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手掛かり

 王都の繁華街は、夜になると探索者が一斉に集まる。彼らの目当ては、探索者向けの飲食店や娼館だ。

 王都は迷宮に近い位置にあるため、昔から探索者相手の商売が盛んだった。命懸けで迷宮に挑み生還した者が喜びを分かち合いながら、脂身たっぷりの肉料理と艶やかな娼婦を求めて、街を練り歩く。そんな光景が長い間変わらず見られる場所だ。

 この傾向は、王家が迷宮探索に注力するようになってから、より一層強くなった。王家は探索者を客とする魔法道具の工房や商店、魔法道具の原材料となる植物の栽培などに多額の予算を投じ、産業の拡大を図った。二十年ほど前の話である。この時期からセレイア王国は“迷宮国家”と称され、迷宮から産出される魔力資源や加工品の輸出で経済を潤すようになった。国内最大の迷宮を擁する王都は、その恩恵を最も多く受けた地だ。故に、王都の繁華街は“探索者が一番生を謳歌する地”と云われている。


 迷宮の入場制限解除を明日に控えた夜、シーリア・ラングは顔見知りの探索者と繁華街の一角で言葉を交わしていた。


「いやあ、確かに妙な話ですよね。上層の探索者には探知系スキルを持つ人も多いのに、その人たちの目も誤魔化して下層に下りるなんて普通は考えられませんよ」

「原因について心当たりはありますか?」

「まったく。思いつきませんね」


 シーリアは、その日何度目になるか分からない溜息を吐いた。


「お時間をいただきありがとうございます」

「いえいえ。お仕事頑張ってください」


 男性探索者を見送った後、シーリアは建物の外壁に寄り掛かる。


(ミズヌシがどうやって三層までやって来たのか。やはり、そこが鍵になるわね。いくら狭い場所に入り込めるからって限度がある。人目に留まらないはずがない。しかし、実際に目撃したのは二人しかいない。それは何故か? この謎の答えが私たちがまだ知らない何かに繋がっているという予感がある。何か他に手掛かりはないの?)


 シーリアは調査が打ち切られた後も、独自に調査を続けていた。どうしてもミズヌシの消失に納得がいかなかったからだ。主任情報官のアナリス・コートはシーリアの自主性を尊重し、“業務外行為”を黙認していた。

 彼女の中には根拠のない確信が存在した。《悠久の城》の一同がこの世界に転移してきたその日から続く不自然な出来事の数々。今回の“住み替え”もその中の一つであると。他の件と同様に、ミズヌシの“住み替え”も不可解な点に覆われている事実が、シーリアの不安を駆り立てた。

 このままでは、取り返しのつかない事態になる。シーリアは口の中が乾燥する感覚に襲われた。


「よお、姐さん。浮かない顔してるねえ」


 シーリアが我に返ると、チェック柄の派手な服をだらしなく着た灰色の髪を持つ若い男が、彼女の眼前に立っていた。シーリアは彼が近づいてきていることに、まったく気づかなかった。


「オロス、何の用?」

「そんな嫌そうな顔するこたあねえだろ。俺はあんたの忠実な使い走りだぜ? 用があるから声かけたとは思わねえのか」

「あんたは用がない時でも声かけてくるでしょ」


 シーリアは仕事の場面では見せない粗雑な対応であしらった。


 オロス・ビーカンは、繁華街で“月見のオロス”という通り名で知られる遊び人だ。歳は二十代半ば。生まれも育ちも王都で、実家は高級家具の販売店を営んでいる。昔から勉強嫌い、運動嫌いで、暇さえあれば方々で遊び惚けては湯水のごとく金を使う。そんな有様を見続けた父親からとうとう勘当されたのが五年前。以来、オロスは繁華街に近い安アパートに部屋を借りて暮らしている。

 オロスは非常に人好きのする男だった。一人で酒を呑んでいる時、街を歩いている時、失恋して涙している時。オロスはそんな時にふらりと現れては、隣を占領する。彼は自分から進んで話題を提供するよりも、相手の話に相槌を打つのが巧かった。とぼけたような顔つきはとても真剣に話を聞いているようには思えない。しかし、そのぞんざいさが話し手にとって心地よかった。初めてオロスと会い、胡散臭そうに彼を見ていた人間は、気がつくと彼に心の奥深くから溢れ出る本音を垂れ流しているのが常だ。


