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絆クエスト:因幡七曜①

 第四班は入口から北北西に続く通路を進んでいく。両側には小ぢんまりとした建物がいくつも並んでいて、まるで日本の商店街を思わせる外観だ。リジーによれば実際に商店の跡地らしい。過去に発見された資料によれば食料品店や衣料品店、診療所、酒場などが開かれていたという。永遠は今はもう人の賑わいのない通りをきょろきょろと見回した。


「久住くん、どうかしたのかい? 周りが気になるようだけど」


 一二三が静かに訊ねてくる。胸の内を見透かすような瞳の色に一瞬気圧されつつ、永遠は答えた。


「ああ。廃墟ってわりには原型を留めている建物が多いなと思って」


 永遠は廃墟の多くが予想していたより壊れていないことに気づいた。住民が消えて久しい街であれば、もっと荒れているのではないかと考えたのだ。

 リジーが答えた。


「そこは文化保存局の苦労の賜物ね」

「文化保存局?」


 永遠は聞き覚えのない単語に首を傾げた。


「文化保存局は遺跡や発掘された遺物の保護、保全を手掛ける国の機関よ。業務の性質上、迷宮管理局とのかかわりも深いわ。この迷宮は元は“冥樹の民”が暮らしていた都市だから文化保全の対象になってるの。だから、定期的に修復系のスキル持ちが出入りして、元の状態を保つようにしているの。魔物との戦いでどうしても壊れる部分は出てきちゃうから」

「あー、そういうのあるんだ。確かにこういう場所って本来は観光名所とかになる所だよね」


 真夏は納得したように言った。この迷宮が平穏な場所であれば、恐らく大勢の観光客がひしめく様が見られただろうと考える。


「文化保存局はここの調査をいくつかの大手クランに委託してるの。《狐火》も《青嵐》もその中に入っているわ。《悠久の城》も実績を重ねれば、いずれ話が来るかもしれないわよ。大勢のスキル持ちってことで注目されてるから」

「そういう国からの依頼って、やっぱりお金になるの?」


 晶葉が興味深そうに訊ねると、リジーは笑った。


「勿論よ。国の依頼は前金でたんまり貰えるし、成功報酬も物凄い額よ。今の王家は《メイリム都市迷宮》の全容解明に注力しているから、金を出し惜しみしないの。特に第三王子のリステル様はこの迷宮の研究者としても名が通っていて、一番精力的に活動しているわ。あんたたちも会う機会があるかもしれないわね」


 王族も絡んでると知り、永遠たちは驚きに満ちた顔を並べた。


「はえー、王族も注目してるんだー」

「もし会うことになったらどうしよっか。無礼討ちとかならないよね?」

「心配しなくても礼儀作法でうるさく言うような人じゃないわよ。本人も探索者として活動した経験があるから、私たちとは距離感近いしね」


 真夏が心配した様子を見せると、第三王子と面識のあるリジーが安心させるように言った。


(第三王子か。どんな人なんだろう……)


 永遠は未知の第三王子について考える。王族でありながら探索者でもあり研究者でもある人物。一体どのような人間か想像するには材料が不足していた。リジーの様子からして好感を持てる人物であるのは確かなようだ。


「もし、国から一目置かれるとなれば一気に有名人の仲間入りよ。お金だけじゃなくて名誉も手に入れたいならそれが近道ね。ま、そういうのは一握りの才能ある奴だけの特権だけど。それか物凄く運の良い奴」

「リジーさんもその中の一人というわけですね」


 杏樹が水を向けると、リジーは胸を張った。


「そういうわけね。ちなみに、私は歴代最年少でクランを設立した探索者で、《狐火》は歴代最短で国内の探索者クラン上位十位以内に登り詰めた記録を持っているのよ。時代の筆頭を走るとまで云われたのよ。遠慮なく崇めていいわ」

「それだけできるのに幼馴染を射止めることはできなかったんですか?」

「終いにゃ泣くわよ」


 真夏が残酷な事実を突きつけると、リジーは表情を消した。


 そんな和気藹々とした会話を繰り広げていると、今まで会話に参加せずに黙していた因幡が唐突に口を開いた。


「……確か、《累月》はこの迷宮で多くの発見をした功績で名を馳せたと耳にしたが」


 皆が一斉に最後尾を歩く因幡を振り返った。因幡は視線の集中を受けても動じた様子はなく、回答を待つようにリジーを見つめていた。


「そうよ。既に知っていると思うけど、この迷宮の攻略が大きく進んだのは《累月》のお陰。そして、その過程で様々な歴史的、文化的発見をして、国から叙勲されたの。デリア・サイレムは三回くらい叙勲されてるはずよ」

「本当に凄い人なんですね、デリアさんって……」

「そんな人を管理人として雇ってるのよね……」


 杏樹は感嘆し、晶葉はそのような大人物が雇われ管理人という立場で《悠久の城》のクランハウスに常駐している事実に身震いした。

 因幡は続けて言った。


「ふむ、ならば俺も何か大きな功績を残せば名を残すことができるのか?」

「あら、あんた名声が欲しいクチ?」

「当然だ。誰の目にも明らかな偉業を成し遂げ、この因幡七曜の存在を遍く知らしめる。そうして、この世界の歴史に名を刻み込む。それこそが俺の野望よ。迷宮の謎を解き明かすことでそれが為せるならば、俺もその道を往くだけのこと」


 それは因幡にしては珍しく力強い言葉だった。普段の彼は勿体ぶった言い回しが多く、仰々しい振る舞いが多い人間だ。シンプルさを好む桜庭剛毅や、胡乱な人間を嫌う蜂須賀藍など一部の生徒からの評価は低く、しかしそれを気にせず気儘に生きているような印象があった。だが、今の彼の言葉には強固で明確な意思が含まれていた。それはまるで仮面の下の素顔が垣間見えたような感覚だった。


 歩が訊ねた。


「因幡って有名になりたいの?」

「有名になりたいのではない。名を残したい(・・・・・・)のだ」


 永遠は眉を寄せた。


(どう違うんだ……?)


 永遠には因幡が訂正したことにどんな意味があるのか分からなかった。名を残すのであれば、それは有名になることと同義ではないのか。そのような疑問が脳裏に浮かぶ。


 リジーは因幡の決意を馬鹿にした様子もなく、真剣な表情で言った。


「そう。じゃあ努力しなさい。けれど、何か功績を残したいならもっと上層を目指すことね。下層は粗方調べつくされて文献一つ残ってないから、このあたりをうろうろしたところで何の成果も得られないわよ。精々雑魚相手に技の練習をするくらいね」


 因幡は溜息を吐いた。


「承知している。だが、ままならんものよ……」

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