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5 体験記 雪上にて

 これは私の体験記である。

 この冬、私は家族でスキーに行った。深夜に車で家を出発し、車を運転できない私は寝ていた。三時間ほど眠っただろうか、ふと目を覚ますと道の脇にしっかりと雪が積もっていた。今季初めての雪を見たのである。前の席に座る二人はぽつりぽつりと会話をしていて、ある程度まで走ったところで運転を交代する算段のようだった。

 それからまた数十分ほど微睡んで、明かりに目を覚ますと、外はまだ暗く、しかし煌々と光るコンビニエンスストアの明かりがあった。そこで休憩と順路確認、それから朝食を調達するとのこと。私も車を降りて朝食になりそうなものを見繕うことにした。

 車の扉を開けると、地面に雪が積もっているのが分かった。滑るほどではなかったが、それでも凍っている可能性も考えて慎重に足を下ろした。外の空気はきんと冷えていて、私達は小走りでコンビニエンスストアに駆け込んだ。私はおにぎりとパンを買い、外に出た。当然のことながら空気は変わらず冷たいまま漂っていて、風がないことが幸いかと思いながらも車に駆け込んだ。コンビニエンスストアよりかは冷たいが、暖房がついているため外よりは車の内部の方が暖かい。同時に、弁当を温めた人がいたために、内外の温度差と水蒸気量の増加により、窓はいっせいに曇り始めた。

 車の中で朝食を取り、すこしばかり休憩していると、空に色が付き始めた。夜明けが近い。さらに、細かな雪が音もなく降り始めた。車の窓に当たってはすぐに溶けてゆく様は、なにか可愛らしさを感じる。

 私は起きている理由もなしとまた眠りに着こうとしたが、なにぶんそこそこの時間寝ていたた上に、車外に出て活動したので目がはっきりと覚めてしまった。そこからスキー場は非常に近かったので、山の上に近づくにつれ増える雪にワクワクしている間に到着してしまった。

 私が保険証を車に置き忘れたがためにロビーから引き返すと言うトラブルもあったが、概ね普通の行動パターンであった。

 さて、今回は同乗した人全員がスキー用品を概ね揃えていたので、わざわざレンタルする必要がなくすんなりと場内へ入った。人がいないというわけではないが、人気のスキー場に比べれば人口密度が低めの場所である。初心者コースには子供連れも多いので衝突などには気を付けなければならないが、私達は中級以上を滑れるのでそうしたところではあまり気にしなくてもよい。

 とはいえまずは一年以上開いているブランクを取り戻すために最初は初級を滑る。そもそもロビーを出てすぐのリフトに乗らなくては別のリフトに行けない構造だったので、乗るリフトは決まっていた。目指すリフト搭乗口は同じリフトで、まずはコースを一本滑り切ってみようということになった。

 相変わらず止まない雪は、粉雪となってコースを覆っていた。私は急斜面で転んだ時よくストックや板、帽子などを置いて転がって行ってしまうので、急斜面では動きがだいぶチキンである。もしゲレンデが木々を切り開いてできた裂け目なら、お前は糸を通した針かといいたくなるような動きをする。ようするに、降りる速度が非常に遅いと言うことだ。他の人は私よりも体力があるため、本来はもっと軽快に滑り降りてゆけるのだが、わざわざ私を待っていてくれる。これは非常にありがたいと言うものだ。

 そんな風にゲレンデを滑り降りていると、前を行くスキーヤーやスノーボーダーの板がエッジを効かせて降りていくのを見ることができる。エッジを効かせるということは減速しようとしているわけで、主にカーブで見られる。そんなときに雪が再び宙を舞うのだが、当然のことながら先ほどまで降っていた粉雪が最も軽く飛ぶ。積もった雪と降る雪はほとんど変わらないのに、それが空中にいると言うだけでどことなく特別感があるように思われる。

 今回訪れたスキー場には非常に広いコースがあり、横幅で50mはあるだろうと思われた。そこは傾斜もゆるく、都会ならばスキー場ではなく物件が立ち並ぶであろう。そんな空間を風を切りながら滑り降りていくと、まるで大自然と共にいるような感覚になる。

 山の高いところまでリフトに乗っていくと、リフトの速度と高所の風により雪が顔をちくちくと刺すようになる。耐えかねてネックウォーマーに顔をうずめると、肩に強い力がかかってしまい、だいぶ凝ってしまう。防寒は過剰なくらいがよかったかもしれない。

