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隠された道

この2ヶ月間、新作ミステリーのプロット作成にかかっていました。

5話程度で完結する作品のプロットを2本、長篇のプロットを1本仕上げ、これから執筆に入る予定です。

 ジャイルズが示した場所へ到着すると、レイチェルはバハロスを下ろす。


「特に他と違うところはないね」と、真夏が周囲を見回しながら言った。

「街並みからすると商業区の跡地っぽいね」


 歩は廃墟の造りや軒先に吊るされている朽ちた木製の看板を見上げた。比較的低層の建造物が一本の長い通りを挟んで並んでいる様は、日本で見た商店街のようだった。


「ジャイルズ、ミズヌシの反応が消えた正確な場所ってわかるか?」

「ええと……ここかな?」


 ジャイルズは記憶を頼りに、地面に大きな亀裂が走っている場所へと移動した。

 永遠と歩が亀裂を慎重に覗き込む。


「地面が陥没してるね」

「ここも下に水路があるんだろうな」

「この広さならミズヌシの核が入り込むには十分だな」因幡が相対したミズヌシの中に見えた核を大きさを思い返しながら言った。

「ここがミズヌシが潜り込んだ場所だとしたら、冥樹の内部に繋がっているってことですよね?」


 杏樹がレイチェルを見やった。


「そうなりますね。問題はどうやって調べるか……」

「地面壊すのは駄目ですか?」


 歩が首を振った。


「駄目じゃないかなあ。リジーさんが言ってたでしょ。文化保存局のこと」

「根拠の薄い理由で建造物を故意に破壊して、実は間違いだったら絶対良い顔しないわね」と、晶葉も同意する。

「因幡、お前の触手を潜り込ませて探ることってできるか?」永遠が訊ねると、因幡は歩と同じ動作を返した。

「触手そのものに視覚や聴覚は備わっておらん。それに俺の体から一定の範囲内でしか使えん。奥まで探索するのは無理だな」

「うーん、どうしよっか」


 歩が困ったように首を捻った。

 そこへ真夏が一歩前へ歩み出た。


「どうやら私の出番みたいだね」

「真夏さん?」

「え、あんたどうにかできるの?」

「佐藤さんのスキルって『霧隠れ』でしょ?」


 皆が疑問を口にするのを見て、真夏は得意そうに笑った。


「私のスキルにはまだ皆に話していない特性があるんだよ」


 そう言うと真夏は両手から霧を生み出した。霧は真夏の意思に従って周囲に広がっていく。


「実はこの霧って私の感覚とリンクしていて、どこまで広がっているか、どういう形で広がっているかを感知することができるんだよ。だからたとえば、建物の中に霧を広げると、霧の広がり方から内部の構造を瞬時に把握するとかできるわけ」

「え、何それ。そんな凄い効果あったの?」

「感知系スキルの要素も持っていたんですか? もしかしてスキルを成長させて獲得した性質?」

「まあね。ただ霧を出して隠れるだけじゃ芸がないなと思って、霧と自分の感覚をリンクさせてみようかと思って試してみたらできたんだ。スキルの成長って予想していた以上に凄いよ」


