心の奥では叫んでいる。「ここじゃない。私がいるべき場所はここじゃない。」でも、薬の波がその叫びを飲み込む。彼女の体は動くが、魂はどこか遠くで漂っている。
夜が明ける頃、アリーはアパートに戻る。薬の効果が切れ、冷たい現実が彼女を襲う。体は重く、頭は割れそうに痛い。彼女は床に崩れ落ち、父の古いセーターを抱きしめる。「パパ、助けて…」とつぶやくが、答えはない。彼女はもう一錠、MDMAを手に取る。これさえあれば、またあの夏に戻れる。でも、心のどこかで、彼女は気づいている。この錠剤は救いではなく、ただの鎖なのだ。