 シーリアがオロスと出会ったのは、彼が勘当されてから僅か二日後のことだ。当時シーリアは、ある探索者クランの調査任務に当たっていた。セレイア王国では固く禁じられている魔力資源の密輸に関与している疑いが持ち上がったのだ。

 問題の探索者クランの素行を調べるべく、シーリアは彼らが行き着けていた酒場、娼館、賭博場を当たることにした。調査を開始して間もなく、彼女はターゲットが限りなく黒に近いと考えるようになった。彼らが頻繁に通う店に、異様な警備体制が敷かれていることを突き止めたのだ。探索者崩れの護衛が複数、その中にはスキル持ちも混ざっている。それは単なる高級店の警備にしては尋常と言わざるを得なかった。

 シーリアは当初『千里眼』で店の内部を探るつもりだったが諦めた。探知系スキルへの対策が為されていることを警戒したのだ。そこで彼女は、自分の代わりに店を調べてくれる人間を探した。直接店に乗り込んで、その場の人間から話を聞き出せる人物が必要だった。

 相手に疑われることなく、知恵が回り、かつ一定の信用を置ける人間。それらの条件に当てはまる人間を探した末に、見事秘密情報官のお眼鏡に適ったのがオロス・ビーカンであった。

 彼の交友関係は多岐に渡った。うだつの上がらない探索者にはじまり、娼婦、医者、大工、料理人、教師、船乗り、材木商、果ては貴族に銀行家と性別も年齢も社会的地位もばらばらの人間たちと、娯楽を通じて密接な関係を築いていた。オロスが彼らから仕入れた情報は、シーリアを大いに満足させた。彼女はオロスを得難い人材と認め、十分な額の報酬を与えると同時に、今後も彼の情報網を頼りたいことを伝えた。オロスの出した条件は「遊ぶ金に加えて、月に一本迷宮の魔力資源から造られた旨い酒を融通すること」だった。

 かくして、オロス・ビーカンはシーリア・ラング子飼いの密偵として、就職を果たしたのである。


「はー、冷たいこと言うねえ。あんたがミズヌシの件で駆けずり回ってるのを知ったから、ちょっくら手伝ってやろうと思ったってのに」


 シーリアの瞳孔が開かれた。


「……何か掴めたの?」

「掴めたってのはちょっと違うな。気になる話を耳にしただけだ」


 オロスは手招きして、細く暗い路地へ誘う。シーリアは一瞬周囲に視線を配り、後についていった。

 路地に他に誰もいないことを確認すると、オロスは話し出した。


「ラドリーとマフールって二人組の探索者を知ってるか?」


 シーリアは頷いた。


「ええ、知ってるわ。彼らが何か?」

「実はな、あの二人がコガネドリの羽を手に入れたらしいんだ」

「コガネドリの羽?」


 思わず素っ頓狂な声を上げたシーリアの顔を見て、オロスは笑った。


「あれ二十五層まで行かないと手に入らない代物でしょ。あの二人はまだそこまで到達してないわよ」

「らしいな。ところが、何故かは知らないが手に入れたらしい。それもあのミズヌシが目撃されたのと同じ日にだ」


 ミズヌシの名が出た瞬間、シーリアは間の抜けた顔を改めた。


「詳しく聞かせて」


 オロスは誰も聞き耳を立てていないと知りながら、敢えて声を潜めた。


「出所は俺の酒呑み友達だ。あの日の夜、そいつが一人で酒場に屯していた時にマフールがやって来て、その後でラドリーがガキを連れて来たそうだ。三人は何やら内緒話をしていたみたいだが、その途中でガキが突然コガネドリの名を叫んだ。それを聞き取ったダチは、奴等のことが気になったらしい。その後でガキが上機嫌で店を出た後、ラドリーとマフールは怪しげな顔で話し合っていたってよ」

「話の内容は?」

「断片的に聞き取れただけだと。“住み替え”とか“玩具屋”とか。そんでもって“迷宮管理局にチクる”なんて物騒な言葉も出てきたらしい」

「“玩具屋”はともかく、“住み替え”に“チクる”ね」


 シーリアの中で二人に対する疑念がむくむくと膨れ上がっていった。


「二人と一緒にいた子どもってのは、どんな奴なの?」

「それも調べはついてる。ジャイルズ・ブラックって問題児だ。何度か他の探索者と揉め事起こしてる。確か例の日にも噂の漂流者集団にやらかしたってな」

「ジャイルズ・ブラックね」


 《悠久の城》の専属職員を務めるシーリアは、白坂菖蒲から第四班が巻き込まれたトラブルについて報告を受けていた。彼女は既に、ジャイルズが過去に起こした問題行動についても把握していた。