 そのようにしながら周囲を見渡すと、樹氷のようになった木々を眺めることができる。時に雪が大きく固まっていて、木々が角隠しを着て集団で嫁入りをするようだと思った。ところどころに見える濡れた木肌は黒々として、雪によく映える。山全体が芸術作品になったかのようだった。

 そのようにして何本かコースを滑った後、早めの昼食を取った。当然だが雪山で食事ができるところは限られる。食堂に行っても頼める種類には限りがあるし、スキー場特有のジャンクフードに味の良し悪しを求めるのは野暮だとわかっているので、とりあえず食べられるもののうち消化効率の良いものを選ぶ。席について食事を始めれば、いつの間にか抜けていた水分と塩分が最高のスパイスになる。結局完食した。これではカロリー分しっかり動かねばなるまい。

 昼食後はもう一度ストレッチをしてからリフトに乗った。スキーでは体を動かしている時間より止まっている時間の方が長くなる時があるので、固まってしまって不慮の事故を起こさないためにも体を冷やさないようにすべきなのだ。

 スキーの板は二枚。これを八の字にすることでブレーキがかかり、斜面に垂直だと加速、水平だと停止する。ようは直感に従った行動をしてくれるわけなのだが、後半にもなると私の体力では制御に限界が来てしまう。そうなると直感的な力のかかり方が素直に反映されるときもあれば、いじけたように思い通りに進まない時も出てくる。特に私はターンが苦手で、急斜面でターンをするとき毎度独り言のように泣き言を言ったりしている。

 そうして滑り降りているとき、私はターンをミスして転んでしまった。転んだ場所は、あまり人が通っていない粉雪が降り積もった場所。手を突こうにもストックを指そうにも、面が小さすぎて埋もれてしまい上手く立てない。これではいけないと思い、ストックを使ってスキー板を外そうと努力した。しかし、体勢が悪く難航する。他の人は既にそこそこ遠い下部まで行っており、助けにも来られないことは明白だった。私は必死に金具を押して、やっとの思いでスキー板を足から外した。そうして体制を整えて、外れてしまった帽子とゴーグルをとりあえずで頭に装着してから立ち上がった。帽子には雪が付着しており、汗ばんだ肌に心地よかった。板を置いて足を装着しようとすると、板の面積に対して足の面積があまりに小さく、粉雪の上では大きな段差となってしまった。それでもなんとか両足を装着し、皆が待っているところへと滑っていこうとした。しかしながら、粉雪が板の上に乗っかってしまい速度が出ない。ストックも先ほど同様埋もれてしまって役に立たない。私は仕方なく両足を交互に出してペンギンのように歩くしかなかった。

 そのあたりから私は疲労が見え始めていて、中級コースが少し厳しく感じていた。それでもロビーに戻るには数本滑らなくてはならず、仕方なくゆっくりでも滑り降りていた。斜度が緩やかな時は体の力を抜いて小休止し、急なところでは邪魔にならないように端まで行っては小休止していた。

 そうこうしているうちに風が出てきて、私達はコース途中にある休憩所で飲み物を飲みながらこの後のコース巡りについて話し合った。私はもう限界に近いので、先にロビーで待っていることにした。そうしてロビーまで降りていく途中、人の少ないコースを見つけてそれを使ってのんびりと降りて行った。

 他の人はあと何回かコースを滑るとのことで、私は空白の時間を自販機で買ったコーヒーを飲みながら過ごしていた。SNSを見たりしていたのだが、なにぶん雪山、電波は通っているものの人も多く非常につながりにくい。写真などは麓に降りた後に見ることにした。

 そうこうしているうちに他の人が戻ってきて、私達は駐車場まで戻った。車の上には雪が積もっており、ワイパーを上げ忘れていたりしたが幸い溶けて凍っていたりはせず無事に使用できた。しかしここで横着して払わずにいたがために上に積もった雪は凍ってしまうのだが。

 私達はスキーをした後は温泉に行くのが恒例である。温泉まで行って、私は目が悪いので眼鏡をつけて入ることにした。ついでに転んだ時に汚れてしまったレンズも洗った。大浴槽では、肩まで浸かって全身の血行が良くなるまで待つ。ついでに酷使した足も揉んでおいた。

 その後は夕食を食べ、宿まで行ってスキー体験記は終わる。

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