34 幼子と町
その町は、近年高齢化が進み、もはや人も少ないということでショッピングモールすら進出してこない町である。住民はほとんど顔見知り、互いのことを名前で呼び合う仲である。そんな町のアイドルが、四年前に生まれたばかりである少女であった。
「Kちゃんはいい子ねぇ。あらかわいいおべべだこと」
「日増しに可愛くなってくねぇ。こりゃ将来お母さんみたいなべっぴんさんになるぞ」
そうして町の人はKちゃんをとてもかわいがっていた。
そんなKちゃんだが、テレビで見た番組に影響されてか、今日はやる気に満ちている。
「Kちゃんもおつかいするの!」
Kちゃんは、心配するお母さんに見送られながら家を出た。
Kちゃんが向かうのは、八百屋である。八百屋までの道には、交通量は多くないものの、れっきとした信号と横断歩道がある。Kちゃんは左右を確認して、手を上げて渡ろうとし始めた。すると、横断歩道の向こう側にいたおじいさんが「Kちゃん、まだ赤だよ。チカチカするところが青色になったら行くんだよ」と言ってくれた。Kちゃんは手を上げたまま信号の色が変わるのを待った。青になり横断歩道を歩きはじめると、おじいさんに「こんにちは」とあいさつをする。おじいさんは「はいこんにちは」と笑顔で返してくれた。
信号を渡ったら横の道に入って、すぐに八百屋がある。さて八百屋で何を買うのだったか。
「すみませーん」
と、舌っ足らずにKちゃんが呼ぶと、店の奥からおばあさんが出てくる。
「こんにちはKちゃん。今日は何が欲しいのかな?」
おばあさんは優しく問いかけるが、Kちゃんは何も言わない。買うものが思い出せないのだろうか。
「おつかい?えらいねぇ。お母さんに何買って来てって言われたかな?」
「えっとね、あの、トマトなの、ころころしたやつ!」
「トマトねぇ、大きいトマトと小さいトマトがあるよ?」
「ちーさいの!」
「はい、ミニトマトね。一袋かな?」
「んっとね、ふたつ!」
「はい、二袋ね。二つで440円だよ」
「これでいい?」
Kちゃんは首から下げた財布から百円玉を一つ出した。当然これでは足りない。
「これじゃあ足りないねぇ。金色の大きい、穴の開いてないお金はある?それか、紙のお金」
「かみのおかねあるよ!」
「はい、1000円だね。おつりの560円だよ。落とさないようにお財布に入れてね」
Kちゃんは財布に三枚の硬貨を一つずつ入れていく。
「はい、そのリュックにトマトを入れればいいかな?」
「Kちゃんがいれるの!」
Kちゃんはリュックを地面に置いて、ミニトマトの袋を二つ入れた。リュックのチャックを閉めると、背負おうとしたが、地面にあるのでどう背負えばいいかわからないようだ。
「はいどうぞ」
八百屋のおばあさんがリュックを少し持ち上げてくれた。Kちゃんは無事、リュックを背負うことができた。
「ありがとーございました!」
「はいありがとう。これ、あげるね」
そういうと、八百屋のおばあさんは飴玉をKちゃんに渡した。
Kちゃんは家路についた。また信号があるが、今度はちゃんと青になってから左右を見て手を上げて渡った。
家では、お母さんが不安そうに待っていた。この町は治安こそいいが、迷子にならないとも限らないからだ。
「おかーさんただいまー!」
Kちゃんが帰ってきた。手には先ほど貰った飴玉がある。お母さんはKちゃんを笑顔で迎えた。
今日も町は平和だ。




