54 家の町
駅前に、近所で有名なホームレスがいた。本人はすごく根がいい人で、挨拶したら返してくれる。でも、誰もそのホームレスを助けない。
ホームレスの人が一体どうしてホームレスになったのか、ホームレスをやっていて苦しいことはないのか、時々気にはなった。でも、それを質問するのはどこかはばかられて、自分で調べてみることにした。
そこで、こんなシナリオではないかと考えた。
駅前のホームレスさんは、もともと家との反り合いが悪く、働けるようになるとすぐ家を出た。その後何らかの事情で失職し、再就職できないまま家と連絡がつくことを恐れて生活保護の申請をしなかった。最終的に家賃が払えなくなり、持ち物を最低限残して売り払い、住んでいたアパートから出た。その後、いくつかの場所を転々としつつ、最終的にあの駅前に落ち着くようになった。住所もなければ親身な身寄りもなく、身寄りに探されることを恐れている。だからあの人は、あの生活から逃げ出せない。
ホームレスさんの名前も、本当の事情も何一つ知りはしないけれど、そう考えるとてこでも動かないような気がした。
ホームレスさんについて、自分がしてやれることはないだろうか。そう思い、雨が降る中駅前まで散歩が照れ見に行った。ホームレスさんは破れた傘をさして雨をよけていた。近くのコンビニに入って、一番大きくて安いビニール傘を買った。俺はその傘をホームレスさんのところまで持っていって、「これ、よかったらどうぞ。古い傘も俺が捨てときますから」と言った。
ホームレスさんはぽかんとしていて、もしかして余計なお世話だったかと恥ずかしくなった。
「いらないなら、いいです。えっと、寒いんで気を付けて」
「あ、ええと、違う、傘くれるならありがたいけど、俺そんなかわりにあげられる物なんてないよ」
「あ…いや、そうですか、じゃあ、えっと…」
俺は周りを見渡して、雨に濡れているタバコの吸い殻を見つけた。
「晴れてる時でいいんで、こういう吸い殻とかのゴミ拾うとかお願いしてもいいですか。ここでゴミ拾いしてる人いないし。ゴミ袋は今度また持ってくるんで。俺が勝手に言い出したことだから、誰かに言われたら✕✕が言ってたって言えばいいです。✕✕です。えっとあなたは」
「〇〇です。本当に貰っていいかな。じゃあ、晴れたらゴミ拾いするよ。でもあんまり遠くまではできないよ。俺この段ボールが家だから。撤去されたら困るからね」
「いいっすよ。俺もゴミ拾いしようかなー。この町好きなんで」
「俺もこの町好きだよ。君みたいな優しい人いるし。この段ボールも貰い物」
にかっと笑った〇〇さんは、全然暗い過去があるような感じがしない。まあ過去なんて俺の妄想だしな。
それから、〇〇さんはちまちまとゴミを拾い始めた。俺はいっぱいになったゴミ袋を回収したり、一緒にやっていたら、徐々に人が集まり始めた。〇〇さんは町の人気者になりつつあった。
ある時、そんな〇〇さんが亡くなったと聞いた。〇〇さんは車道に飛び出た子供を助けて亡くなったそうだ。俺は〇〇さんの咄嗟の行動に静かに手を合わせるしかなかった。〇〇さんは最後にはこの町に生きられたことを喜んでいたそうだ。この町が〇〇さんの家になれたのだ。
ゴミ拾いの活動は今も続いている。あの段ボールがあった場所には、今も花が手向けられる。