「で、俺は話を聞いてすぐ馴染みの商人を当たって、ここ数日以内にコガネドリの羽が持ち込まれた話がないか探ってみたんだ。すると、ある高級素材専門店の下働きから羽を持ち込んだ二人組がいたって話が出てきやがった」

「それがラドリーとマフールの可能性が高いってわけね」

「もう少し調べてみると、あの日ラドリーとマフールは三層を中心に探索していたって証言も出てきた。てことは、あいつら三層でコガネドリを狩ったってことだよな? そして何故か同じ日にミズヌシも三層に現れてる。偶然の一致にしちゃ気になるだろ?」

「ええ……とても興味深いわ」


 シーリアは何度も首を縦に振った。


(つまり、“住み替え”をしていたのはミズヌシだけじゃなかった。ラドリーとマフールはその事実を知っていたのに隠していた。獲物を横取りされるのを恐れたから? それとも――)


 シーリアはポケットから硬貨を数枚取り出すと、オロスの手に握らせた。


「とても参考になったわ。私は明日の朝一で二人を当たってみる。他に何か分かったら、すぐに教えて」

「毎度」


 オロスはウインクすると、にかっと歯を見せて笑った。




「ラドリーとマフールですか? あいつらなら迷宮に行きましたよ。制限が解除されたらすぐに行くって話してました」


 翌朝、ラドリーとマフールが共同生活を送る低層探索者向けのアパートへ足を運んだシーリアは、隣の部屋に住む探索者からそう告げられた。


「出遅れたか」


 シーリアは小さく舌打ちした。

 隣人の探索者に二、三の質問をして詳しい事情を知らないことを確認したシーリアは気持ちを切り替えると、今度はジャイルズ・ブラックたちが住む貸家へと向かった。


「ああ、あの子たちなら朝早くに迷宮に行きましたよ」


 貸家の道を挟んだ向かいに建つ雑貨店の女主人もまた、シーリアに残念な結果をもたらした。だが、シーリアはまだ諦めなかった。


「もしかして、あの三人の他にも誰かいませんでした? 男性の二人組とか」

「ええ、いました。初めて見る顔だったので意外だなと思ったんです。あの三人が他の誰かと一緒に迷宮に行くなんて今までなかったものですから」


 ラドリーとマフールに違いない、とシーリアは確信した。


「迷宮に行くことについて、何か話していませんでした? ここ最近の様子でも構いませんが……」

「そういえばジャイルズは珍しく意気揚々としていましたね。普段はむすっとしていることが多いのに。でも、詳しいことは知らないんです。妙に機嫌が良かったとしか」


 シーリアは機嫌の良さの理由について心当たりがあった。コガネドリの羽だ。オロスの友人が酒場で三人を見た時、彼らはコガネドリを狩りに行く相談をしていたのではないか?

