実地訓練・班決め
「さて、これよりメンバーを六つの班に分ける」
場が落ち着くと、ミラはいくつもの細長い紙切れが束ねられている容器を取り出した。
「班決めは公平にくじで決めよう。スキルによっては非戦闘系が一つの班に偏ることもあり得るが、低層の魔物相手なら落ち着いて戦えば問題ない。私たちもついているから安心しろ」
「今回俺たちが教えるのは迷宮探索の基礎だ。迷宮の構造把握、周囲への警戒、体調や物資の管理、魔物との戦い方のセオリー。押さえておくべきポイントを数日に分けて教える予定だ」
「これから決める班は今日から実地訓練が終了するまで共に行動することになる。分かっていると思うが、無用な諍いは起こすなよ」
ライアック夫妻が話を終えると、マイアがミラから容器を受け取り生徒たちの方へ向き直る。
「それじゃ、運命のくじ引き行ってみよー!」
生徒たちはマイアが差し出したくじを順番に引いていく。彼らはその結果に一喜一憂し、やがてそれぞれの班が形作られていった。
第一班
担当:ミラ・バルトハイム
班員:大嶽光三郎、京極進一、陶山千紘、図師心、星加天麗、松永匠、若松羅紋
「よろしく星加さん。君が一緒なら心強いな」
「おう、私もお前がいてほっとしたよ」
陶山千紘と星加天麗は、慣れた相手がいることで気分は安定していた。
「ぱっと見た感じバランスは悪くなさそうかな」
「よろしくな皆」
大嶽光三郎は厳つい顔に安堵の笑みを浮かべ、若松羅紋は普段通りの陽気な空気を纏わせる。
「……どうも、よろしく」
「私は戦闘で楽できそうだなー」
「これは当たり班かな? ま、程々に頑張ろうかね」
人付き合いがほとんどない京極進一は言葉少なく頭を下げる。彼の態度を気にした者は特にいなかった。非戦闘系のスキルを持つ図師心は頼れる仲間がいることを喜び、松永匠も気を楽にしていた。
第二班
担当:ライアック・バルトハイム
班員:織田晴臣、加藤鳩乃、桜庭剛毅、東海林翼、椿雪成、弦巻梓、蜂須賀藍
「ライアックさんの班か。いろいろためになる話聞けないかな」
「迷宮の中の植物をじっくり観察できる機会があればいいな」
織田晴臣は王都の有力者であるクランマスターが引率する班に分けられ、心なしか胸が弾んでいる。加藤鳩乃は迷宮内に自生する植物に興味津々だ。
「桜庭くんは大丈夫ですか~? 宝田くんと図師さんと離れ離れになって心細いんじゃ……」
「俺は別にあいつらとつるんでるわけじゃねえっての! 何でセットみたいに認識してんだよ!」
「それ今更すぎない?」
「三点セット扱いされてますよね」
東海林翼は桜庭剛毅に慰めるような言葉をかけたが、当の本人は余計なお世話と言わんばかりだ。椿雪成と弦巻梓は呆れたように彼を見つめていた。
そんな最中、軍人気質の蜂須賀藍は黙り込んでいた。
「……」
「どうしたの蜂須賀さん? 珍しく元気ないね。こういうイベントにはやる気見せる方だと思ってたけど」
「ひょっとして具合でも悪いんですか?」
椿と梓は藍の様子に気づき、藍に声をかけた。藍ははっとすると弁解するように手を振った。
「あ、いや、そういうわけではない。その、ちょっとした個人的事情だ。足は引っ張らないからどうか気にしないでくれ」
藍はそう言って顔を背ける。彼女にしては珍しく不審な態度だった。椿と梓は顔を見合わせた。
(やはりこうなったか……恐らく大丈夫とは思うが)
そう考えながら、藍はこっそり溜息を吐いた。
第三班
担当:リオ・ヘイドン
班員:白坂菖蒲、淡路祐希、小太刀李、祖父江信宏、中村紺太、夏目緑、望月玄衛
《悠久の城》の医務を司る小太刀李は『診療所』の扉を閉じると、班員のいる方を振り返った。
「医療品の準備は完璧です。『診療所』の内部にすべて揃っています」
その言葉に夏目緑、中村紺太、望月玄衛は安心する。
「今回は大怪我をするような事態にはならないと思いますが、あれば安心できますね」
「転ばぬ先の何とやらってやつッスよ!」
「俺のカードも使えそうなのが何枚かあるから、いざという時は頼りにしていいぞ」
「今回の実地訓練でどれだけ魔力資源を稼げるか。『マーケット』の検証もまだ終わってないからな……」
祖父江信宏の関心は訓練の成否よりも魔力資源をどれだけ獲得できるのかに移っていた。『マーケット』をより成長させるためにもスキルの仕様を早急に熟知する必要があると、彼は判断していた。
一方、淡路祐希は彼らから離れた場所に一人立っていた。担任の白坂菖蒲が警戒心を抱かせないようにゆっくりと近寄る。
「淡路さん、緊張していませんか?」
「……別に」
菖蒲は適当な話題を振ってみるが、素っ気ない返答がぶつけられるだけだった。
祐希は露骨に嫌そうな表情を浮かべ、菖蒲から距離をとる。菖蒲はそれを困ったように見つめるしかなかった。
