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77 奏で

 先日、友人の大学卒業コンサートがあった。友人は芸大か音大か知らないが、フルートをやっていたらしい。恩師、家族、友人、その他もろもろを呼んでのコンサートだった。

 俺はコンサートに行く三日前に、彼への小さな花束を予約した。紫のスイートピーを、鉢で仕入れてもらうことにしたのだ。スイートピーにしたのは、店員さんの「門出っていう花言葉があるんですよ」という一言からだった。花言葉なんて気にしない俺には、その考えが新鮮だった。

 コンサートは見事なものだった。彼のフルートの音色が会場を支配して、まるで時が一瞬で流れたかのような、それでいて満足感の高い時間を過ごせた。

 「お疲れ様。これ、スイートピー。水やれば一週間は花が楽しめるって」

 「へぇ、意外だな、お前が花を持ってくるとは。まあ、小さくてかわいいな。大きな花束じゃあ、いろんな人からもらって家中が花だらけになるから」

 はは、と照れ臭そうに笑う友人に、心の中で密かに門出を祝った。

 さて、今度は俺の番だ。卒業の発表があるのは俺も同じだった。発表会には、当然その友人も来てくれた。

 発表会は無事に終了し、俺は晴れて卒業資格を手に入れたのだ。と、友人が近づいてきた。

 「これ、お前に」

 黄色い花だった。

 「フクジュソウ。花言葉は「幸せを招く」。まあ「悲しい思い出」ってのもあるけど…でもお前に幸せがあるといいと思って。お互い慣れないことしたもんだ」

 幸せを願って。そうか、友人は俺と同じく、不器用だから、花でも渡して花言葉だからって思いを乗せたんだ。バカだなぁ、なんて思いながら、涙で濡れた視界のまま花を受け取った。

 「なあ、この後時間あるか。俺の家に来ないか」

 そう言われたので、家に花を置いてから友人の家に向かった。すると、友人は防音室に俺を呼んだ。

 「お前に聞かせたくてさ」

 友人は聞いたことのないメロディをフルートで吹いた。

 不思議な音だった。やさしくて、のびやかで、すう、と染みるような音。

 演奏が終わっても、俺は呆けていた。

 「これ、俺が作ったんだ。俺、講師やりながら作詞したくて。どうだった?」

 「いや…なんか、すげぇ。素人だからなんともいえないけど、好きだよこれ」

 「そっか、ありがとう」

 俺はそいつの机の上に、スイートピーが置いてあるのを見た。すぐそばに水が入ったペットボトルがあって、中身が減ってるから水やりはしているんだろう。

 「ありがとう、いいもん聞いたよ」

 「これ、タイトルは何がいいかな」

 「うーん…花言葉とかから取ったらいいんじゃねぇの。慣れないことしたけど、慣れてきゃいいんだよ」

 そうか、と笑った友人に見送られながら家に帰った俺は、フクジュソウを小さな花瓶に挿した。幸せ、俺んところにも来るかな。

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