 女主人が「そうだ」と声を上げた。


「セシリーとローニャの友達なら何か知っているかもしれません」

「友達?」

「四、五人ほどの女の子たちと、昨日一緒にライラード公園の出し物を見に行っていました。確か――その内の一人がアンジュと呼ばれていましたね」


 シーリアは思わずはっとして動きを止めた。


「教えてくれてありがとうございます!」


 彼女は慌てて礼を述べると、その場を後にした。次の行き先は《守護者の家》だった。スキル持ち特有の身体能力で待ちを駆け抜けたシーリアは、一直線に目的地へと向かった。

 《守護者の家》の敷地内に入ったシーリアは、中庭へ続く小道にいる久住永遠を目に留めた。


「シーリアさん? どうしました、そんなに慌てて」

「水城さんはいますか?」

「はい、中に……」

「すぐに呼んでください!」


 有無を言わせぬという気迫に圧された永遠は、すぐに杏樹を呼びに行った。

 一分後、杏樹が永遠に連れられて本館から出てきた。


「水城さん、昨日セシリー・ブランドンとローニャ・メルネスの二人と会っていたそうですね?」

「は、はい。ライラード公園で真夏さんが歌を披露するので、一緒に観ようと」

「その時、彼女たちは今日迷宮に行くことについて何か話しましたか? 具体的には、二人組の先輩探索者と一緒に行くとか」

「ええ、ラドリーさんとマフールさんでしたっけ? 緑さんの班が会ったらしいですね」

「そう、その二人のことです。実はその二人について知りたくて……二人について気になる話とか聞いてません?」


 杏樹は考え込んだ。


「えっと、セシリーさんはその二人のことをあまり良く思っていなかったみたいです。自分たちに声をかけたのは裏があるんじゃないかと疑っていました」

「その理由は?」

「問題を起こしたジャイルズさんがいるのに、引き込もうとするのは変だと言っていました」


 そこで杏樹はちらちらとシーリアの表情を窺った。


「あの、何かあったんですか?」


 シーリアは一瞬事情を説明すべきか迷ったが、すぐに決断した。今自分がやっているのは非公式の調査に過ぎない。個人的に気になった事実について調べているだけだと言い訳した。


「実は、例の“住み替え”の件にまだ不審な点がいくつかあるんです。それについてあの二人が何か重要な事実を知っている可能性が浮上したので問い質しに行こうとしたんですが、もう迷宮に向かったそうで……ジャイルズ・ブラックのグループと一緒だというので、水城さんたちが何か聞いていないか確かめに来たんです」

「“住み替え”? あれはもう解決したんじゃないんですか?」


 永遠の言葉は、シーリアによって否定された。


「確かな根拠はありませんが、私はまだ解決してないと思っています。水城さん、些細なことでも構いません。変な話をセシリーさんかローニャさんから聞かされていませんか?」


 シーリアの深刻そうな顔を見て、杏樹は徐々に不安が胸の内を浸食していく感覚に囚われた。彼女は生唾を呑んだ。


「あ……」


 その時、永遠の脳裏に、昨日淡路祐希が口にした言葉が蘇った。


「その二人のことなら……」

「久住くん、何か知っているんですか?」

「いや、知っているというか要領を得ない話なんですけど、実は――」


 永遠は祐希の警告について語った。話を聞き終えたシーリアは、訝し気に目を細めた。


「根っからの(ワル)? 淡路さんはそう言ったんですか?」

「俺たちもどういう意味か訊こうと思ったけど、そのままどっか行っちゃって……」

「夜もどこかに出掛けてしまって居所が掴めなかったんです。今朝も早くにここを出て、まだ帰っていません」


 祐希は《守護者の家》に移って以来、夜な夜などこかへ出掛ける習慣があった。白坂菖蒲とデリア・サイレムには一言断っているらしく、あまり遅くならないことを条件に許可を得ていた。祐希は外出の理由を「スキルを有効活用する手段を模索するため」と説明していたが。詳細は明かさなかった。クラスメイトとまったく交流がないため、誰も彼女の動きに関心を持たず、彼女はいつでも自由に行動していた。それ故に、居所を掴もうとしてもうまくいかなかった。


 シーリアは考えた。


(どうする? ラドリーとマフールが“住み替え”に関係しているかは不明瞭。コガネドリの羽を持ち込んだのは、ミズヌシとは関係のない話かもしれない。それでも――私の勘は関係があると言っている。ジャイルズたちを誘ったことも、答えに繋がるピースの一つに違いないわ。ジャイルズのスキルは『生命探知』。魔物の位置を把握できる……もしかして、もう一度コガネドリを狩りに行くつもり? ジャイルズがいれば効率的に進められるでしょうね。でも――もし、そのコガネドリの“住み替え”がミズヌシのそれと関連があったら? 迷宮管理局に何かをバラされることを恐れていたのは、その“住み替え”に何かからくり(・・・・)があるから? それがミズヌシが現れた原因でもあり、二人が利益を優先して隠匿していたとしたら?)


 そこまで考えてシーリアは最悪の可能性に思い至った。今日、ラドリーとマフールが再びコガネドリを狩ろうと計画しているのであれば。それがミズヌシの“住み替え”と関係しているのであれば。

 今日(・・)またミズヌシが出現す(・・・・・・・・・・)ることもあり得るので(・・・・・・・・・・)はないか(・・・・)


あああ


「……今、ここに残っている人たちはどのくらいいますか?」


 杏樹は一瞬質問の意図が掴めなかった。


「ええと、ほとんど出払ってますね。皆休日のつもりで予定を立ててたみたいで……」


 シーリアは、永遠と杏樹に向き直った。


「久住くん、水城さん。これは迷宮管理局からの正式な依頼ではなく、私個人の我儘に過ぎません。ですが、よければ是非聞き届けていただきたい。今から人を集めて私と一緒に迷宮へ行ってほしいんです」


