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27 主

 私はこのお屋敷のご主人様に仕える使用人でございます。明日、私は解雇されて故郷に帰ります。別に何かまずいことをしでかしたわけでもなければ、愛想をつかされたわけでもありません。ただ、ご主人様が亡くなられて、ご主人様に仕えていた使用人は一斉解雇された、というまでです。

 私がこのお屋敷にやってきたのは10代の頃、まだ世の中を知らない子供でございました。実家が貧しかったので、働きに出て仕送りをする必要がありました。特に病気の祖母のため、私は必死で働きました。最初こそ小さな失敗を積み重ねて、まあ一大事になりかけたこともございましたが、寛大なご主人様の下、私は今日までここでお勤めに励めたというわけです。

 ご主人様は古くから続く貴族の末裔でございましたが、子供には重責を負わせたくないと、希望する者はどんどん外に飛び立たせていくようなお方でした。一人だけ、三男の坊ちゃんは家を継ぎたいとおっしゃったので、ご主人様は老齢になった時分に家督を坊ちゃん…その頃には奥方様もいらっしゃる旦那様になっておりましたが、にお譲りになりました。

 家督を譲ってからのご主人様は別邸のお屋敷にいることも増えましたが、一部、私のようなものは別邸に連れてゆかず、別邸からの手紙を受け取る係などといたしました。それも希望者以外は早々に解雇して、ご主人様の周りの使用人はどんどん減ってゆきました。本邸には、旦那様の使用人が増えて、中にはご主人様から旦那様に仕える者を変えたという人もいました。

 私はご主人様からの手紙をより分け、使用人用の手紙を読む係でした。今の時分もう郵便物は配達ですから、住所の欄には美しい筆跡でそれが書かれましたが、明らかに侍従長の癖のある字です。ご主人様の字は癖がおありにはなるけれど、読みやすい癖なのです。美しさこそあれどやや読みづらい住所の字は、ご主人様のそれではありません。そのご主人様の筆跡も、晩年は弱弱しく小さくなっておりました。

 ご主人様はお自らが弱っているとわかったころからでしょう、使用人たちの”その後”の処遇についてを手紙に書き綴るようになりました。最期の月の給料は満額渡し、翌月支障がなければ使用人たちを各々が望むようにせよ、とのことでした。私は祖母もかなり前に亡くなっておりますし、自分自身いい歳ですので、故郷に帰ろうと思ったのです。

 さて、ご主人様がお亡くなりになった報せは、ある秋晴れの頃に訪れました。旦那様はそれはそれは深く悲しみになり、奥方様も優しかったご主人様のことを偲んでおられました。私は、ご主人様の数々の温情と業績を目にし耳にしてまいりましたことを思い出し、空を見上げました。

 ご主人様の葬儀には多くの使用人も参加しました。旦那様に続き、たくさんの使用人がご主人様の墓前に花を手向けたものですから、そこだけ春が訪れたように華やいでいました。たくさんの人が涙を流す、いい葬儀でございました。

 私は荷造りをして、使用人部屋を掃除し終えたところでございます。こんなにもいい環境でいいご主人様の下で働けたことは、どんなに感謝してもしきれません。いまでも涙が溢れそうなのです。

 さて、今日はもう寝る時間です。明日は着替えてから最後に寝間着を荷物に詰めて、そうしたらこのお屋敷を発ちます。私のお仕事はもう終わりなのです。

 ありがとうございました。

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