第四班
担当:リジー・フォックス
班員:因幡七曜、久住永遠、佐藤真夏、一二三護、帆足歩、水城杏樹、竜晶葉
「いつもの面子から三人も入ってるな」
「仲が良い人が多いと、あまり付き合いのない人と連携を深めるという趣旨に反する気もしますが……」
「いーのいーの。やりやすいのが一番」
久住永遠と水城杏樹は苦笑し、帆足歩は楽天的に言った。
竜晶葉も歩に同意する。
「そうそう、私も杏樹がいて助かったわ。穂菊も緑も別の班になっちゃったし、遠慮なく頼らせてもらうわね。その代わり私にも存分に頼っていいわよ。張り切っていきましょう!」
「はい、晶葉さんもよろしくお願いします」
因幡七曜は顔を掌で覆い、妖しい笑みを浮かべた。
「くくく……第四の円卓に集いし勇士たちよ。我らの覇道はここより紡がれる。今日この日の出来事はいずれ遠い刻の果てに消え去るが、しかし今は輝かしい生の一端として焼きつくだろう」
「物凄くわくわくしてるから、早く探索始まらないかなってことだね!」
佐藤真夏は因幡の意図を瞬時に理解した。ここ最近因幡が話す仰々しい言葉の意味は、多くのクラスメイトが理解できるようになっていた。いい加減慣れたとも言える。
「なかなか活発で愉快な班みたいだね。僕は少々場違いかな」
一二三護は物語の登場人物のような独特の個性のある風貌の少年だ。中性的で成長すれば美男子になること請け合いだと、以前に小松茶々が言っていたのを永遠は思い出した。
「えー。つれないこと言わないで一二三も混ざろうよー」
「ごめんね。僕はこういう空気が得意じゃないから」
一二三はただ穏やかに微笑む。その表情に屈託は見られなかった。
第五班
担当:アルスタイン・ホーク
班員:卜部希海、仁科荘介、猫田真琴、黛大刹、森重秋音、吉田志津、湧井穂菊
「マイアさんの班に行きたかった……」
「今度はマイアさん狙ってる。切り替え早いなあ」
「落ち込んだままよりはええじゃろう」
仁科荘介はマイアが引率する第六班へ分けられなかったことを残念に思い、卜部希海と黛大刹は先程まで打ちひしがれた彼の立ち直りの速さに呆れ半分で感心していた。スポーツを得意とする希海と黛は身体を思いきり動かせる状況に、少しばかり胸を躍らせていた。
「この私がいるからにはどんとこいですわ。森重秋音の真価をお見せしましょう」
「寮の迷宮では全然駄目だったけどね!」
「私の『奉仕』もお役に立てるでしょう。遠慮なさらず頼ってください」
森重秋音は自信満々だが、旧寮迷宮で彼女の醜態を目にした吉田志津には不安しかない。その隣では、猫田真琴が泰然自若としながら油断なく臨む気でいた。彼女にとってこの訓練は理想の男性を生み出す道程の障害の一つでしかなかった。
「うう、緊張してきた。うまくやって行けるか心配……」
「私もフォローするから頑張って」
湧井穂菊は特に仲の良い友人がいないことで、心細くなりつつあった。希海はそんな彼女に励ましの言葉をかける。穂菊は杏樹と晶葉のいる第四班へ未練がましい視線を投げていた。
第六班
担当:マイア・ドリネス
班員:稲荷貴恵、黒崎勇人、樹神透、小松茶々、宝田三雄、徳山真帆
「前回の迷宮では因幡くんと黛くんに任せてばかりでまったく活躍できませんでした。今回は良いところ見せたいですね」
「心配無用! アタシも手貸すから肩の力抜いて行こう~」
「オタクに優しいギャルは実在した……!」
「そろそろお料理以外でもええとこ見せんとなあ」
宝田三雄が小松茶々の無償の優しさに感激する。普段は真琴と一緒に台所を任されている徳山真帆は、迷宮探索にやる気を見せていた。
稲荷貴恵が彼らを見ながら、肩をすくめる。
「まったく呑気な奴等だね。引率ありとはいえ死ぬかもしれない危険な場所に行くっていうのに」
「おや、稲荷さんにしては随分真面目な意見ですね。どういう心境の変化でしょう?」
樹神透が内心を見透かそうとするかのようにじっと見つめると、貴恵は鼻を鳴らした。
「私はいつだって真剣でいるつもりだよ。あんたこそ普段でかい口叩いてるんだから、ちょっとは役に立ちなよ」
「おっと、期待されているならしっかり応えなければいけませんね」
樹神は道化じみた身振りで返す。貴恵はそれに対して何も言わず、再び宝田たちの方へと顔を向けた。
黒崎勇人はそんな二人の遣り取りを見つめていた。
(稲荷が不安材料かと思っていたけど今回は心配ないかな。揉め事の原因は少ないに越したことはないからね)
黒崎はにこにこと柔和な笑みを貼りつけながら、冷静に班の内情を分析した。
十分後、港から一行を乗せたリオの船が出航した。
目的地は《メイリム都市迷宮》。
一年四組にとって約一月ぶりに訪れるこの世界最初の地である。




