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78 叫ぶ

 時々、叫びたい時がある。「私はここにいる」と、叫びたい時がある。スマホを触っている時、教室で皆が騒いでいる時、そういうときにふと、「私を忘れないで」って言いたくなる。

 言ったところで変人扱いしかされないだろうから、言わないけど。

 みんなは思わないのかな、と考えてみる。こてん、と机に頭をつけてみる。

 「ねえ、そう思わない?」

 ペットのハムスター、まるたに話しかけた。まるたは与えられたナッツをかりかりと削っている。

 考えても詮無い事かと、私はその日は寝ることにした。まるたがカラカラと回し車を回す音を聞きながら布団に入った。

 翌日も、電車で揺られていると、叫びたくなった。「ねえ、助けて、息苦しいの」と。何が苦しいのかなんてわからない。それでも、叫びたくなる。それをぐ、とこらえる。

 もう、苦しさから泣いてしまいそうだ。泣いたところでどうにもならないのは解っているのに。

 「私、おかしいのかな」

 帰ってまるたにそう問いかけても、まるたは頭を抱えたまま小さく寝息を立てている。ケージのすみっこで、よくそんなところが好きなものだと思った。

 週末が近づいてきて、私はぐるぐると苦しくなっていくのを感じた。

 ある日、私はまるたに餌をやると、身支度なんてどうでもいいまま家を出て、電車に乗った。一時間ほど揺られて、また乗り換えて、しばらくして。海が見えると、私は電車を降りた。浜辺まで降りていくと、平日の昼間だからか人がいなかった。私は、叫んでみたかった。

 何を叫ぼうか、考えてなんかいなかった。

 「もう、もう」

 死にたいよ。

 とっさに出てきた声が、私の叫びだった。私の心の叫びだった。理由なんてなく、ただ死にたい。それが限界なのだ。

 このまま海に溶けてしまいたかった。海に沈んで、その先でなにかを見つけられたら、それでいい、なんて。

 そこまで考えて、まるたの事を思い出した。まるたは私が死んだらそう時を置かずに死ぬ。餌がなくて死ぬ。それより前に、病気になって死ぬかもしれない。私が気づけないから。私がいないから。それはだめだ。

 私は走るように駅に戻って、電車が来るまでの時間をソワソワと待った。やってきた電車に乗り込んで、私は家に戻った。息が切れたまままるたの入ったケージをそっと撫でた。まるたはハウスの中からもぞもぞと出てきて、扉に近づいた。私はまるたをケージから出し、手のひらの上でもぞもぞと動く命を眺めた。

 病院に行こう。こんな思いをしないために。限界を超えないように。まるたのために。私は気がつくと泣いていた。その嗚咽が、吐き出した声が、すべてが私の叫びだった。小さな、小さな叫びだった。それに気が付けて、本当に良かった。

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