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81 美醜

 時は江戸後期、ある田舎の村から吉原遊廓に一人の少女が売られてきた。少女の見目は、そうよいものではなかった。だが金を出して買った以上、見世に出せる程度の娘にしなくてはならない。

 「お亀、早く起きな。新造は学をつけて、芸をつけて、そっからが始まりなんだから」

 お亀、と名付けられた少女は、明るいうちは本をこれでもかと読み、書を繰り返し、暗くなってからは三味線に舞い、琴に太鼓といそしんだ。その内見世の中でも指折りの芸持ちとなった。

 だが、所詮は芸があるだけ。顔を見てはがっかりする客が多く、お亀は自分の器量の悪さに心底残念と思っていた。せめて見れる程度の顔があれば、よかったものを。

 それでもお亀はまだましだった。隣の見世のお千勢という遊女は、器量も悪ければ要領も悪く、唯一売れるものは暗闇の身体だけだった。お千勢はある程度育った頃に床をさせられてから、はした金しか持たない客を暗闇で迎えることしかできなかった。

 そんな二人が出会ったのは、本当に運命のいたずらのようなものだった。

 遊女は朝方や昼見世の後、時間があれば遊廓の中を歩けたりした。そして、遊廓内の神社で早くに亡くなった仲間を弔うものもあった。偶然にも、この二人が世話になったそれぞれの女郎が流行病で亡くなり、二人はこの社を訪れていた。

 二人は互いを認めた途端、すぐさまに思った。「この顔で遊廓にいるなぞ、すぐ鉄砲女郎になりんしょう」と。

 だが実際は座敷に上がれるお亀と座敷に上がれぬお千勢では、天と地ほどの差があった。しかしながら、出会ってすぐに、お亀はお千勢の手の動きを注視した。まるで空気を撫でるようにしなを持つその動きが、天才のそれを思わせたのだ。

 「…お前さん、名前は?」

 「…わっちはお千勢といいんす。そちらは」

 「わっちはお亀といいんす…お前さん、綺麗ざんすね」

 「綺麗?誰が。わっちが?まさか、こんな不器量捕まえて」

 「いいや、綺麗でありんす。お前さんのその手の動きは、美人のそれでありんす」

 お亀は泣きだした。ひたすら座敷芸を極めた自分と、彼女の差は、一体何なのか。知りたくて、悔しさと希望と、何かで一杯になった。

 二人は座って話をした。互いの境遇も知ったが、まったく互いに考えられないものだった。

 「まさかわっちに芸があれば座敷に上がれるだなんて思いもよらなかったでありんす」

 「わっちも、まさか暗ければ器量なんて関係ないとは」

 互いに、素直に笑い合える友ができたと思った。

 だが、それから少しして。床に入るお千勢が、梅毒になってしまった。社に現れなくなったお千勢を心配する傍ら、お亀は「もしもの自分」を見ずに済んだと思ってしまった。

 そして、お千勢が死んだという知らせがお亀の元に入ってきた。お亀は自分を呪った。なぜなら、彼女を見たくないと、ふと思ってしまったからだ。もしもの自分を、可能性を持つ彼女を、もう見たくないと。

 お亀は涙を流すことなく、自戒を打った。

 「わっちはもう、誰も呪いんせん。呪うのはわっちだけでありんす」

 その目は、見世の誰より、いや、遊廓の誰よりも美しく凛としていた。

 それから、座敷で歌うだけだった彼女に、少しずつ客が付き始めた。僅かに覗く陰りと、それを隠そうとする健気さがよいのだとか。

 籠の中の鳥は、呪いにより美しくなったのである。

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