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56 自販機男

 自販機を撮影するのが趣味の男がいた。男はカメラを携えて散歩をしては、ルート上にある自販機を撮影していた。

 「やあ、ここにも自販機があるじゃあないか」

 そう言っては一度撮った自販機でもおかまいなしにシャッターを切る。季節ごとに中身が変わったり、広告が変わったりするのだ。

 男が自販機を取り始めたのには、きっかけがあった。元々家の前に自販機があって、それを利用することが多かった男は、家の前での記念撮影も自販機と一緒だった。

 あるとき、その自販機の詰め替え作業をぼんやり見ていると、表にある商品表示のプラスチック板が取られて、別のものに入れ替えられているのを偶然見たのだ。男はそれがなかなかに面白いと思っていた。

 しかし、男は歳月を経て引きこもりになってしまった。男はこれではいけないと思いながら、どこにも行けないまま家の前の自販機で炭酸を買った。その時、自販機の広告に、電車の写真があった。

 これなら遠くへ行ける。現状を少しでも変えたかった男は、すぐさま親に事情を話した。少し郊外にいけば、ごみごみした社会に縛られない自由な空気がある。そこで何かを探したいのだ。親は男の言い分を静かに聞いて、一年間だけは自由に、旅の資金も親に頼らずやってみなさいと言ってくれた。

 男は親に感謝した。すると、父が納屋に行って、一台のカメラを持ち出してきた。

 「これを持っていきなさい。別に景色や人を撮らなくてもいいが、そこで心ひかれたもの、おいしかったものとか、なんでもいいから撮ってみなさい。そして旅が終わったら、私達に見せておくれ」

 父はそう言ってカメラを男に渡した。男は泣きながら返事をした。

 その後、自販機の横、家の前で家族三人で写真を撮った。広告はその翌日には変わってしまったそうだが、あの電車の広告がそのカメラの中にあった。

 男は電車に乗って郊外に向かった。短期バイトを探していた中で見つけた、引っ越しの手伝いをやるためでもある。男は郊外で引っ越しを手伝った後、その家のちょっと横に自販機があることに気がついた。ここも、自分の家のようにあるんだな。

 そこで、男は引っ越した人に、よかったらここで記念撮影をしないかと申し出た。あのカメラで、自販機が映る角度で、家の人と引っ越しを手伝った人たちと、二枚の写真を撮った。すぐ近くにあったコンビニで現像して渡すと、これもなにかの記念になるねと笑ってくれた。

 トラックを運転していた人が、男に自販機でお茶を買ってくれた。いい光景だな、と全員が笑ったその写真を見ていった。自分はさまざまな人生の転機で自販機と共にあるのだな、と男は思った。

 それから、男は旅先で出会った人たちと、自販機を撮影して周った。自販機があるところを周っていくうちに、男は何度も変化を重ねる自販機を見たいと思うようになった。そうして何度か同じところを訪れていくうちに、ある村の人たちと親しくなった。その村の商店で働けるようになると、一度男は家に帰った。

 「自販機が俺を導いてくれた。俺自販機好きだよ」

 両親は男が明るく笑えるようになったことを喜び、村への移住を快く了承した。

 今、男はたまの休みに遠出をしては自販機を撮影している。きっかけはなんでも良かったかもしれないが、男にとってはそれが自販機だった、というお話。

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