61 親孝行
少女は、母に親孝行しようと思った。
少女は、まあ少女という年齢かどうかは微妙なのだが、親から見ればまだまだひよっこであること、妙齢の女性と言うとあどけなさが表せないことから少女と呼ばせてもらおう。彼女は、ごく普通の一般家庭に生まれた。どちらかというと不自由のない生活ではあったが、金がないことで困ることなどいくらでもあって、親に頼ってばかりに生きてきた。
少女はアルバイトを始めると、医療費を自分で払うようになった。少女は時間に余裕があるときは、掃除も料理も行った。自分のために時間を使うことは後回しで、年頃の女性にしてはファッションにも金を使わなかった。
けれど、親はどれほど苦労してきたか、ある時ふと考えたのだ。特に母の苦労は常々聞いていた。自分を優先する父は、時折家族に見せる情はあれど、それが常日頃から感じられることはない。母はそんな父と結婚し、父の望み通り三人の子供を生み、長子には甘かった父も末子にはあまり興味がなく、その反発からか末子である少女は親への恨み節が強かった。
今までさんざん苦労を掛けてきたな、親孝行をしたいな、と思う反面、元気で生きていることが一番の親孝行ではなかろうかと、生意気なことを考えたりもした。
ある日、少女は母のためにとサンドイッチを作った。二つのサンドイッチのうち、片方には目玉焼きとレタス、生ハムが。もう片方にはスクランブルエッグとレタス、チーズが。十分程度で作った母の昼食だが、喜んでもらえるだろうか。
母は作ってくれた少女に対してありがとうと言って、それを包んで出かけていった。少女はありがとうと言われたその一言で、なんだか嬉しかった。
これから先、まだまだ親に苦労を掛けるかもしれないが、何かあったらそのたびに感謝を伝えよう。少女はそう考えて、洗い物をするのだった。