 永遠は驚愕の声を上げた。


「え! 今からですか? それにシーリアさんも一緒って――」

「私のスキルは人探しに適していますから。今は何より時間が惜しいんです」

「でも――」


 永遠が食い下がろうとしたところを、杏樹が遮った。彼女は今が一刻を争う事態だと判断した。


「分かりました。戦える人は多い方がいいですか?」

「いえ、今回は隠れたり逃げたりするのが得意な人の方が好ましいですね。戦闘は極力回避する方針でいきます。ああ、でも人数が多すぎるのも困りますね。移動手段の当てはあるんですが……そうですね、私も含めて八人くらいが限度かと」

「隠れるならやはり真夏さんですね。逃げるのは穂菊さんが得意ですが、緑さんと出掛けていますし……」


 敵から隠れることについては佐藤真夏の『霧隠れ』が最適だった。湧井穂菊のスキルは敵から逃げることに役立つことで知られていたが、彼女は出払っている面子の一人だった。


 永遠はそこでふと気づいた。


「なあ、四班の連中は全員残ってなかった?」


 そう言われて、杏樹は《守護者の家》に残っている面々の顔を思い出す。


「私と久住くん、帆足くん、真夏さん、晶葉さん、一二三くん、因幡くん……確かに全員いますね」

「このメンバーのスキルって戦闘や敵の妨害、身を隠すとか、得意分野のバランスがとれてるよな? それに前に探索した時に連携は確認できているし、急ごしらえのチームよりやりやすいんじゃないか?」


 杏樹は考える。一定の範囲内に限られるが姿を隠せる真夏。敵の拘束ができる因幡。魔物を使役できる歩。肉体を強化できる永遠と杏樹、それに遠距離からの攻撃が可能な晶葉。また、一二三護のスキルは応用の範囲が広く、調査において役立つこと場面がある。

 杏樹は検討した末に、悪くないと結論を下した。人数もシーリアが提示した範囲内に収まっている。


「そうですね……それが思います。すぐに呼びましょう」


 永遠と杏樹は迅速に行動した。幸いにも五人はすぐに見つかる場所にいた。真夏と晶葉はレクリエーションルームに、因幡は図書室に、歩と一二三は寮の自室にいた。事情を説明すると、彼らは嫌な顔一つすることなく迷宮へ挑む準備を開始した。


 十五分後、本館の前には呼び集めた五人が揃っていた。

 晶葉は溜息を吐いた。


「聞いたわよ。セシリーたちが面倒事に巻き込まれてるかもしれないって?」

「嫌な予感はしてたんだよねえ……」


 真夏がやはりと言いたげな顔で応じた。


「いつ訓練が再開してもいいように準備していたのは幸いだったね。いつでも行けるよ」

「僕は現地で魔物をテイムできれば頭数を増やせるから、人手に関しては問題ないと思うよ」


 一二三と歩も準備ができていることを伝える。永遠は歩の現状が気になって仕方なかったが、今は言及しないことにした。因幡は離れた場所で腕を組み、歩の横顔を観察していた。

 本館の中から、杏樹が小走りで出てきた。


「猫田さんに事情を説明してきました。出ている皆さんが帰ってきたら、代わりに伝えてくれるそうです」

「シーリアさんは?」


 真夏は、いると聞いていたシーリアの姿がどこにもないことを不思議に思った。


「皆を呼びに行く時に、すぐに戻るからって外に出た。なんでも船じゃ迷宮へ行くのに時間がかかるから、別の移動手段を用意するって言ってたけど……」

「ふむ、そいつはあれのことか?」


 黙っていた因幡が、空を見上げながら口を開いた。皆が釣られて同じように見上げ、そして目を見開いた。

 彼らの頭上に巨大な影が覆いかぶさる。彼らのいる場所だけに雲がかかったように暗くなった。影は彼らの頭上を通り過ぎると、そのまま《守護者の家》の敷地内の中庭へ向かうと、地上に降り立った。


 鳥だ。永遠たちの何倍もの大きさの巨鳥が、草の上に堂々と佇んでいる。その鳥の背中に、彼らは見覚えある顔を二つ見つけた。


「お待たせしました。これが足です」


 シーリアがそう言うと、彼女の前に座る《青嵐》のレイチェル・ハンターが自慢げに笑った。

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