45 春晴れ
春晴れ。はるばれ。ハルバレ。
あまり耳馴染みのない言葉だが、今日はなんと言うか、そうとしか言えない天気なのだ。
上着を着ていると暑いような日差し、けれど上着を脱ぐとひんやりとした風。この春特有の天気は、やはり春晴れとしか言えない。
なぜ秋晴れという言葉には馴染みがあるのに、春晴れはないのだろう。秋は春よりも曇りや雨が多くて、あまり晴れないからだろうか。そんな理由なら春晴れという言葉もあっていいような気がしてくる。
調べてみても、春晴れという言葉はあまり出てこない。ただ、春雨はある。秋雨もあるのだから、対になって春晴れもあっていいのでは。やはりそんな気持ちになる。
春の穏やかな晴れの日に、ぶらり散歩をしてみる。行き先はちょっと近所のお店まで、といった程度で。日陰はやはり寒いのだが、日向に出てみればマフラーはちょっと無粋かな、といった温度。風は顔から手から温もりを奪っていくが、芯まで冷えることはない。
春が近づいてきたな、と、木の芽を見て思う。冬に咲いていた牡丹の花は、少し花弁の先を茶色くしてくずれる。さて、空はというといよいよ青く、春霞も出ているが空の端。
鳥はまだ鳴かず、けれど花開く梅を見る。ややもすればこの梅の蜜を吸うあまたの命がうごめきだすのだろう。
この晴れの日を、春晴れと言いたいのだ。この穏やかな一日を、春晴れと呼びたいのだ。
まあ一人が勝手に言うのも、大勢が口をそろえて言うのも地球の上では大差なかったりする。所違えばこれからいよいよ寒くなるぞと備える場所もあるのだから。ただ、人の口伝いに連綿と紡がれてゆく言葉は、やがてそこにあったものとして定着する。その最初の一人になりたいわけではないが、私はこの春晴れという言葉を使っていこうかと思ったりするのだ。
さて春麗らかに、お茶をごくりと飲んでみたりする。この時期にしかない心持ちと共に味わってみる。三寒四温の先に暖かい季節を待ち望み、飲むお茶は少しばかり苦かった。




