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91 蜜月

 とある二人が手を繋いで、将来を誓い合った。それから二人は居を共にし、共にいる時間を大切にした。やがて二人の仲が落ち着いてきたころ、家族が増えた。家族が増えてから、二人は徐々に二人の間の距離を持ち、その間に子供を入れるようになった。

 子供が独り立ちし、家を出てから数日。久しぶりに二人きりになった二人は、どちらからともなく言葉を発した。

 「昔はもっと、毎日焦げるくらいに言葉を交わし合っていたのに」

 二人は今の距離感に不満があるわけではなかったが、どうしてこの何もない感覚に襲われるものだ。なんともいえない空気を、誤魔化すように動く二人は、なんだか滑稽にすら思えた。

 「…ねえ、久しぶりに、名前で呼び合ってみない?」

 「そうだね、いい考えだ」

 二人は自分の役職に縛られない呼び方をすることに、なんだか戸惑う気持ちが強かった。だが、共に暮らし始めた頃の感覚を思い出すように言葉を絞り出してみた。

 「…なんだか、これはこれで不思議な感覚だね」

 「うん、照れちゃうな」

 そう言いつつも、つっかえながらに日々の呼び方に互いの名前を混ぜていった。数十年の積み重ねのせいで、未だに呼び間違えることはあったが、それでも徐々に呼び方に慣れてきた。

 すると、そこには、子供ですら入る余地のない、二人だけの特別な関係が芽生え始めた。それは、二人が同居を始めた頃の、親や友人を入り込ませない強さだった。

 そして、互いに出会えたことに奇跡すら感じるようになった。これはまさに運命だと、神様のようななにかが巡り合わせてくれたのだと感じるようになったのだ。それは久しぶりに帰省した子供を戸惑わせたが、それでも二人はその感覚を大事にしたいと思うようになった。

 「ああ、子供の前ではなかなかできなかったけど、こうしてみるのもわるくない」

 「そうだね、この距離感は大事にしたいね」

 温かい感覚、いや、熱いほどの感覚。甘くてやさしい感覚。まるでハニーミードのようなそれに、二人は酔いしれていた。

 この蜜月は、きっと死がふたりを分かつまで続いてゆく。

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