31 さよならフランチェスカ
フランチェスカ、あなたに似合う花を持ってきたわ。
そう言うと、私はフランチェスカのそばに真っ白な百合を置いた。笑顔で笑う彼女のようにぱあと咲いている。香りが周囲に広がる。
フランチェスカは私の従姉妹だった。おばは日本人だったが、おじがフランス人で、フランチェスカはクォーターの顔立ちをしている。私より少しだけ年上のフランチェスカは、会いに行くたびに私とよく遊んでくれた。頭もよく、私は数学なんかを教えてもらっていた。
フランチェスカは、一時期日本に住んでいた。おじさんの病気が悪化する前は、日本で私と同じ学校に通っていたのだ。おじさんの病気が悪化すると、故郷で療養した方がいいだろうということになり、フランチェスカ共々フランスに帰ってしまった。
それからはフランチェスカと会うことは減った。メールのやり取りはできたけれど、フランチェスカは多忙なようで、だんだんその頻度は減っていった。
それでも、私は機会がある度にフランスまで渡って彼女に会いに行った。フランチェスカは大人になってからはとても美しい女性になっていて、時折自分との差に苦しむこともあった。それでも、フランチェスカは私を可愛がってくれた。フランスから帰るときはいつだってカバンいっぱいにお土産を持たせてくれたりした。
フランチェスカは、フランス人の男性と結婚した。しかし、子供は生まれず、早世した父の写真が飾られた家で、母と共に三人で暮らしていると言っていた。
私は長期休暇を取得できた折、フランチェスカを訪ねることにした。フランチェスカの家は少し大きい街の郊外にあって、フランスには珍しく新築住宅だそうだ。それでも周囲の風景と馴染んでいるあたり、いい家だと思った。そこで数日過ごす予定だったのが、私が来て三日目、フランチェスカは倒れた。
フランチェスカはすぐに病院に運ばれたが、意識は戻らなかった。それでも私達は家に帰らなければならず、お見舞いの品を用意して向かうことにした。だが、意識が戻らないことには食べ物も食べられないので、私達は花はどうかと思って花屋に行った。
私は、フランチェスカが好きな花を、色を、何一つ知らなかった。おばさんに聞いたが、好きな花があった記憶はないと言われた。好きな色で統一してもよさそうだったが、その花屋はそこまで大きくなくて、おばさんが選んだものと旦那さんが選んだもののほかに、その色の花はなかった。
仕方なく、私はフランチェスカに似合う花を探した。力強くて、凛として綺麗で、フランチェスカのような。私は、百合の花を選んだ。
フランチェスカのいる病室には、およそ植物と言えるものはなかった。私は意識のないフランチェスカのそばに、椅子を二つ寄せた。おばさんと旦那さんがその椅子に座る。私は二人が買った花と私が買った花を花瓶に刺した。そして、フランチェスカのそばに置いた。早く目を覚ましてね、と願いながら。




