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60 幽白

 紗の服を着た男が月夜に泉のそばで舞うと、面白いことが起こるという。

 孫李はそれを聞いて、友人の庶伯に一緒にやらないかと誘った。

 庶伯は「それ、一番肝心なところが抜けているぞ」と孫李を落ち着かせた。

 「一番肝心なところって、どこだ?」

 「泉の話さ」

 庶伯は茶を飲みながら答える。

 「その昔、紗がまだ貴重だった頃、紗を纏えるのは王の夫人だけだったのさ。けれど、ある時の王は男色でな。お気に入りの男に紗を着せようとしていたんだ。

 だが、いくら男がお気に入りでも、王は子を残さねばならない。王には夫人がいたのさ。

 王の夫人は、自分ですら着ることを許されない紗を男が纏うのが嫌で、王の愛人を妬んでいた。それはもう鬼も逃げ出すほどに恨んでいて、王の愛人を『獣尾(卑劣なもの)』と呼ぶほどだったそうだ。

 しかし、二人は王の前では仲が良かった。夫人が鈍感な愛人を牽制するようにいつも笑顔だったそうだ。だから王も愛人も、夫人の計画には気づけなかった」

 庶伯はそういうと、木の棒で地面に絵を描いた。

 「ほら、夫人は仮面を被っていて、王と愛人は正面からしか見なかったのさ。愚直と言えば愚直だろう。

 そして、夫人は愛人を泉のほとりに呼び出すんだ。今夜は月が美しいから共に歩こうと。

 愛人は王に夫人とともに夜を過ごすのだと伝えて、泉に向かった。そこに待っていたのは、紗を纏った夫人だった。

 夫人は「これ、ついに王から貰ったの。あなたは、これが欲しい?」と聞いた。愛人は紗を着れば周囲から王との関係を認めてもらえると信じ込んでいたから、「欲しい」と言った。

 とたんに夫人の形相が変わり、「あなたにはあげないわ、これは私があの人の隣に立つための衣ですもの!」といい、愛人を泉に突き落とした。だが、夫人も足を滑らせて、泉に落ちてしまったんだ。

 そこに、愛人が夫人といい雰囲気なのではと疑った王が現れた。王は愛人をまず助け、次に夫人を助けた。だが、夫人は紗の衣が顔にまとわりついて、息をしていなかった」

 ここまで話されれば、孫李もさすがに話の落ちがわかる。

 「そして、王は愛人に新しい紗を贈った。そして愛人をあの泉に近づけなかった。

 つまり、夫人は今でも紗を纏った愛人を探しているのさ。

 だから、面白いことが起きるって言うのは」

 「その泉だけなんだな」

 「そのとおり」

 孫李が納得し、二人がそれぞれの家へ帰ったあと。二人が話していた茶屋では、池の水が揺れていた。

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