6 パンとベーコン
どこにでもいるやや自堕落な大学生がいた。大学生はアパートの一室に住んでいて、毎朝近所の花屋を脇目に大学か散歩に行く。時々花屋の前で立ち止まるが、水をやるのも水を変えるのも面倒なので花を買ったことはない。
大学生は週末に近所のスーパーで買い物をする。自炊はしているが時々ラーメンを食べたくなるので、二週間に一度は袋麵を買う。近所のスーパーは袋麵の品揃えが豊富なので毎度何味にするか迷っている。
大学生は家庭教師のバイトをしている。そこまで都会ではないもののなかなかに時給がよい上に、学問的なことを話すという行為に慣れることもできるからだ。
朝、大学生はゴミ出しをする。朝が苦手ではあるが、ゴミ収集車が朝早くに通る地域なので頑張って起きるのだ。
大学生の朝ごはんにはいつもトーストがある。気分によって飲み物が変わるし、付け合わせもヨーグルトやフルーツと変わったり、ない日もある。けれどかならずトーストは焼く。ジャムやバターをつける日もあれば、目玉焼きを乗せる日もある。中でも大学生のお気に入りはベーコンを乗せて焼いたものだ。
大学生は文房具が好きで、駅前の文房具店の品揃えが豊富だったので大学から少し遠くはあるがこのアパートを選んだ。授業がない日はバイトの時間まで文房具店まで散歩に行くほどだ。
大学までは自転車を使って通学する。雨や風の日は大変だが、めげることなく授業を受けに行く。大学生はサークルも楽しみなので、行ける日は極力大学に行く。
大学生は軽い持病があったので、引っ越ししてすぐにかかりつけとなる医者と薬局を探した。幸い最寄りの薬局は大型で薬が不足することはまずない。病院は大学の方が近いほどには遠いが、通学路からそう離れない場所にあったのはありがたい。
大学生が入学してすぐ、私服が少ないことに気がついた。いままでは高校の制服やジャージを着ていたから、必要なかったのだ。慌てて服屋で無難な服を買ったものだ。
大学生が受け持っている家庭教師の生徒は、主に中学生である。高校受験を控えていると言うのもあるだろうが、そこまで都会でもないので、小学生が受験することが少ないと言うのも理由かもしれない。大学生も勉強で躓くことは多かったので、そのサポートができるのは双方にありがたい話だと思っている。
大学生の友人はそこまで多くはないが、皆優しい。たまに放課後に集まってカラオケに行ったりする程度の仲だが、気負うことがなくて適度な距離感だと思っている。
大学生には苦手な教科があった。教授の説明がどうしても理解しにくいのもあったし、マイナーな教科だったので友人に教わることもできなかった。単位はギリギリで取れたという程度だ。
大学生は親によく「大学生のうちしかできないことがたくさんあるから、楽しみなさい」と言われていたが、あまり大学生という期間を楽しめていないような気がしていた。日々の営みに幸せを感じることはあれど、本当に楽しめているのかがわからない。この期間にやっておくといいことがあるのかすら思い浮かばない。教えてくれる人なんていなかった。
大学生は将来の想像がつかない。就職している自分も想像できないし、そもそも学生ではなくなることも想像できない。学校しか知らずに育ってきてしまったんだな、と痛感する。今更な後悔ばかりで埋もれる夜もある。
それでも、変わらず毎日は巡り来る。大学生は毎日考え、悩み、放棄しながら生活する。いつか答えが出る日を待ちながら。




