140 プラモデル
大学の交流会で、いかにもなオタクと知り合った。俺は全然アニメとかも流行のものしか見ない奴だし、別に交流する意味もなかったけど、なんとなく流れでインスタを交換した。そもそもインスタをやっているのが以外で、こいつインスタやってんのかぁ、という顔をしながらそいつが準備するのを待っていた。
「はは、そんな顔しないでほしいですなぁ、拙者自作プラモを投稿するのが好きなんでござる。まあ見た目でヲタバレはしてるとして、拙者のプラモはなかなかの出来と自負しているので、ぜひ一瞥ください」
喋り方までいかにもだなぁ、とは思ったが、それは仕方ないだろう。他人のあれこれに口を出せるほどの偉さが俺にあるわけでもないし。
解散した後、なんとなくインスタを開いた。そこには武蔵丸…先ほど交換したあいつの投稿があった。
それは目を見張るほどの出来だった。まるでミニチュア…いや、本物がまるまる縮んだんじゃないかというほどのバイク、車、戦闘機。汚れ、光の当たり具合、背景、何から何まで完璧だ。親父の趣味のプラモなんて、それこそおもちゃみたいだ。おもちゃなんだからそれでいいんだろうが、なんだかぞわりとするほど興奮した。ああ、俺もこんなものを作ってみたい。
俺はその帰りに、プラモデル屋に寄った。いつもは田舎に住む親父向けに買ってるけど、今日は俺向けに。店員に初心者におすすめのプラモを聞いて、家に帰って早速作ることにした。
ペンチは安いやつ、やすりも1枚だけ布のやつを買った。それでパチンパチンと一番最初のパーツを切り離していく。残ったプラスチック部分をさりさりと削っていくと、意外と簡単にそれは消えた。
気がついたら夜9時になっていて、全然進んでいないことにびっくりした。まだパーツのいくつかを切り離しただけなのに。俺はとりあえず今切り離されているものをくっつけられるものはくっつけて、それ以外は失くさないようにジップロックに入れた。適当に作った飯を食いながら課題をある程度進めて、シャワーを浴びて布団に入った。気がついたら11時になっていた。
それから数日、時間を見つけてはプラモデルを作った。2週間ほどでようやくできたそれは、少し違和感があったが、俺は達成感のままにカーテンを背景に写真を撮り、インスタにアップした。その日はそのままにして布団にもぐった。
翌日、俺は後悔していた。あのあと数分も置かずに、武蔵丸のアカウントからすばらしいプラモデルの写真が送られてきたのだ。それも、俺が作っていたものと似たもの。背景も凝っている。俺はその投稿をまじまじと見て、俺の投稿のお粗末さに驚いてしまった。恥ずかしさが一気に込み上げ、俺は投稿を削除した。
そして、その日にまたあいつと会った。たまたま食堂で相席になっただけだったが、あいつは顔見知りがいると知って嬉々としてこちらに来たようにも思う。
「そういえば、昨日投稿されていた作品、どうして消してしまわれたので?」
「あー…お前の投稿見て、なんか恥ずかしくなったっつーか…ボロボロじゃんあんなの」
「あれはあなたの処女作では?」
「よくわかったな…初めて作ったからガタガタで」
そいつは深い深いため息を吐いた。それがなんだか残念そうで、俺は少しうろたえながら言った。
「なんだよ、別にいいだろ、うまいもん見れる方が」
「そうじゃないんすわ…いいですかな、一番というものは様々ありますが、一番いいものは更新できても一番最初は更新できないんですぞ。一番最初…初心というものは取り戻しがたい貴重な物なんでござる」
俺はその後に語られた彼の話をあまり覚えていない。だが、俺は今度は投稿を削除したことを後悔していた。昼食が終わり、教室で少し時間があったので、俺はあの写真を投稿し直すことにした。少し考えて、俺は一文をつけることにした。
『最高は更新できても最初は更新できないと友達に言われ、再度投稿しました』
すぐに武蔵丸からいいねがつけられた。そして『いい友達を持ちましたな!』と返信が来た。『お前のことだよ』と送り返すと、『某のことでしたかな!?友達とはいやはや嬉しい』と返信された。俺はふふっと笑った。