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71 若狸

 「これだから最近の若いもんは」

 と、いつものように呆れられながら罵倒される。壮年から老年程度の上司にそう言われれば、何も言い返せないのが悔しい。

 部屋を出て一人こぼす。

 「この古狸が」

 昔の価値観にとらわれて、柔軟さを失い、自らの威権を守ることにのみ固執する人物を例えた言葉だ。なぜタヌキなのかなんて知らないけど、上司をそう言い表せる言葉があるのは憂さ晴らしにはなる。

 「よう、またなんか言われたのか」

 「俺そんなにわかりやすいっすか先輩」

 「まあな。お前嫌なことあるとすーぐ眉間にしわが寄るんだから」

 そう言われてしまえば、それはいかんなと親指で眉間をぐいぐいと伸ばしてみる。

 「最近の若いもんって、一括りにされちゃたまらないっすよ。望んでこの年に生まれたわけじゃないのに」

 「確かに、なんでそんな風に言われなきゃならないもんかね」

 「理不尽っすよ、自分の意見が通らなかったらこっちの経験が浅いのを理由にしてきて」

 愚痴をいくら言っても怒りは収まりそうにない。愚痴を言える環境であるがゆえに発生することなんだろうが、それでもその環境に甘んじたくなるほど不満が出てくる。

 「そういや俺、転職しようと思っててさ」

 「転職すか」

 「うん。地元戻ろうかなって思うのと、やっぱこの会社息苦しいわ。会社ってか、上司が」

 「あの人はちょっとねぇ」

 二人してそんなことを言ってから仕事を進めるための沈黙が生まれる。その間にも、あの上司への怒りが再燃してくる。

 「俺も転職しようかな。働くだけでもストレス溜まるのに、それ以外でストレスばっかとか耐えられねぇ」

 「お、一緒に転職するか?とはいえ俺の地元は僻地だからお前は来れないけどな」

 「まあついて行く義理もないですし」

 冗談を言いあいながら、よし転職先探してみるかと意気込む。

 そんなことを考えてから数日。上司に書類を持っていくと、扉越しに話声が聞こえた。

 「古狸で結構。若いもんが反骨精神持ってくれなきゃと思ってるんだ。そりゃいい上司にはならんだろうさ。でも、自分の意志を持った社員の方が強いと俺は思ってるんだ。意思がなく従順な奴らは、まだまだ強さが足りねぇと思うんだよ」

 上司がそんな風に思っていたとは思わなかった。いい上司ではないのは確かかもしれないが、そんな偽悪精神を持っているとは思ってこなかった。それによって評価ががらりと変わるというものでもないが、それでももう少しだけこの会社で頑張ってみようかな、という気にはなった。

 あと、上司ともっとしっかり話してみたくなった。その本心を知れたなら、これからも自分の意見を持ってはっきりと生きていけそうだと思ったからだ。

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