 真夏は霧を消すと、自信たっぷりに言った。


「じゃあ、それを使えば……」

「うん、この中がどうなってるかもわかるはず」

「佐藤さん、お願いします」と、レイチェルが頼んだ。


 真夏は亀裂の前に屈むと、その上に手を翳し霧を下方へ送り込んだ。奥深くへと沈んだ霧は亀裂の奥に伸びる空間へと流れていく。


「どう?」

「結構奥まで続いてる。この形水道管かな?」


 真夏は霧の範囲を確かめながら冥樹へと目を向けた。


「そろそろ冥樹の元まで辿り着くけど……」


 永遠は緊張に心臓を高鳴らせながら、自らの憶測が的中していることを願った。

 それから数秒の後、真夏は目を大きく見開いた。


「佐藤さん?」杏樹が恐る恐る声をかける。


 真夏は永遠の顔を見つめる。そして、次の瞬間、歓喜に表情を綻ばせた。


「……大当たりだよ久住くん。霧が冥樹の中にまで伸びてる。あの中に本当に空間がある!」


 その言葉を聴いた全員が思わず沸き立った。


「マジで!」

「本当にあったんだ……」

「拙い憶測から真実に辿り着いたか」

「広さはどれくらいかわかりますか?」レイチェルは一人冷静さを保ち、真夏に訊ねた。

「あー……正確にはわからないですね。霧を広げるのも限界みたいです。それなりに広い空間なのは確かですけど」


 真夏は申し訳なさそうに答えたが、レイチェルは気にした様子はなかった。


「水路が繋がってるなら、どこか近くに出入口もあるはずです。探してみましょう」

「よし!」


 ここまで役に立てなかったローニャが、せめてこれくらいは頑張るとばかりに奮起した。真っ先に冥樹の表皮をぺたぺたと触りだした幼馴染の後にジャイルズも続いた。

 永遠たちも同じように冥樹を調べ始める。彼らはこれまで何度も冥樹を遠目に眺めていたが、直に触れるのはこれが初めてだった。天高く伸びる巨木という神々しさを感じさせる存在に触れる行為に、幾人かは罰当たりのような気分を抱いた。


「多分この辺りにあると思うんだけど」と、歩がきょきょろと辺りを見回しながら言った。

「ねえ、扉がどこかに隠されているなら、そこに少しくらい隙間もあるんじゃない? だったら、霧を中に潜り込ませられる場所を見つけられれば……」


 晶葉が思いつきを口にすると、真夏はその手があったかと感心した。


「成程、試してみる!」


 真夏は再び霧を生み出し、今度は冥樹の表皮を覆うようにして広げる。地面に沿うようにして横方向に移動する霧を、永遠たちは期待に満ちた目で眺めた。


「ここだ!」


 探し求めていた場所はすぐに見つかった。真夏が霧を冥樹に押しつけるように広げていたところ、奥に入り込める細長い隙間を発見したのだ。真夏は隙間の形を描くように霧を残す。永遠たちの前には、冥樹の表皮に四角形を描く霧が漂っていた。


「ここに扉なんてあったのか……」と、ジャイルズは信じられない気持ちを露わにした。


 扉のある位置は、周辺と比べて少し窪んでいる箇所だった。縦に三メートル、横に七メートル程の大きさで、ありふれた建物の扉というよりは工場の搬入口のようなイメージに近かった。


「ふむ、一見しただけでは扉があるようには思えんな」因幡が扉に触れながら言った。

「今まで誰も見つけられなかったなんて……しかも上層ならともかく、これまで何人もの探索者が出入りした三層にですよ?」


 レイチェルは溜息を吐いた。


「でも、どうやって開けるのかな? 鍵穴とかある?」


 ローニャが扉をじっくりと見つめた。ジャイルズが扉を押したり、横に横に引いたりしてみせるが、扉はうんともすんとも言わなかった。


「ひょっとすると魔力式の認証を突破しないと開かないのかもしれませんね。この迷宮にはそのタイプの防犯技術があちこちで用いられているんです。扉が隠されていたことからして、誰もが気軽に出入りしていい場所ではなかったでしょうから」と、レイチェルが答えた。

「どうやって開けりゃいいんだ? セシリーは絶対この中にいるのに……」


 ジャイルズは苛立ちのあまり、歯ぎしりする。

 そんな時、一二三が扉の前に立った。


「じゃあ、今度は僕の出番だね」

「お前が?」ジャイルズが不思議そうに一二三を見た。


 永遠ははっとした。


「ああ、そうか。一二三のスキルならいけるか?」

「そうですね。一二三くんならどんな扉であろうとも……」


 永遠と杏樹が納得している様子を見て、ジャイルズとローニャは揃って首を傾げた。

 二人の言葉の意味はすぐに明らかとなった。

 一二三が扉へ向けてゆっくりと手を翳す。彼の掌から魔力の光が漏れ出した。光は隠し扉へと吸い込まれていく。そして、先程はジャイルズの奮闘に何の反応も示さなかった扉が、呆気ないほど簡単に開いた。


「ほら、開いたよ」

「えええええ! 何したの今!」と、ローニャが素っ頓狂に叫んだ。

「まだ説明していなかったね。僕のスキル『開閉』は“開く”と“閉じる”という動作の制御を自在に行うことができる。対象が何であれ開いたり閉じたりできるものであれば、それは僕の支配下なんだよ」

