58 心
その日、一体のロボットが完成した。人工知能を搭載し、人間の赤子と同じように感情を獲得するように組まれたロボットだ。見た目こそ武骨なロボットだが、心は優しい人間のそれになるというものだ。
ロボットは月日を経るごとに喜んだり怒ったりするようになった。そして、その理由は時に理不尽だったり理解が難しかったりと、人間の子供のそれと同じ時期があった。
「お前はこれからどうしたいかな」
「私は…友達が欲しい。なんだか…ひんやりしたような感じがする」
「それは、寂しいのかもね」
研究員たちは家族であって友達ではないという感覚なのかもしれない。同世代の、人間の友達が欲しいのか。
「わかった。しばらくまっていなさい。お前と友達になりたい子を連れてこよう」
ロボットは「嬉しい」と「期待」を示すランプを点灯させた。
それからしばらくして、ロボットの元に三人の子供がやってきた。彼らはロボットに話しかけ、自己紹介をした。彼らはロボットの名前が長いからとあだ名をつけた。まるで、普通の子供たちが友情を育むように。
ある時、遊びに来た三人にロボットは「なりきりごっこ」、つまりおままごとをしようといってきた。年相応に少し難しく、それぞれの仕事に則ってやるものだそうだ。観察していた研究員は、微笑ましいと感じていた。
「私は医者になる。あなたは警官、あなたたちは歩行者。いい?」
「いいよー!」
「前に事故現場の対応を学んだから、それをやろう!」
子供たちはそれぞれ散らばって、急に一人が地面に倒れ、苦しむふりをした。
「大変だ!おまわりさーん!」
「ここはおまわりさんよりも救急車を呼ぶべきでは?」
「そうだった、救急車を呼んでください!」
駆け付けた警官役の人は急に通行人になり、救急車を呼ぶふりをした。通行人役も急に救急隊員役になり、それを当然のように受け入れていた。
救急で運ばれた人が医者の元に着くと、ロボットは言った。
「どこにも異常はありませんね。正常です」
「えー!ごっこ遊びしようっていったの君でしょ!」
「そうだよ、ここは嘘でも怪我してるとか言わないと!」
ロボットは困ったように言った。
「ですが私は間違ったことを言えないので。正しいことを言わないと、それは悪でしょう」
「こういう時の嘘は皆嘘だってわかってるからいいの!」
「嘘だとわかれば、何を言ってもいいんですか?」
「多分ね」
ロボットは少し悩んで、「では、私はあなたたちを見下しています。あなたたちは私と比べるとどうしようもなく馬鹿で愚かしく、憐れな存在です」と言った。
子供たちはぽかんとして、「…そういう嘘は言っちゃいけないんだよ」と言った。子供たちは楽しくなくなったのか、帰ってしまった。
翌日、子供たちは来なかった。ロボットはそれがどうしてだかわからなかった。研究員は言った。
「嘘でも人の尊厳を傷つける言葉は言っちゃいけない。それが悪なんだ。お前にその気がなくても、相手は傷ついてしまうから」
「…自由に動いていたものが、一か所に無理矢理閉じ込められているような感覚です」
「それは苦しいってことだな。それが傷付くってことだ」
ロボットはそれを学んだ。そして、今度会えたら三人に謝ろうと思った。それが優しい嘘だと気づくのは、まだ先のこと。




