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4 紙とペン

 紙とペンがあれば、何でもできるような気がしていた。空想の世界では、魔法使いにも、神様にも、泥棒にだってなっていいから。物語が私の人生なら、紙とペンは私の武器だ。だからペンを執った。だから紙に書いた。どこまでも自由な世界で、私は自由になれたから。

 だけど、それはある日を境に突然終わりを告げた。

 「来月から、資源保護のため紙の使用に規制がかかります。一般で使われる紙の販売に税がかかり、教育・研究のための紙は申請を通して購入が可能になる見通しです」

 そんなニュースがリビングで流れた朝。私は、開いた口が閉じなかった。

 友達には「パソコンで書けばいいじゃん」と言われ、父には「紙よりいずれ安くて簡単になるさ」と言われた。でも、私は紙に書きたかった。

 紙にペンを滑らせるあの感覚。自分の手で物語が生まれていくあの瞬間。そのどれもが私の宝物だった。なのに、それができなくなる。

 私はその日、文房具店に行って紙を大量に買った。帰りにおつかいを頼まれていたからドラッグストアに寄ったら、ティッシュもトイレットペーパーも品切れだった。日用品はどうなるんだろう。私が生まれてから今までの間に、どちらも価格が三倍以上になっているらしい。そんなことを考えながらおつかいのものを買って帰った。おつりが思ったより少なくなって、少し怒られた。

 私は買った紙一面にびっしりと文字を書いた。両面に、書き殴るように、激動の赴くままにペンを動かした。物語は、私がかねてより考えていたものだった。壮大で、劇的で、時に人々が理性と感情の狭間で戦いながら、世界が変わっていく物語。寝るのも忘れて書いた。夜が来ても書いた。朝が来て、学校に行かなくちゃいけなくなっても書いた。

 最後の一文になって、私は手を止めた。

 この物語は、これからも続いていく内容だ。私が今はこれだけしか思いついていないだけ。人の物語に終わりはない。けれど、それを書くには余白が少なすぎる。

 「かの有名な数学者も、紙に書いたが故に物語を生んだ。紙でしか綴られないものがある。」

 私の人生は、物語を書くためだけにあるのだと思っていた。それをもったいないだなどという人は、つまらない人生を歩んでいればいいと思ったものだ。けれど、所詮は限られた紙の中で閃光のように綴られる一人の物語に過ぎないのは、私の方かもしれない。私の人生は、この程度でくじけるようなものなのだろうか。

 そうなのかも、しれない。私は所詮この程度だ。紙がなくなれば私は物語を生めなくなるのか。そうじゃない。ただ、紙に書きたかっただけなのかもしれない。じゃあ、物語である必要とは何か。そんなもの、ないのか。

 私は、泣きながらその紙の束を抱えて、父に「これ、データ化できる?」と頼んだ。データ化はそう時間をかけずに完了し、それを少しばかり読んだ父が「これ、面白いじゃないか。出版社に持っていきたいくらいだよ」と言った。

 私はそんな事どうでもいいと思っていたが、父は出版社にそれを持ち込んだらしく、次の休みには打ち合わせが決まっていた。

 「これ、本当に素晴らしいですね。文章力もさることながら、なにより展開が読み手をワクワクさせる」

 私の作品は、デジタル書籍として世に出回ることになった。それから時を置かず、紙の規制販売が開始した。

 「…ねえ、お父さん。私、紙に書きたいよ」

 父に買って貰ったパソコンで物語の続きを書きながら、私はつぶやいた。父は「ん?なんか言ったか?」と振り返る。私は「ううん、今書いてるところがちょっと悩ましくて」と返した。

 私の武器は、失われた。けれど、私の人生は、戦いは続いていく。武器を持たずに戦うこともできるものなのだな、と、私はパソコンに打ち込んでいた。

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