20 恋と涙
気がつくと、恋に落ちていた。頬を赤らめるようなものではなく、気がつけば目で追うような、微笑まれると微笑み返すような、そんな恋だった。
だから僕は君に伝えたんだ。大好きだと思ったから。君は微笑んで頷いてくれた。僕はその瞬間、勇気を出してよかったと心底思った。
君が頷いてくれたから、僕は君を守ると決めたんだ。僕は絶対に君を幸せにするんだ。それは僕じゃなきゃダメだ。
その思いは、早々に崩れてしまった。
君は泣きながら僕の元へやって来て、別れたいと告げた。僕を嫌いになったのかと聞けば、君は全然そんなことないと、むしろ好きになるばかりだと言う。じゃあなんで、と思った。
病気になっちゃった、治らないんだって、しかも進行が異常に早いって。
君は涙を流しながらそう告げる。君が流す涙のその一粒すらも惜しいと思えるのに、僕は何もできない。僕は君のそばに寄り添って、肩を抱くことしかできなかった。僕は悲しくて辛かった。けれどそれすらも君を苦しめるだけの感情だった。
君が走れなくなっても、君がペンを握れなくなっても、君が病院から出られなくなっても僕はメッセージを送り続けた。拙い恋愛をしていた僕らは、会うことすらできなくなった。
ある日、君は再び別れたいと言った。君は僕の将来を考えて、自分を過去にしてほしいと言った。僕を守るために、君は別れてほしいと言った。食事すらもう一人じゃ危ない君に、僕は何ができるだろうか。僕はゆっくりとしかメッセージを打てない君に、ゆっくり読めるように気を使いながら文章を打った。
君を永遠にしたい。君が僕の中で永遠になるなら、僕は独りぼっちでも構わない。君を忘れるくらいなら、そっちの方がいいんだ。僕をこれ以上苦しめないでくれ。君と会えない、君が消えてしまうだけでも辛いのに。
君は関係を続けることを許してくれた。それでも、いつか自分を過去にすることを望んでいたね。
僕は君が辛い時、一緒に辛い思いをしたいだなんて思っていた。君の辛さの片棒を担げたら、なんて。そんなことできないのに、一人辛くない思いはできないなんて思って、僕は勝手に背負っていた。
僕は一人で道化をしていただけかもしれない。それでも心はどんどん濁っていって、涙すら流せなくなっていた。
そうして、しばらく時が経って、君が死んだという知らせが入ってきた。君は遺書で、両親に僕との関係を書いていた。ご両親から連絡があって、僕は声を出して、声だけで悲しみを表した。涙なんて流せなかった。ご両親と少しだけ連絡を交わして、彼女の葬式には出れないことも分かっていて、僕は最後に、墓前に供えてほしい花の名前を言った。その後は彼女の遺言通り、履歴を消した。
僕はそれから、長い間涙を流せなかった。誰だったかに頑張ったねと言われるまで、僕はずっと一人で沈んでいた。久しぶりに涙を流した日、君のことを思い出した。君は最期、涙を流せたんだろうか。君が少しでも悲しいと思ったとき、それを抱え込まずに流せたんだろうか。君の中の悲しみを何かに変えることができたなら、涙を惜しいなんて思わなかったのにな。
僕は今、拙いけれど毎日を生きているよ。君のことを思い出さない日はない。君のために生きているよ。過去になんてしてやるもんか。だから、どうか、僕がそっちに行くまで穏やかに過ごしておくれ。