「鍵がかかった扉や窓でも強制的に開錠して開けるのは反則だと思うわ。セキュリティが台無しよ」

「物理的に破壊するわけじゃないから、傍目にはどうやって開けたのかわからないんだよな」

「戦闘でも敵の瞼を強制的に閉じさせて視界を奪えるから、ホント使い勝手いいよね」


 晶葉を始めクラスメイトたちは、一二三のスキルの長所を次々に述べた。

 『開閉』は彼が説明した通り“開く”と“閉じる”という動作を行うものすべてが対象となり、生物、非生物の区別はつけない。そして、鍵や閂など動作の障害となるものが存在したとしても、それらの解除や排除もスキルの効果に含まれる。鍵のかかった扉や窓は鍵がかかっていない状態へ。閂を差した扉は閂が抜かれた状態へ。扉を壁の中に埋めても、壁が消滅する。たとえいかなる方法で開閉を阻んだとしても、一二三のスキルはその一切を無視してしまう。故に、クラスメイトの仁科荘介はこのスキルに“セキュリティ殺し”という異名をつけた。


「バハロスはぎりぎり入れる大きさですね」レイチェルはバハロスを屈ませて冥樹の内部へと足を踏み入れた。

「とはいえ、流石に大きく飛び回れるほどの広さはありませんね。連れていけるだけ良しとしましょう」

「僕も何かテイムしておけばよかったな」と、歩が残念そうな顔を見せた。

「今回は緊急だったし、時間がなかったから仕方ないだろ」


 永遠がフォローすると、歩は「まあそうだね」と呟いた。

 杏樹が『聖痕』を発動して、すぐにでも戦える準備を整えると振り返った。


「では、私が先導しますね。晶葉さんと因幡くんはフォローをお願いします」

「オッケー、任せて」

「不埒な輩が潜んでいたとしても手は届かせん。心配など無用だ」


 杏樹は壁に沿い、ゆっくりと歩を進める。扉の先には扉と同じ幅の通路が十メートルほど続いていた。不思議なことに通路には灯りがついていた。


「この灯りずっとついてるの?」と、真夏が疑問を口にする。

「魔力を含む物質に接続して、魔力を電気に変換する方式の電灯ですね。冥樹に直接接続しているんでしょう」


 レイチェルが周囲を観察しながら答えた。

 通路を抜けた先には、縦に長い円形の吹き抜けが彼らを出迎えた。シックな色合いの壁紙がくすんだ、黴臭い空間だ。


「ここは……何かの施設ですね。図書館のような雰囲気です」


 杏樹が吹き抜けを見上げながら言った。


「どこかの歴史あるお邸って感じもするね」

「埃っぽいけど外と違って崩れてはいないのは幸運だったね」


 一二三は荒れた様子のない室内を歩き回った。床はタイル張りで所々汚れがこびりついている。部分的に劣化して割れている箇所はあるが、ほとんどは損傷なく残っていた。


「何の施設かわかるような物はない?」

「書物が残されているな。読めばわかるやもしれんが、今は時間は惜しい」

「そうですね。非常に興味をそそられますが、まずはミズヌシ探しを優先しましょう。ジャイルズさん、ミズヌシの反応は感知できますか?」


 ジャイルズは『生命探知』を発動させるが、すぐに解除した。


「いや、駄目だな。ミズヌシどころか皆の反応すら感じられない」

「やはりこの空間は魔力濃度が高いのでしょうね。恐らく精密な魔法道具も使用不可だと思われます」

「私のスキルは問題なく使えるわね」と、晶葉が弾丸をいくつか生成してみせる。

「微細な魔力を感知したり操作したりする系統のスキルでなければ大きな影響はないと思います。『霧隠れ』や『開閉』も大丈夫でしょう」

「うん、大丈夫」

「僕も問題ないよ」


 真夏と一二三は、スキルが普段通り発動できることを確認した。


「それなら一先ず安心か」


 戦闘能力が激減する事態を避けられ、永遠はほっとした。


「見て。床や壁にミズヌシの痕跡が残ってる」


 歩が指差した床や壁には、ミズヌシの体を構成するゲルの一部が付着していたり、微かに湿っていたりした。その痕跡は部屋の先に見える別の通路へと続いている。


「これを辿ればミズヌシの元に辿り着けそうだな」

「では、編成はこのままで。水城さん、先行をお願いします」

「了解しました」


 杏樹は再び皆の前を行く。その後ろに仲間たちが続いた。

 歩は杏樹の背中を無言でじっと見つめていたが、すぐに後を追った。

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